第57話 冒険者登録の実技訓練②「レオンの苦悩と師匠の言葉」
「はい。昨日広場で行われたローグライト卿の剣の腕前を見て、とても感動いたしました。僕もローグライト卿のように強くなりたいのです」
「ふむふむ」
すると突然、レオンはテーブルに頭が付くくらい深々と頭を下げた。彼の後ろに束ねたサラサラの金髪が、テーブルの上に降り注ぐ。
「どうかこのレオン・マリティスを、ローグライト卿の弟子にしていただけませんか」
◇◆◇◆◇◆◇◆
ルシア隊長の後ろで見ていたガリオは、プライドが高そうなレオンが頭を深く下げているのを見て、内心驚いていた。
隣にいるジョシュアのほうは、ジロジロと鋭い目つきでレオンを観察している。
「……なるほど。お話は分かりました」
ルシア隊長は紅茶を一口飲むと、背後に立つジョシュアに目配せをする。
すると、ルシア隊長の視線の意味をくみ取ったジョシュアは、少しホッとした表情を浮かべて無言でコクッと頷いた。
「レオンさん、どうか頭を上げてください」
ジョシュアの言葉を聞いたレオンが、テーブルから頭を上げた。その目は期待に満ちている。
しかし、ルシア隊長の視線はカップの中に向いており、レオンのほうを全く見ていなかった。
怪訝そうな顔をするレオンに、冷静な態度のジョシュアが言葉を続ける。
「レオンさん。申し訳ありませんが、あなたの申し出をお受けすることはできません」
「な、なぜですか」
「ルシア隊長は大変お忙しいお方なのです。ローグライト子爵として領地でのお役目もあれば、王国軍での任務もあるのですよ」
「……ローグライト卿」
レオンはすがるような目でルシア隊長を見るが、彼は黙って肩をすくめるだけだった。
「レオンさん。ルシア隊長の剣術を習いたいのなら、王都にある落葉突貫流の道場を訪ねてみては? もしかしたら、このオルソの街にも道場があるかもしれませんよ」
「……それはできません」
レオンは、悔しそうに下を俯き、テーブルの上の両手をグッと握りしめている。
「……僕は、呪いの精霊に憑りつかれています。そのせいで、まともな精霊と契約もできず、これまで苦しい生活を強いられてきました。学校にもほとんど通えず、剣術の道場に行っても、門前払いされるだけです」
「えッ!」
思わずガリオが驚きの声を上げるが、すぐにその口を慌てて両手で塞いだ。
彼が白色のクラスに属しているのは知っていたが、まさか呪いの精霊に憑りつかれているとは思わなかったからだ。
案の定、レオンがガリオのほうを睨んでいる。
この西の王国では、呪いの精霊に憑りつかれてしまった人への風当たりは厳しかった。
『パイク・モリソン事件』に然り、実際に呪いの精霊が原因とされる暴力事件などが、過去に数件発生している。
人々は何をしでかすか分からない呪いの精霊に、見えない恐怖を感じていたのだった。
しかし、彼の告白を聞いたルシア隊長の反応は、他の3人が予想していなかったものだった。
「へえ、それは奇遇ですね。ここにいるガリオ君も、精霊と契約できないっていう珍しい体質の冒険者なんですよ」
「───ッ!」
「る、ルシア隊長ッ!」
レオンの両目が大きく見開く。一方のガリオも、まさか自分の体質のことをここでバラされると思っていなかったので、少し慌てていた。
そんな二人の反応を、ルシア隊長はニヤニヤと面白そうに見ている。
「ガリオ君も、相当苦労したんじゃないですか?」
レオンやルシア隊長からまじまじと見られて、ガリオは自分の頭をポリポリとかくと、ハーッと大きくため息を吐いた。
そして彼は、昔のことを思い返すように、視線を天井に向ける。
「俺は生まれつき精霊に嫌われるという体質らしくて、子どもの頃は大分いじめられましたよ。そのせいで、精霊にも近づけない精霊アレルギーなってしまいましたけどね」
苦笑するガリオを、レオンは戸惑ったような視線で見ていた。しかし、その視線も次第に睨むようなものに変わってくる。
「……結局、あなたは冒険者レベル2のままだ。でも、僕は違う。僕はもっと強くなる。強くならなきゃいけないんだ」
机の上に置いた両手で、ギュッと拳を作るレオン。
彼の真っ直ぐな視線を受けて、ガリオは一瞬だけ背筋にゾゾッと寒気が走った。
(───な、何だッ!)
ガリオは、いつも精霊から感じるような強烈なプレッシャーを、レオンから発せられるのを感じて驚いた。
見た目からは、彼のほうに何か変わった所は見られない。
ルシア隊長の細い目がうっすら開いて、ガリオを睨むレオンの様子を窺っていた。
「私は精霊がいなかったことなんて無いので、君たち二人の気持ちは分かりません」
ルシア隊長は紅茶の香りを楽しむように、足を組んでゆっくりとカップの傾けた。
それを聞いたレオンが、悲し気に顔を伏せる。
「ただ、それでも強くなろうとする君のそのがむしゃらな姿勢は、素直に評価できます」
そしてルシア隊長は、カチャリとカップを受け皿において、ニヤリと口の端を吊り上げる。
そんな上司の表情を見て、ジョシュアが右手で頭を抱えていた。
「残念ながら、私は君の剣術の面倒を見る時間も無いし、そもそもやる気がありません。だけど、レオン君。君はとても運が良いですよ」
ルシア隊長が何を言いたいのか分かっていないレオンは、怪訝そうな顔をする。
ガリオも楽しそうに話す彼を後ろから見ていて、だんだんを嫌な予感がしてきた。
そして、その予感はすぐに的中する。
「ここにいるガリオ君の剣術の腕は、私も買っていますし、白魔法のほうも目を見張るものがあります。もしレオン君が本気で強くなりたいと思っているのなら、ガリオ君の持つ強さも学んだらいいんじゃないでしょうか」
(うあッ! やっぱりッ!)
まさか自分に振られるとは思っていなかったガリオは、言葉に詰まってしまった。
一方の驚いた表情でガリオのほうを見ていたレオンの視線が、次第にジト目になってくる。
「ガリオ、さんですか」
「そうそう。昨日の広場での光景は、レオン君も見ていたんでしょう? 契約精霊がいない君なら、ガリオ君の凄さも分かったはずですよね」
「え、ええ……それは、そうですが……」
どうやら彼は、ルシア隊長の提案に少々不満があるようだ。
彼の態度に疑問を抱きながらも、ガリオは過去の自分とレオンの姿を重ねる。
当時、剣術も白魔法も何も知らなかった自分が、ヤギュウ師匠と彼のパーティに出会ったことで、真っ暗だった人生に希望の光が見えた。その後に、あんな未来が待っていたとしても───
ガリオの脳裏に、出会った頃のヤギュウ師匠の言葉が蘇る。
「もし───」
「えッ?」
ガリオの真剣な眼差しを見て、レオンの顔に一瞬怯えたような影が走る。
ルシア隊長は二人の表情の変化を見ながら、静かに事の成り行きを見守っていた。
「───もし、君がくそったれな人生にケリをつけたいなら、俺がその手助けをしてやるよ……出来るかもしれない」
次話は、明日の夕方5時に投稿します。
第58話 冒険者登録の実技訓練③「ルシア隊長の思惑とレオンの不満」
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