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第111話 生き残りを賭けた戦い④「最後の賭け」

「勝負には負けましたが、この戦いには勝たせてもらいます」

「なッ!」


 すぐ近くにいた主水精(ドミニオン)アプサラスの半透明の体が()けると、大量の水に変化し、巨大な水柱(みずばしら)となって一瞬でガリオを閉じ込める。

 そして、6人の軍団長や屋敷を取り囲んでいた兵士たち、そして彼らの契約精霊から、様々な精霊魔法が一斉(いっせい)に放たれたのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


(ティフォーネッ!)

(ガリオ様ッ!)


 数えきれないほどの精霊魔法が、水柱(みずばしら)の中に(とら)らえられたガリオに着弾(ちゃくだん)しようとした瞬間、空から一筋(ひとすじ)の白い光が落雷(らくらい)のように降ってきて、そして───


 ドオオオオオオオオオ───ッ!


 目を開けていられないほどの閃光(せんこう)闇夜(やみよ)(しず)む森を()らし、その爆発音(ばくはつおん)は王都で酒盛(さかも)りを楽しむ人たちの耳にまで届いていた。

 (すさ)まじい衝撃波(しょうげきは)が中庭にいたケイル王子と第1軍団の兵士たちを(おそ)うが、それぞれの契約精霊がシールドを()って契約者を守っている。


 光が(おさ)まると、目の前の爆心地(ばくしんち)には大きな土煙(つちけむり)がもうもうと立ち()めていた。中庭に面していた屋敷の窓ガラスは全て(くだ)け散り、周辺の草木も()ぎ倒されている。


「やったか……」


 誰かの(つぶや)く声がケイル王子の耳に届く。すると彼の隣に、上空にいた風の四大精霊(セラフィム)アネモネが音もなく()い降りた。


「倒したか?」

「いいえ、まだです」


 アネモネがサッと魔法の杖を()ると、猛烈(もうれつ)な風が吹いて土煙(つちけむり)を押し流す。そして、その場にいる全員が目を見張(みは)った。

 爆心地の中心には、無傷(むきず)のガリオとティフォーネが立っていたからだ。ガリオは彼女の肩に、ティフォーネは彼の腰に手を回して()()っている。


 ───風の四大精霊(セラフィム)ジャンナ様が二人ッ!

 ───い、いや、向こうのほうは少し(おさな)いみたいだッ!


 風の四大精霊(セラフィム)ジャンナにそっくりの美少女の姿をした精霊(せいれい)を見て、第1軍団の兵士たちに動揺(どうよう)が広がっていった。6人の軍団長の中にも、戸惑(とまど)いの表情を浮かべる者がいる。


 ケイル王子はフンッと鼻を鳴らすと、右腕をガリオたちのほうに伸ばし、大声を()り上げる。


「姿かたちに(まど)わされるなッ! あやつらは人間の(てき)、4精霊の敵だッ! ここで(のが)がせば、我が国の歴史上最大の汚点(おてん)となるであろうッ! (すみ)やかに抹殺(まっさつ)せよッ!」

「「「はッ!」」」


 兵士たちは声を(そろ)えて返事をすると、再度(さいど)長槍をガリオたちに向ける。彼らの背後には、召喚(しょうかん)された契約精霊がズラリと並んでいた。


「ガーッハッハッハッ!」


 突然、中庭に大柄(おおがら)な第4軍団長が笑い声が(ひび)いた。そして森の中から、空を見上げるほどの巨大な人影(ひとかげ)がゆっくりと立ち上がる。

 精霊界の階級(かいきゅう)で第2位の位階(いかい)(ぞく)する、智土精(ケルビム)鉄の巨人(きょじん)ギガース。

 その巨人の姿をした精霊は、全身を鉄のような(よろい)(おお)い、(つか)の部分が(つえ)のように長い巨大なハンマーを右腕に持っている。


 (やみ)の精霊の軍勢(ぐんぜい)から西の王国の国境(こっきょう)守護(しゅご)する第4軍団の長ガレノス・ドートレス。

 智土精(ケルビム)鉄の巨人ギガースを契約精霊とする彼は、王国軍における最高戦力(さいこうせんりょく)なのである。


「ガリオ、お前相当(そうとう)ケイル殿下(でんか)(きら)われているんだなッ! お前一人のためにこれほどの戦力が投入(とうにゅう)されるなんて、とんでもないことだぞッ! 何やらかしたらこうなるんだッ! ガーッハッハッハッ!」


 (こし)に手を当てて大笑いしている第4軍団長に、ケイル王子が「チッ」と舌打ちをする。


「僕の個人的な事情(じじょう)などではない。あやつらは、4精霊を(おび)かす存在になるやもしれんのだ。ここで()()んでおかないと、我が国は後々(のちのち)世界中からの笑い者になるぞ」

「おお、それは失礼しました」


 第4軍団長は上機嫌(じょうきげん)そうに巨大な槍斧(ハルバード)を頭上でグルグル振り回すと、矛先(ほこさき)をピタリとガリオたちに向けた。


「我こそは第4軍団の長ガレノス・ドートレスッ! またの名を『(おお)いなる剛腕(ごうわん)』ガレノスッ! ここから生きて帰れるとは思わんことだッ!」


 耳をつんざくような威勢(いせい)のいい名乗りに、ガリオは体がビリビリと(ふる)えるほどの威圧感(いあつかん)を覚えた。

 ガリオはこの戦場から逃亡(とうぼう)する可能性を模索(もさく)するが、大きなクレーターの中心に立つ自分たちは、すでに多くの兵士たちとその契約精霊に包囲(ほうい)されている。

 唯一(ゆいいつ)上空だけは誰もいないが、風の四大精霊(セラフィム)アネモネと智土精(ケルビム)鉄の巨人ギガースが(だま)って見逃すはずも無かった。


 隣には頼もしい契約精霊(ティフォーネ)がいるが、いくら彼女でも一人でこの包囲網(ほういもう)をどうにかできると思えなかった。

 彼の(ひたい)に冷や汗がにじむ。


「て、ティフォーネ……」

「しょうがありませんね」


 ティフォーネは周囲をグルッを見回すと、フーッと小さなため息をつく。

 まさか彼女からそんな(あきら)めの言葉が出るとは思ってもみなかったガリオは、ギョッとして隣に顔を向けた。

 そこには、何故(なぜ)かティフォーネが(いや)そうな顔をして、彼の左手の小指に()まっている漆黒(しっこく)の魔石の乗った指輪(ゆびわ)をジッと見ているのだった。


「ガリオ様」

「お、おう」

「その魔石の指輪に……キスをしてください」

「……え?」


(キャハハハッ!)


 その瞬間───ガリオはどこかから女の子の甲高(かんだか)い笑い声が聞こえたような気がして、ゾクッと背筋(せすじ)(こお)ったのだった。

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