第六話
風呂から出ると、「これで身体を拭いて」と大きな布を渡された。
オレの背丈と同じくらいの厚手の布。
それで身体を拭いていると、今までになかったくらい身体が軽い。
いつも薄っすら感じていた気持ち悪さもなくなっていた。
「あと、これ。服も汚れてたから洗っておくって。代わりにワタシの貸すから」
足の先まで拭いた後に渡されたのは服。
突然の事に動けないでいると、そのまま自分の服を着直していた女がこちらを向き直す。
「ほら、早く。下着は新品だし」
女は急かすように手を動かす。
その勢いに圧されて着替えを始める。
女の背がオレより高い分だけ丈が長く感じるシャツを身に着けて、ズボンはオレの尻尾に合わせて女がハサミで穴を空けたものを履いた。
上下が揃った後は大きな鏡のある洗面台の前に誘導される。
カチリと音が聞こえると、女が手に持っていた物の先から温風が出始めた。
「乾かさないと、風邪ひくからね」
ブオーッと音を鳴らしながらのその温風が頭にかかて、初めての感覚につい目を瞑る。
そこに女の手が乗せられて、またワシワシワシワシと動かされる。
風呂場で髪の毛を洗う時より優しく、でも、そこに髪の毛を広げるような豪快な動きも混ざる。
そうしていくと髪の毛が乾いていき、 やがてもう一度カチリと音がして、ブオーブオーと元気よく頭の周りを包んでいた音が消えて温風も止まり、「よし、こんなもんか」と女の声がした後に目を開いた。
「あー、まだまだ。次は髪を梳かさないと」
もう一度、女の手が頭に伸びる。
左手は頭に右手には櫛。
半月型の変わった物で、持ち手には金細工の模様が付いている。
それで頭の天辺から先の先まで髪の毛を梳かされた。
スルスル、シュルシュルと、鏡越しに見えている前髪から自分では見えない後髪まで全部が塊の一つもなく解けていくのが分かる。
梳かされる音も櫛の先端がちょっとだけ皮膚に当たる感触も気持ちがいい。
櫛は頭を何周もしてやがて去って行き、鏡に映った自分の姿を見てみる。
髪は乾ききってふんわりと見た目にもキラキラしていた。
頭は重さを感じなくて片手を伸ばして触ると想像以上の柔らかな感触が伝わる。
それは昔には家にあった上等の布を思い出すようだった。
◇
オレが髪の毛の感触を確かめていると女も髪を乾かし終わり、二人で風呂場から出入口までの通路に出る。
そこに鈴の音が鳴った。
オレ達よりも前に男が居て出入口に向かう。
男は何故か玄関横の四角い置物をじっと見て、その後にこちらに振り向いた。
「どうやら助けが来たみたいだ」
男は軽く笑って出入口の戸を開く。
戸がスーッと男の手で外側に動くと同時にオレの目に映った者とその動き。
それはダイアンが握り拳を作る姿で、次の瞬間にはダイアンの腰の入った拳がゴスッと決まった。
男の股座に。
男はそのまま膝を曲げてその場にうずくまり、その背中は震えて動く。
ダイアンは戸を更に勢い良く開いて、未だ立ち上がりそうな様子はない男の横へと来る。
「逃げよう!」
そしてダイアンの叫びが響いたが、オレはどうすればいいか分からずに後ろを振り向く。
そこには女もまた唖然としてその場に立ち尽くしていた……。




