二日目─その三
夜は宿泊部屋の本を色々と読んでいた。
この塔の事を考え始めると止まらず、別の事へと意識を向ける事を目的にして。
それでもどこか気持ちが落ち着かず、それなら身体を動かすかと塔内を歩く事にした。
地下と屋上へ行く事は止められているので、まずは1階に降りて地下への階段を目にした所でその場から離れる。
そこから上階へと向かって行き、屋上に続くドアを確認したらすぐに降りて、足音を立てないように歩いていた頃、近くの一つの部屋で話し声がした。
研究室がいくつかあって、その内の一つだと聞いた場所だ。
「マスターの意思は理解できますよ。けれども、彼に今そうしてしまうのは……」
助手さんの声。
そこに在るのは否定と懇願。
その中で何よりオレを捉えて離さなかったのは”彼”の部分。
今、この塔にいるのは魔導士と助手とオレだけ。
オレの事を差していると考えるのが自然だ。
「君だったら放っておけるのかい?」
「それを言い切るのは無理ですよ」
「だったら!」
「彼はいつか知ることになるかもしれない。しかし、それはマスターからではなくていいはずです。その時になったら……」
「その時って何時になる?僕らにとってもこんな機会が訪れる事なんてそうはない。彼の方から来てくれたんだ。この機会を逃すわけにはいかない」
「マスター、お願いします。今回は見なかった事にしてください……」
「君がそこまで言うのか……」
会話は続く。
オレは一度だけ息を呑み、まだ二人が会話に集中している内にその場を離れた。
何も怖いとも思わずに歩いていた頭が今は冷え切っていた。
二人に気づかれぬよう物音を立てないように精神を集中し寝室にまで移動して、緊張の面持ちのまま布団にもぐり込んでから、ようやく息を大きく吐いた。
そして、先程の話を思い返す。
何の話をしていた?
オレの話には違いないはずだ。
けれども、それは何の事だ。
二人に共通してオレの何かを気にしている。
周りとは違うもの、オレが持つもの、それは一つしかないじゃないか。
同類なのではと疑いをかけていた魔導士だけでなく、その助手もまた気付いていたのか。
オレは勝手に一人だけに注目すればいいと思っていたが、実は二人共そういう事だったのだろうか。
オレと気楽に話をしながら、実の所二人してオレの事を探っていたのか?
考える程に厚い布団の内の身体が冷たくなっていき、その眠れない夜が終わる事はなかった……。




