二日目─その一
目覚めて着替えを終えるとダイニングに向かった。
テーブルには目玉焼きをおかずに白米と茶色い汁が付けられた見事な朝食セット。
昨日の夕飯は家で食べる物と大して変わらなかった所からのこれだ。
目玉焼きはそりゃ食べるし、白米だって無いわけじゃない。
家じゃまず食べないが流通はあるし、外食すれば食えるものだ。
しかし、残りの一つである”ドウミテモミソシル”はインパクトあるなあ……。
いや、でも、見た目と違って味は違うかもしれないし……と啜ってみれば、やはり味噌汁。
出汁は効いていて味噌味は色程は濃くなくてと、ここはもう少し濃い方が好みだなぁ……って、冷静に味の判断してどうする。
「これは……」
「小魚を干した物を煮出した汁に豆を発酵させた調味料を溶いてあるんだ」
「その調味料っていうのは何て物です?」
「名前は俺も豆ペーストとしか聞いていないな。この辺だと珍しいかもしれないけど、故郷の味を懐かしんでこちらでも作っている他国からやってきた人達がいてさ。付き合いがあって少し融通してもらってるんだ」
名前は分からなかったが、どうやら味噌に似た食文化が世界のどこかにあるのは分かった。
食べようと思えばこの世界でもこんな朝食ができるのかと、その出会いに感謝もしながら汁を更に啜る。
「美味い?参考にしたいから素直な感想をどうぞ」
「美味しいですよ。個人的には後少し濃さが欲しいですね」
「俺もそれは思ってた。でも、ペーストを増やすだけだと辛いというか、これが難しいんだよな」
悩む仕草をしながら助手さんがオレの前方に置いたのは、黒くねっとりしてそうな物が入っているガラス瓶だ。
「これは豆ペーストと一緒に買った海藻を甘く煮たやつなんだけど、食べる?」
「あ、はい」
何だか分からないけど、流れで肯定してしまっていた。
「白米と一緒に食うといいよ」の言葉と共に小皿に置かれたそれに対し異論はなかった。
これは合うんですよ、ご飯に合うんですよってものだ。
言われた通りに白米に乗せて食べれば、やはりご飯のお供ランキング上位に入る美味さだ。
「な、合うよな」
「合います」
「美味しそうに食べるねえ」
意見を一致しあうオレと助手さんの傍らに残されていた一人は白米に何も乗せずにいた。
「先生は食べないんですか?」
「僕はいいんだ」
「正確に言うと、白米の時には食べないが正解。マスターはこれをパンに塗るんだよな」
「パンにですかっ」
思わずちょっと声が大きく出てしまった所で助手さんがニヤリと笑う。
「ほら、やっぱり驚くものですよ。初めて食べた味でも、これは白米用だって分かるんですよ」
「別に白米限定と決められたわけじゃないし。ユーリ君だってパンに付けたら合うと思うかもしれないじゃないか」
パンか~。
いや、食パンに塗り塗りする人もいるとは聞いた記憶あるけど、オレは白米だけでいい……。
「ほら、渋い顔して、想像でも「無いな」ってものになってるじゃないですか」
「えー、そうなの?」
テーブルの左右に座る二人がオレを見る。
これは返答を強く求められている、分かれる意見の多数決を任されている。
「オレとしてはパンに塗るのも有りかな~と。自分では食べなくても、そういうのがあってもとは……」
「そうだよ、そう。それでいいんだよ。助手君のように自分に合わないからって、万人にとってあり得ない物として扱うのは駄目なんだよ」
「そうは言われても、俺にとってはそういう存在ですよ」
オレの答えに勢いを蘇らせたパン派と譲れない考えを示す白米原理主義派。
そんな盛り上がる食卓の中でふと思う。
オレ、何しに来たんだっけ。
若き大魔導士の元で学習するはずだったのに不思議な空間が広がっている。
年上の兄ちゃん達に挟まれて朝飯食ってる。
ここに来るまでに想像していた姿は欠片もなく、テーブルを見ると懐かしい気にさせる物で占められる。
何だかこの塔だけ別世界、異世界。
男三人でノリの佃煮の在り方について語るこの場に夢を見ているような感覚を覚えながら、オレは飯を口に含んでいくしかなかった。




