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 「そんな……山が……ダンジョンが飛ぶなんて……」


 突きつけられた現実を受け止められず、四つん這いのまま呻くポポン。

 リィンはその横で、ポケットからタバコを取り出した。剣の鞘でマッチを擦り、着いた火をタバコへ移す。

 ポポンが恨めしそうに横目で睨む。


「……相棒が現実に打ちのめされてる時に、何のんきに一服してるのよ」

「これに見覚えないか?」

「……あっ!風虫タバコ!」


 リィンは無言で頷き、ぷかりと紫煙をくゆらせた。煙はしばしリィンの周囲を漂うと、糸を引くようにダンジョンの奥へと流れ始めた。

 煙はゆらめきながら、ほのかに発光している。


「なにこれ!不思議〜!」

「風吹虫という極小の虫がいる。新鮮な風を餌にして生きる虫で、彼らは風が吹かない時期になると葉っぱ裏に留まり仮死状態になってやり過ごす」

「ふむふむ」

「その風吹虫たっぷりの葉っぱで作られたのが風虫タバコだ。着火すると熱に驚いた風吹虫が動き出す。彼らは周囲の空気ごと移動するから、煙が生き物のように動いて見えるってわけだ」

「なるほどねー。……光ってるのは?」

「風吹虫が互いに教え合っているんだ。こっちが外だぞー、急げー、ってな具合にな」

「虫はどっちが外かわかってるの?」

「わかっているわけじゃない。だが、彼らにとってダンジョンのような密閉された空間は最大の脅威だ。感覚や能力を総動員して命がけで出口を探すから、その精度は非常に高い」

「ってことは、この煙についていけば外へ出られる可能性が高い?」

「そういうこと。ま、虫は出られるが人間は出られないサイズの穴に案内されちまうこともあるが」


 ポポンはすぐそこにある石壁を見上げた。


「ここが入り口だよね?……逆に行ってるけど」

「ああ。彼らはここが最短の脱出路ではない、と判断したようだな」


 リィンは火を消し、吸い殻をポケットに押し込んだ。


「行こう。今の俺達よりはあてになる」

「確かにそうだね」


 二人は煙を追って、通路を進み始めた。

 相変わらずクリーチャーは現れない。

 違うのは、常に揺れる足元だけだ。

 揺れは最初のものに比べればわずかだが、時折グラリと傾くように揺れる。

 そのため、二人は慎重に歩を進めざるを得なかった。

 通路を進み、先程折り返した地点を過ぎ、更に通路を進み。

 やがて、大きな部屋に出た。

 ポポンが部屋の光景を見て、首を傾げる。


「ほんと、変なダンジョン。岩がゴロゴロしてる」


 彼女の言う通り、大部屋の中は岩でいっぱいだった。ヒッポグリフサイズの大岩が部屋中に転がっていて、部屋が広さの割に狭く感じる。


「……リィン」

「なんだ」

「これって、ダンジョンではよく見る光景なの?」

「いや、見たことないな。……なんでそんなこと聞く?」

「『妙だ』って言わないから。いつも言うじゃん。さっきも言ってたし」

「いや、十分妙だぞ?ただ、頭っから妙なことだらけだったから、経験則で判断するスイッチを切った」

「……器用ね」


 二人は岩を避けつつ、蛇行しながら奥へと歩いた。

 そして大部屋の入り口の反対側まできたのだが、出口は見当たらない。

 風虫タバコの煙も、大部屋の天井を漂っている。


「ふむ」


 リィンは側にあった大岩を、トッ、トッ、と駆け上がった。そして高くなった視点から、大部屋を見渡す。


「よいしょっ……と。何か見落としてた?」


 ポポンも大岩をよじ登ってきた。


「いや。部屋の壁に出口らしきものはなさそうだ」

「岩のせいで死角多いね。床に隠し階段があるとか?」

「ありうるな。その線でいくか」


 そうして二人が岩から下りようとしたとき。


「わわ!」「くっ!」


 乗っている大岩がグラリと揺れた。


「またなのー!?」


 ポポンが大岩に手足を広げてへばりつく。


「違う!見ろ!」


 屈み込んだリィンが指差す。

 ポポンが視線を上げると。


「……岩がひとりでに動いてる!」


 部屋の中の岩という岩が、意思が宿ったかのように動き出していた。床を滑る岩は右へ左へ不規則に、しかもかなりのスピードで動き、互いにぶつかり合っている。


「岩系クリーチャー!?」

「……いや、衝突でどんどん割れてる!おそらく破砕罠(クラッシャー)だ!」

「私達も砕かれちゃうの!?そんなのやだー!」

「砕かれたい奴なんているか!――ぶつかるぞっ!」


 リィンの叫んだ直後に、二人が乗った岩が他の岩と衝突した。投げ出されそうになりながら、必死に耐える。


「あ……割れる!割れちゃう!」


 乗った岩に大きなヒビが入る。


「また来たぞ!」


 再びの衝突。

 衝突面が粉々に砕け、残った岩も半分に割れる。ポポンがしがみついていたのはちょうど分かれ目の部分だった。

 両手両足でふんばるが、それでも割れ目にずり落ちていくポポン。


「はわわ……」

「掴まれ、ポポン!」


 リィンはポポンの手を掴み、力任せに引き上げた。


「あ、危なかった。ありが――」

「――礼は後だ。集中しろ」

「ん!」


 二人は目を皿のようにして、動く岩を追う。


「……ぶつからなくなった?」

「デカイのからぶつかってるようだな。不規則に見えて法則性はあるようだ」

「岩をだんだん小さくする仕組みってこと?じゃあ小さくなった岩は……」


 ポポンが改めて部屋を見回すと、風虫タバコの煙が目に入った。煙は天井を漂うのをやめ、ポポンの後方へと流れている。


「あっ、あれ!」


 ポポンが後方の壁を指差した。

 そこには先程まではなかった穴があり、小さくなった岩はそこへ流れている。


「あの穴を通れる大きさになったら、部屋の外へ流れ出ていくわけか」

「タイミング見て、走る?」

「岩が速すぎる。下りた瞬間にはねられるのがオチだ」


 リィンは忙しく動く岩の中で、穴を通れそうなものを探した。


「あれだ!十分に小さく、形も飛び移りやすい」

「飛び移り……ええっ!飛び移るの!?」

「もう穴に向かってる。すれ違いざまに飛び移るぞ」

「ムリムリムリ!速いし小さいし!」

「いいから!」

「リィンはよくても私はムリー!」

「チッ!仕方ねえな!」

「きゃっ!」


 リィンはポポンを抱き上げ、そのまま宙に飛び出した。空中を数歩歩き、目標の岩に着地する。


「もう!飛ぶ前にカウントとかしてよー!」

「へいへい。次はそうするよ」


 二人を乗せた小さな岩が穴へと入る。

 穴の奥は大部屋に入る前と同じような通路で、円筒状の空間が奥へ奥へと続いている。


「……どこまで行くんだろ」

「さあ、な」


 岩はスピードこそ緩んだが、止まる様子はない。

 前にも後ろにも似たような岩があって、通路の奥へ流れていく。

 風虫タバコの煙も同様だ。

 リィンは小さな岩の上で、器用に寝転がった。


「ま、小休止としよう。このまま勝手に出口へ送ってくれるなら楽だ」

「そうね。確かに」


 ポポンもゴロリと横になり、流れていく天井を眺めることにした。


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