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「すぴー」

「おい」

「すぴぴ……」

「ポポン」

「すぴっ!……すぴー」

「起きろ、ポポン!」

「はひっ!?」


 ポポンが飛び起きる。

 すぐ横には、リィンの呆れ顔があった。


「お前、よくダンジョンで寝れるな。感心するよ」

「流れる天井眺めてたらつい、ウトウトしちゃった」

「ウトウトって……熟睡してたぞ?」

「どのくらい寝てた?」

「小一時間」

「うわー」


 ポポンは辺りを見回した。

 そこは小さな岩の上で、円筒状の通路を流れている。

 ただ少しだけ、様子が変わっていた。


「なんだかゴツゴツしてきたね」

「ああ」


 今までも通路の表面はぼこぼことしていたが、今は更に荒くなっていた。ポポンの言った「ゴツゴツ」がぴったりの状況だ。


「おお?なに、あの石像!」


 ポポンが指差したのは、鹿の胸像。

 通路の壁から、肩から先だけの石の鹿が突き出ている。

 横を通り過ぎていく石像を眺め、リィンが言う。


「さっきからちょくちょくあるんだ。猿や鳥のもあった」

「良く出来てるけど……どうせなら、もっとちゃんと飾ればいいのに」

「それより、これについて聞きたいんだ。これもさっきから見かけるんだが……」


 そう言って、リィンは手に持った石を見せた。石の断面がさざめく夜空のように、キラキラと青く煌めいている。


「初めて見るんだが、これは価値のあるものか?」


 ポポンはじーっと石を眺め、それから首を横に振った。


「んーん。これは宝石ダマシ」

「宝石ダマシ?」

「リィン、マッチ持ってたよね?火を近づけてみて」

「わかった」


 リィンは鞘でマッチを擦り着け、火を石に近づけた。すると、煌めいていた光が蠢きながらすうっと消えていった。


「おお?」

「これはね、宝石ダマシっていう石の中でしか生きられない微生物のコロニーなの」

「……風吹虫みたいなもんか?」

「そうそう!発光するのは、人に拾わせて離れた場所に移動するため。宝石ではないから価値はないね」

「チッ。お宝かと思ったんだがな」


 そう言って、リィンは石を放り投げた。


「これも全部そうなのか?」


 リィンが天井を見上げた。

 そこには青い光が群れを成し、星の河のように続いていた。


「だね。宝石ダマシばっか――ほぇっ!?」


 ポポンは天井のある一点を凝視し、ぷるぷると震えだした。


「どうした、変な声出して」

「待って……むうん!」


 その一点が頭上に来たとき、ポポンは思いきり飛び上がった。


「おいおい!」


 リィンが慌ててポポンの着地を補助する。


「いきなり何だってんだ、危ねえぞ!」


 リィンが怒鳴ると、ポポンは目を輝かせながら石の塊を彼に見せた。


「天井からもぎ取ったのか?」

「うん!これ、栄光石(ライムライト)だよ!」


 ポポンが持つ石は青く煌いている。


「宝石ダマシと同じに見えるが」

「当然だよ、宝石ダマシは栄光石(ライムライト)に擬態してるんだもん!でも、見て……ほら!」


 ポポンが石を傾けると、青から緑、また青と美しく色を変える。


「とびっきり高価な宝石なの!ひとかけで豪邸が建つって言うから、この大きさならお城が建つよ!」

「ほう」

「“宝石ダマシあるところに栄光石(ライムライト)あり”。眉唾だと思ってたけど、ホントだったんだ……!」

「ポポン」

「なに?」

「くれ」

「やだ!」


 ポポンはリィンに背を向けると、大事そうに懐にしまった。

 向き直ったポポンのヘソの辺りがぽっこりと膨らんでいる。


「隠し場所、バレバレなんだが」

「力尽くで盗ってみる?」

「……チッ」


 それから進むこと、しばし。

 岩のスピードが緩やかになってきた。

 前を進む岩との距離が短くなり、手が届くほど近くにある。

 振り返れば、すぐ後ろにも岩が来ている。

 円筒状の通路に岩が行列を成している状態だ。


「終点かな?」

「んー。まだ少しずつ進んでいるな」


 リィンは岩の上に立ち上がり、先を見渡した。

 奥に石壁が見える。

 どうやら通路はそこで終わっているようだ。

 目を凝らすと、壁に穴が空いている。

 流れる岩より一回り大きいくらいの穴で、岩を一個飲み込んではすぼまり、また開いては一個飲み込んでいる。


「なんだろ?」


 いつの間にか立ち上がったポポンが、首を傾げる。


「なんだろうな」


 リィンは再び風虫タバコに火をつけた。

 吐いた煙は彼の周りを揺蕩い、すうっと穴のほうへ伸びていく。


「あっちが出口で合ってるみたいね」

「うむ……一応、警戒していくぞ」

「わかった」


 岩は一個ずつ穴に吸い込まれていき、ついに二人の乗る岩の番がやってきた。


「さて、(オーガ)が出るか蛇が出るか……」

「変なこと口走らないでよ!ドキドキしてきちゃった……」


 目の前の穴が開き、二人は岩に張り付く。

 岩は石壁をくぐり、奥の部屋に入った。


「また大部屋か」

「でもさっきの大部屋と違うね」


 そこは、かなり広い大部屋だった。

 最初の大部屋と違い、岩が散乱している様子はない。


「む、あれは流砂罠か?」


 床にはすり鉢状のくぼみが無数にあった。

 そこだけサラサラした砂になっていて、流れてきた岩はくぼみのいずれかに捕まり、ゆっくりと沈んでいく。


「下りよ、下りよ!」

「だな」


 二人は岩から飛び降りた。

 乗ってきた岩も流砂罠に捕まり、沈んでいった。


「どうする?とりあえず大部屋の反対側まで行ってみる?」

「そうだな……流砂罠にあえて落ちるのが正解ルートって線もあるが……」

「これに落ちるの?怖いからやだよぅ」


 ポポンが流砂罠に近寄り、恐る恐る覗き込む。


「まだ落ちるなよ?正解だとしても、無数にあるうちの一つだけってこともあるからな」

「あー、ありそう。……リィン、心配しなくても落ちないから」

「あん?」

「引っ張らないでって言ってるの」

「引っ張ってないぞ?」

「だってほら、足を……」


 そう言いつつ、ポポンが足元を見下ろすと。

 彼女の片足に蛇のようなクリーチャーが巻き付いていた。その顔に目はなく、大きく裂けた口には鋭い歯がびっしりと並ぶ。


「きゃーっ!蛇、蛇!」

「そいつは……巨人殺し(ジャイアントキリング)!?どこから沸いて出てきやがった!?」


 リィンが駆け寄り、短刀を抜く。


「じっとしろ、ポポン!」

「やだやだやだ!リィンが『(オーガ)が出るか蛇が出るか』なんて余計なこと言うからー!」

「俺のせいかよ!つーか、こいつ等は蛇じゃねえ!蛇似のクリーチャーだ!」

「その違い、今いる!?」


 リィンは苦戦しながらもクリーチャーをブツリと切断し、流砂罠に投げんだ。

 するとそれを合図にしたかのように、周囲の流砂罠から同じクリーチャーがわらわらと這い出てきた。


「あっ、ハンマー忘れた!」

「殴れ!お前は素手で十分だ!」

「やだよ!キモいもん!」

「ったく……ほれ!」


 リィンは折りたたみ式つるはしを手渡した。ポポンがつるはしを手早く組み立て、両手に構えた。


「十……十五匹か、なんとかなるな。近づいてきたのから倒すぞ」

「了解!……よいしょー!」


 ポポンがつるはしを横なぎに振るう。

 つるはしはクリーチャーの首元を貫いたが、そのままつるはしを持つポポンの手に食いつこうとしてきた。


「わわっ!」


 ポポンは慌ててつるはしを捨て、クリーチャーの頭を踏み潰す。

 リィンも短刀を振るいながら叫ぶ。


「気をつけろ!こいつ等は何にでも噛みつき、食いちぎる!」


 するとポポンはリィンをジトッと見た。


「そんな奴を素手で殴れって言ったの?」

「……ま、気にするな」

「そっちの気遣いが足りないって言ってんのー!」


 冷静に処理していくリィンと、個人的な怒りをクリーチャーにぶつけるポポン。

 的が小さいぶん時間はかかったが、なんとかすべてのクリーチャーを退治した。


「ふぅ、ふぅ。数、多かったねー」

「いや、こいつ等にしては少ないほうだ」

「そなの?リィン、なんて言ったっけ。ジャイアント――」

巨人殺し(ジャイアントキリング)。その名の通り、巨人なんかに寄生して腹の中を喰い荒らすクリーチャーだ」

「うえっ」


 ポポンは近くにあった巨人殺し(ジャイアントキリング)の残骸から飛び退いた。


「なんでそんなのがうろついてんの?」

「わからん。ま、ずっと同じ宿主に寄生してるわけじゃないからな。次の獲物を探してうろついて……あ゛っ゛」


 リィンの動きが凍りついたように固まる。


「ん?どうしたの?」


 するとリィンは両手で頭を掻きむしった。


「あー……。そういうことなのか?……あれも辻褄は合うな。あー」

「だから何なのよ、リィン」


 リィンは詰め寄るポポンを手で制し、ポケットから小さな本を取り出した。


「何それ?」


 ポポンが本の表紙を覗くと、そこには“クリーチャーポケット図鑑〈保存版〉”と書かれている。


「岩山、巨大生物、飛ぶ……あった。これだ」


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