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選ばれぬ王、選ばれし愛  作者: りむ
第2部
31/39

2-2


安禄山あんろくざんは、苛立っていた。

楊国忠ようこくちゅうが度重なる西域への遠征で兵を失い士気が下がり出していた。

あの男は若い頃から博打ばかりしており財の計算は得意だが、戦の才はなかった。


又従兄弟が貴妃でなければ、帝の宰相としてここまで出世することは無い男である。


そして、帝からの寵愛をかけて争っている仲であった。


安禄山は、巨漢の男で身長190センチ、体重200キロと腹がかなり出ていた。それを貴妃が気に入り養子となった。

赤ん坊の真似事を行い貴妃におしめを交換させる遊びをしたりして帝や貴妃に笑わしたりしていた。


あそこまでやったんだ…!

何がなんでも上り詰めてやる、と意気込んでいた。


「思遠、マーフヴァルドからは返事は来ていないのか?」

「ああ。亀茲に着いて以降まだ返事はない。」


思遠とマーフヴァルドは同じ胡人同士で宮中では、手を組んでいる。


以前から兵や官人を探していた思遠とは、繋がりがあった。その伝手で安禄山の兵に人を回す事もできた。


今、宮中にいる胡人達はある思惑があった。


それに向けて動き出そうとしていた。


「亀茲の王になればこちらとしても大きな勢力となる。必ず知らせろ。宮中では俺が一番軍事力がある。あの、漢人の姑息な男にも有無は言わせんぞ。」


「分かった。」


安禄山が思遠の側から離れた後、部屋の隅から1人の者が現れる。


「スターレ。聞いていただろう。あの男は、もう胡人の長にでもなったつもりだ。すぐに亀茲に向かうのだ。」


「御意。」


スターレは胡人の少年である。思遠とマーフヴァルドの連絡を取り持っている。


直ぐにラクダに乗り、亀茲に向かう。


「このままでは戦が始まるやもしれない…。マーフヴァルド様…」


今、漢人と胡人の間には大きな溝がある。

西域での安西都護府を設けていたはずの漢人が小国を掠奪や壊滅に追い込んだことにより、シルクロードを渡る上で重要なオアシス都市などが無くなり、胡人の貿易がしずらくなっていた。


その不満を聞き、安禄山は軍事力を拡大しようとする。

それに構わず楊国忠は、西域にて戦を起こそうとする。

そしてその皺寄せは国に降りかかっていた。


スターレはラクダを乗り潰す勢いで掛けていった。



――――――――――――――


マーフヴァルドは、無事に亀茲に着きトカラ人の残留者達と合流していた。


「あぁ、時の神の神官様よ!生きておられたか…!前任の者が龍の国のものに襲われたと伝え聞いておりました。我らの行く末は暗澹としておりました…」


数千人程の人々は西域のあちこちの国に隠れ住み、砂の国の人間である事を隠していた。


西域で龍の国の戦が起こった事で、住んでいた国を追われ故郷に集まり出していた。


みなまたもや路頭に迷い、命からがら逃げてきたとのことで縋る神はやはり時の神であった。


そしてみな同様に龍の国への憎しみが強まっていた。

亀茲の人々は武器をかき集めていた。

一国の軍にも劣らぬ勢力になっていた。


「同士達よ。今ここからやり直そう。かつての亀茲の栄光を。神の力を持って俺が道を示そう!」


亀茲の完全な復活はあの龍の国を倒してからだ…!


父と母を殺したあいつがいる国に…!


チェンシーとの日々を暮らしたかつての国は二度俺の心を殺した。


突厥から亀茲に向かおうと思ったが、嫌な胸騒ぎを感じ、一度長安に引き返した。


そして見てしまったのだ。


チェンシーの父、ヤン・ジンホーが部屋の中で血まみれになって死んでいた。

屋敷の人間達も同じだった。


もう1人の父さえも死んだ。

何故、殺されなければいけなかった。


何故だ……!


マーフヴァルドの心は真っ黒な霧が立ち上っているかのようだった。


憎しみ、悲しみ、全てが塗り替えられていく。


あの瑠璃色の瞳に光が宿らなかった。


時の神は2神を殺した―

1人は風の狼、

もう1人は光の女神―


心の闇はどんどん強まっていく。


マーフヴァルドの体の周りに黒い霧が纏い出す。

その体を抱きしめるかの様に1人の少女の顔が浮かび上がる。


その顔は光の女神、ミスランに似た面影であった。


黒い霧はどんどん広がって行き、亀茲を覆い尽くす。


人々の憎悪に呼応するかの様に。

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