表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/136

第90話 心配と杞憂

本日二話目の投稿です


「……それって、私が何をしているのか、皆さん理解してるって事ですか」

「まぁ、な」


 レイの純粋な疑問に、眼を泳がせながら答えるハルを見てレイは両手で顔を隠した。


「あぁ~……」

「グラナートとブレアに用事なんて、それくらいしかねぇだろ」


 恥ずかしさで顔を伏せるレイに向け、ニヤリ、と口角を上げたハルは、今度は心から楽しそうに笑って見せる。


「1年なんだし、まだまだってことだな」

「お恥ずかしい……」


 力なく、羞恥に震わせた声を漏らすレイを愛おしそうに見つめながら、ハルは真剣な眼差しへ表情を引き締める。


「レイ」


 声のトーンを変えたハルに、レイはすぐに顔を上げ、自分もまた表情を変えた。


「なんでしょうか、お兄様」


(王族について、何か進展があったのかもしれない。ここは、しっかりとお兄様の言葉に耳を傾けなければ)


 硬い表情で見つめ合う二人は、月明かりに照らされ、互いの顔に影を落とす。

 ゆっくりと口を開いたハルは、少し眼を細め、憂色を濃くした。


「俺も参加させてくれ」

「……え?」


 予想とは全く違うハルの言葉に、レイは呆気にとられる。

 しかしすぐに我に返り、ハルの顔を見つめた。


「今は母親が来ているだろ。何があるか分からない。だから、お前を1人にしたくはない」


 眉間に皺を寄せながら告げるハルに、レイは戸惑いながら言葉を返す。


「ですが、グラナートさんとブレアさんもいますし……」

「あー、違う」


 困惑するレイに、ハルは頭を掻きながら否定する。

 ハルはレイの肩を掴み、来た道へ振り返らせる。

 レイが一人で歩いていた道は暗く、死角も多いため、誰かが隠れていてもすぐには気付けないようになっていた。


「お前、ここを1人で歩いてたんだぞ」

「あ……」


 ようやくハルの言い分を理解したレイは、自分の歩いた道を見つめながら口を閉ざす。

 無防備な妹に手を焼くようにハルは大きく溜め息を吐く。


「それなら、お兄様の手を煩わせなくともブレアさんにお供を頼めば……」

「あーもう!!」


 それでも尚、兄に迷惑をかけまいとするレイの肩をもう一度掴み、今度は自分の方へ振り向かせながらハルは叫んだ。


「俺がお前のそばにいたいんだよ!」


 真剣な顔つきで告げるハルに、レイは眼を見開き動きを止める。

 今まで自分へ向け言われたことの無いセリフに、返す言葉を探すレイに、ハルは視線を逸らす。


「あの、間違っていたら、その、」

「なんだよ」


 言葉を迷い、途切れ途切れにレイは口を開く。

 拗ねたように顔を逸らすハルに、レイは上目づかいで尋ねた。


「心配、してくださっているのですか……?」

「悪いか!?」


 腕を組み、レイへ背を向けたハルに、レイは目を丸くし口元を両手で覆った。


(お兄様が、私を心配してくださっている! 大声で叫ぶほどに! 私の為に、そこまで心を痛めてくださるなんて……!)


「お兄様……!」


 レイは、嬉しさのあまりハルの背中へ抱き付いた。

 妹の想定外の行動に、ハルは驚いて振り返ろうとするが、レイに抑えられ動くことができず諦める。


「返事は?」

「是非……!」


 レイの腕が緩んだところで振り返り、腕を組んだまま尋ねるハルに、レイは満開の笑顔で答える。

 呆れたように笑うハルは腕を解き、レイへ両手を広げた。


「ほら」

「お兄様……!」


 レイは満開の笑顔に僅かに嬉し涙を添えて、勢い良くハルの胸の中へ飛び込んだ。

 しっかりと妹の身体を受け止めたハルは、その華奢な身体を愛おしそうに抱きしめる。

 美しい兄妹は、誰もいない学園の隅で、月明かりに照らし出され、星々に祝福される。

 笑いあう2人の仲を裂くものは、そこには存在しない。

 ハルとレイは互いの気が済むまで、その優しい温度を味わっていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ