↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
91/136

第89話 兄離れ


「ほら」

「ありがとうございます……」


 ハルは、持っていたタオルをレイに手渡す。

 少し照れながら受け取ったレイは、目の前にいる兄を見上げながら首を傾げ問うた。


「お兄様、どうしてここにいらっしゃるのですか?」


 お茶会が終了したのは2時間前。

 明らかに不自然な登場の仕方を尋ねるレイの視界を、ハルはタオルで遮った。


「聞くな」


 そのままタオルで汗を拭くようにハルはレイの頬を撫でる。

 兄の行動に嬉しそうに笑うレイの頭に、ハルは優しく右手を置く。


「頭打ったらしいな。大丈夫か?」


 アルフから情報を聞き入れたハルは、傷が無いか観察する様にレイの頭を眺めながら、優しく撫で始めた。


「大丈夫です、お兄様」


 普段取ることの無いハルの行動に、レイは嬉しさを溢れさせる。

 レイの様子を見て、ハルは溜め息を吐きながら視線を逸らした。


「ったく、こそこそと何やってんのかと思えば……」


 レイの来た道を眺めながらハルは声を漏らす。

 兄の言葉と視線に、レイはタオルに顔をうずめながら、上目使いで問うた。


「……見ていましたか?」

「あぁ」


 頭を撫でる手を少し乱暴にしながらハルは答える。

 見られていたことによる恥ずかしさで俯くレイに、ハルはもう一度溜め息を吐く。


「俺に行ってくれりゃ付き合ったのに」

「それじゃダメなんです!」


 目線を合わせずに告げるハルに、レイは身を乗り出して抗議する。

 妹の態度に驚愕して眼を見開く兄を見て、レイは気まずそうに視線を逸らした。


「お兄様に頼っていては、ダメなんです……」


 弱々しい声で呟くレイの言葉に、ハルは愕然として動きを止める。

 ハルの様子にレイは首を傾げながら顔を覗き込み、心配そうな声を漏らした。


「お兄様……?」

「あのレイが、俺離れしようとしてる……!?」


 突然大声を上げたハルに、レイはビクリ、と肩を震わせる。


(あのレイが、俺の妹が、俺離れ……!? いつも後ろをついて来ていた妹が……! できるのか!? いきなり俺離れなんかしたら、悪い男に騙されるんじゃ!?)


「そう! アルフみたいな野郎に!」

「きゃ!?」


 いきなり肩を掴まれたレイは、もう一度肩を跳ねさせ、体にかけていたタオルを床に落とした。

 ハルの豹変ぶりに怯えつつ、レイは兄の顔を覗き込む。


「どうしたのですか?」

「いや、なんでもない」


(ああああ声に出しちまった! レイが怯えてんじゃねぇか! でもダメだ。アルフはダメだ。あんな奴に妹は渡さねぇ!)


「そうですか……」


 納得のいかないまま、レイは床に落ちたタオルを拾い上げる。

 埃を払い、大事そうにタオルを抱えるレイを見て、ハルは1つ指摘をした。


「そのタオル、アルフのだぞ」

「なん……っ!?」


 ハルの一言に大きく動揺したレイは、拾い上げたばかりのタオルを床へ投げつける。

 それを見たハルは思わず吹き出し、笑いを堪える。


「お兄様!?」

「わ、わりぃ……」


 堪えきれず失笑するハルに、レイは怒ったように頬を膨らませ距離を詰める。

 とうとう声を上げて笑いだした兄に、レイは髪を跳ねさせた。


「それ、ティアナの……」

「もう! 誰が本当なんですか!」


 もう一度タオルを拾い上げ、レイはハルから顔を背ける。

 笑いながらレイの頭を撫でるハルは、優しく微笑む。


「悪かった。ティアナだよ」

「……本当ですか?」


 視線をハルへ戻し、まだ疑い続けるレイに、ハルは頷いて答える。

 頬は膨らましたままで顔を自分に向けるレイを見て、ハルはその柔らかい頬をつつく。


「レイに、って言ったら貸してくれたんだよ」


 ようやく機嫌を直したレイに、ハルはもう一度優しく頭を撫でる。

 照れたように視線を逸らす妹を愛おしそうに眺めながら、ハルは微笑んだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。