第86話 付き合い
レイから放たれた言葉に、グラナートは呆気にとられ、レイを見下ろしたまま動かない。
「あの……?」
「それは、命令か?」
恐る恐る声をかけるレイに、グラナートは低い声で尋ねる。
首を傾げ、グラナートの言葉の意図をゆっくり汲み取ったレイは、1つうなずいて答えた。
「自由意思は尊重しますが、そうなりますね」
迷いながらレイは言葉を紡ぐ。
しかし、納得がいかないグラナートは重ねてレイに尋ねた。
「俺は構わないが、お前には恋人がいるだろう?」
「え?」
動かず、見下ろしながら威圧してくるグラナートに、レイは今度こそ理解が追いつかず、その場に固まった。
「アルフ、だろ?」
突然出された名前に、レイは首を捻る。
が、すぐにグラナートの言葉の意味を理解したレイは顔を赤らめた。
「ち、違います! あの人は恋人とかそういう関係ではないですし、なによりそういった意味ではありません!」
慌てて弁解するレイに、グラナートは僅かに首を傾げる。
レイは耳まで赤く染めて、恥ずかしそうに瞳を揺らした。
「なら、どういう意味だ?」
「それは……」
表情を変えずに問うグラナートに、レイは言い淀む。
改めて頼み事をすることに、少なからず抵抗感を感じるレイは、スカートを掴む手に力を入れた。
「私の、特訓に付き合っていただきたいんです……」
俯いて願うレイに、グラナートは薄らと眼を細め、自分の顎に手を添えた。
ふむ、と考えるグラナートは、すぐに頷いて答える。
「構わないが」
今更、レイが言い出す事でもない内容に、グラナートはやはり納得がいかないように曖昧な答えを返す。
グラナートが何を言わんとしているか感じ取ったレイは、真剣な眼差しで彼を見上げた。
「私は、あの人達との中では、一番戦力として弱いと感じています」
先程まで取り乱していたレイは、今は顔色も元に戻り、声も震えずしっかりと力が籠っていた。
(足手まといではないけれど、今のままでは私は、あの人達を手助けすることすら叶わない。そんなのは……嫌、だから)
「ですから、私は、私にしか使えない技が欲しいんです」
胸に手を当て、自分の主張をはっきりと告げるレイには、足手まといとしての後ろめたさは最早存在していない。
グラナートは、真っ直ぐと見上げてくるレイの言葉に、遮ることなく耳を傾ける。
「そこで、頑丈で、技術もあるグラナートさんに特訓をお願いできないかと」
レイは、結論を言葉にしてグラナートへ贈る。
2人の間に流れる緊張に、レイは鼓動を加速させ、グラナートの答えを待つ。
「構わない、と言ったが」
溜め息を吐くように返すグラナートに、レイは顔を輝かせる。
敵であった自分に向けられるその表情に、グラナートは眼を見開いた。
「ありがとうございます」
嬉しそうに微笑むレイに、グラナートは視線を逸らす。
レイから顔を背けながら、グラナートは確認を取る。
「それで、いつからだ?」
「よろしければ、今日のお茶会後から」
眼を逸らした意図を理解することなく、レイは希望のスケジュールを告げた。
グラナートは視線を上へずらし、自分の予定を思い出す。
レイへ視線を戻し、グラナートは表情を変えることがないまま了承した。
「わかった。格闘場近くの桜の木の下で」
「はい!」
そのまま自分の仕事へ戻っていくグラナートへお辞儀をし、レイはお茶会へと急いで戻る。
(私の願いを受け入れてくれるのは、あの人達だけじゃなかったんだ……。なら、ブレアさんも、受け入れてくれるのだろうか……)
テラス席へ急ぐレイの顔には、穏やかな微笑が浮かんでいた。




