第82話 貴女に祝福を。涙の、権利を
本日二話目の投稿です
「……そろそろ、だな」
「えぇ」
ポツリ、と呟いたアルフの言葉に、レイは動じることなく答える。
強がりを見せるレイに、アルフは続けて尋ねた。
「怖くないのか?」
「……怖い、ですよ」
眼を閉じたまま、レイは正直に心境を告げる。
未だに鮮明に思い出す幼き日の光景に、レイの手は僅かに震えた。
「お前、俺と居るところ見られたらどうするんだ?」
「え?」
何の脈絡もないアルフの言葉に、レイは眼を開き、アルフの顔を見る。
アルフはレイを見下ろすことなく桜を見つめ続けた。
「大丈夫ですよ、許可は取っていますから」
「そうじゃねぇ」
レイの答えに、アルフは溜め息を吐きながら否定する。
意味を理解できないレイは説明を請うようにアルフを見つめ、言葉の続きを待った。
「俺みたいな奴と居て、お前の評価が傷つかねぇのか」
アルフから出た意外な言葉に、レイは目を丸くし、不覚にも笑い出してしまった。
レイの反応に困惑するアルフから体を離し、座り直したレイは手に握られた赤いリボンを見つめ、言葉を紡ぐ。
「私は、貴方に感謝しているんですよ」
レイから紡がれた言葉に、アルフもまた驚愕する。
そんな先輩を気にすることなく、レイは続けた。
「あの時、決勝戦で、貴方が私を正してくれなければ、私は立ち止まったままでした」
顔を上げ、遠くを見つめるように眼を細めるレイの横顔に、アルフは魅入っていた。
「それと、ゴーレムから助けてもらったのはいいですが、許可なく乙女の体に触れるとは」
ぷい、とレイは顔を背け、少しむくれたような声を出した。
が、すぐに笑顔になり、レイはアルフを見つめる。
「助けてくださって、ありがとうございます」
嘘偽りなく、心の底から笑うレイに、アルフは眼を奪われる。
桜の花びらが舞い、レイの美しさをより一層際立てた。
「あの時、貴方がいなければ、どちらの意味でも私は止まっていたでしょう」
肉体と、精神と、両方を助けられたレイは、アルフに感謝を述べる。
そしてレイは、アルフの眼を見て、願いを告げた。
「今回も、助けてくださいますか?」
真っ直ぐと見つめるレイに、アルフは呆然とした。
だがアルフはすぐに普段通り口角を上げ、レイの額に自分の額を合わせた。
「お前が望むなら、何度でも」
「えぇ、何度でも、助けてください」
自分に願いながら小さく震えるレイの手を、アルフは強く握る。
驚いたように肩を震わせたレイは、だがその手を振りほどくことなく握り返す。
「……怖いんです」
「そうか」
リボンを見つめながら、レイはその心中をさらけ出していく。
アルフは、レイの言葉を真正面から受け止めた。
「怖くて、怖くてしょうがないのですが、お兄様に心配をかけたくないんです」
段々と声の震えるレイを、アルフは片手で抱きしめる。
潤んだレイの眼は、大きく開かれたことで涙が零れ落ちた。
「お前は妹だろ。なら、怖がっていいんだよ」
アルフはレイを強く抱きしめ、耳元で囁く。
力を込めたその声は、普段よりも低めで、芯の強さがうかがえた。
「お前は俺らの中で一番幼い。最年少だぞ。だから、お前は強がらなくていいんだよ。お前がカッコ悪くても、弱くても、幼くても、俺達は嗤ったり、見捨てたりなんて絶対しねぇんだよ」
つないだ手に、抱きしめる腕に力を込めながらアルフはレイへ言葉を贈る。
その言葉に、レイは唇を噛み、止めどなく涙を溢れさせた。
「だから、強がるな。頼れよ、俺らを、俺を。お前を独りにする奴なんてここにはいねぇんだから」
「アルフ、せんぱ……!」
アルフの肩へ顔をうずめながら、レイは涙を流す。
レイの背中に回していた手で頭を撫で、その小さな手を強く握る。
「アルフ、でいい」
「アルフ……?」
潤んだ目でアルフを見つめながら、レイが素直に従う。
少し頬を染めたアルフは、だがすぐに口角を上げる。
「そうだ、レイ」
「アルフ……!」
レイは今までの強がりの分、思い切り泣き出した。
それを嗤うことも、面倒に思うこともなく、アルフは受け止め続ける。
顔を見合わせて笑う2人は、春の日差しに照らされ、桜の花びらに囲まれ、世界に祝福されているようであった。




