第72話 物置の中
本日三話目の投稿です
「ひっく、ひっく」
呪われた銀髪、忌み嫌うべき象徴。
レイは自分の個室すら与えられず、物置の中で泣きじゃくる。
自分に優しく接してくれる、ただ1人を想って。
「レイ」
物置の扉を静かに開け、ハルは中を覗きこむ。
突然射した光に眼を細めながら、レイはハルの姿に涙を眼に溜める。
「おにぃさま……」
堪らず、レイはハルに走り寄り、そのまま兄に抱き付いた。
ハルの身体に寄り掛かりながら、レイはまた泣き声を上げる。
「うえぇえええええん!!!」
「叔父さんか?」
自分に抱き付いたまま離れないレイの頭を優しく撫でながら、ハルは顔を顰める。
コクリ、と頷くレイに、ハルは優しく抱きしめ返した。
「おにぃさまは、あたたかくて、あんしんします」
ハルの身体に頭を埋め、レイは嬉しそうに、だが震えた声で続けた。
「おにぃさま……、わたし、いなくなるんですか?」
「!?」
レイの口から出た言葉に、ハルは眼を見開く。
偶然聞いたというその内容に、ハルは再度唇を噛んだ。
「おにぃさま、わたし、いやです……! おにぃさまと、はなれたくないです!」
肩を震わせ、自分に縋り付き訴える妹に、ハルは幼くも整ったその顔を歪めた。
レイの肩を掴み、ハルは妹と自分と眼を合わせる。
「大丈夫だ! 俺が、絶対に助けてやる!」
自分の眼に、手に、声に力を込めてハルはレイに告げる。
目を丸くしハルを見つめる愛しい妹は、ふにゃり、と表情を崩す。
「おにぃさま……」
「だから、大丈夫だ!」
ニッ、と笑って見せるハルに釣られて、レイもまた瞳に涙を溜めたまま笑う。
ようやく見せた妹の笑顔に、ハルが胸を撫で下ろした時、物置の扉から男の声が響いた。
「そいつは、無理な話じゃねぇか?」
慌てて、レイはハルの陰に隠れ、ハルは妹を庇う。
2人が振り向いた先、そこには物置の扉に寄り掛かる高身長の男がいた。
屋敷の人間にしては若く、30代程に見えるその男は、それ以上何も語らず2人を見下ろしていた。
「だれだ!」
「さぁ、誰だろうね」
逆光のせいもあり、男の顔はよく見えないが、髪色は確かに黒に近い色だった。
その男は2人に高さを合わせてしゃがみ込み、ハルの顔を正面から見つめる。
「妹の事、助けたいか」
真っ直ぐと見つめ、直球で問いかけてくるその男に、ハルは呆気にとられる。
しかしハルはすぐに男を睨みつけ、叫んだ。
「妹は、俺が助ける!」
「どうやって?」
男は、ハルの言葉を笑うことなく静かに、低い声で尋ねてくる。
その質問に、ハルは狼狽え、一歩後ずさった。
「それは……、この家から連れ出す!」
「どこに? どうやって?」
更に問いかけるその男は、一言だけでハルに現実を突きつける。
考えていることの浅はかさ、愚かさ。
妹を助け出せない屈辱を突き付けられたハルは黙りこみ、拳に力を込め、男を睨みつけた。




