第71話 レンフォード家の異常
本日二話目の投稿です
「この忌み子が!」
「やめてください、叔父様!」
今日も醜い怒声が響き渡る。
アインフォード国外に存在するレンフォールド邸。
アインフォード王国王家より切り離され、没落した一族。
そんな一族の中に、1人。
本家直系の人間でありながら、召使の服を着せられ、一族から虐げられる妹を見ながら、ハルは今日も持て囃される。
「ハル様、あのようなモノを見てはいけませんよ」
ハル専属のメイドが、レイを見つめるハルの眼に手を当て、視界を閉ざす。
この時、ハルは満8歳。
レイはあと2か月で7歳になる程の小ささであった。
(レイは、何故あんなにいじめられているのだろう……? 俺のたった1人の妹。レイは、俺の、何……?)
「もういなくなるモノなのですから、気に掛けることはありませんよ」
メイドは、ハルの身長に合わせてしゃがみ込み、優しく微笑む。
その笑みは、ハルの眼には背筋が凍る程に卑しいものに見えた。
「いなくなる……?」
ハルは首を傾げ、メイドに尋ねる。
その使用人は躊躇うことなく、ハルの言葉に答えた。
「えぇ、処分されるのです」
「しょ、ぶん……?」
幼いハルには理解しがたい笑顔であった。
たった1人の兄妹。
ただ可愛いだけの妹。
そのレイが、いなくなるという事実だけが、ハルの頭で理解できたことだった。
(いなくなる……? レイが? 俺の、妹が……?今も、十分苦しんでいるのに……?)
「……嫌だ」
「さあ、いきますよ」
ハルの呟きが誰の耳に入ることもなく、メイドはハルの手を引いて歩く。
目的もなく、ただハルの視界からレイを消すためだけに。
「ひっく、えっく」
幼い女の子の泣き声は、ハル以外の心を傷つけることはなく。
誰の心にも届かない。
「おにぃさま……」
「お前ごときが、次期当主のハル様をお兄様などと呼ぶんじゃない!」
ハルへ助けを求めるレイを、叔父は容赦なく自分の杖で叩き付ける。
止むことなく浴びせられる痛みに、レイは堪らず声を上げた。
「うえぇええええん!!!」
「うるさい!!」
大事な妹の泣き声に、ハルは振り返り、歩みを止める。
しかし、ハルはメイドに手を引かれたまま無理やり歩かされた。
「おにぃさまぁあぁ!!」
「えぇい、黙れ!!」
歩きながらなんとか振り向くハルは、泣きじゃくるレイへと手を伸ばす。
「レイ!」
「ハル様は気にしなくていいのですよ」
今も叩かれ続けるレイに、ハルは顔を歪める。
伸ばしたその手がレイに届くことが無くとも、思いは降り積もり続ける。
「おにぃさまあぁ!」
「レイ!」
(俺の妹は、俺の大切なレイは、俺が必ず助けるんだ!)
顔を歪め、唇を噛みながら、ハルは心に誓う。
幼さゆえの無謀なその願いは、一族全てを裏切る形で実現されることとなった。




