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第68話 感謝

本日3話目の投稿です


「やっと見つけた」


 ティアナは息を切らしながら、月の光に照らされるハルの姿を見つめる。

 ハルが席を立った後、疑問を拭いきれずに後を追いかけたティアナは、広大な敷地面積の学園内を走り回り、ようやく自分達の教室で眠るハルを見つけた。


「授業中も寝てるのに、居眠り王子の名は伊達じゃないのね」


 自分の席で眠るハルに近づき、ティアナは息を整えながら呆れたように笑う。

 その寝顔は、眉間に皺を寄せた険しいものであった。


「こんな顔して眠るのね……」


 ハルの寝顔を初めて見るティアナは、静かにハルの隣に腰をおろし、その顔を眺める。


「いつも、こんな……?」


 ハルの寝顔の険しさに、ティアナは首を傾げる。

 ティアナはそっと、ハルの頭に手を乗せ、起きる様子の無いことを確認してから、優しく撫で始めた。


「ハル……」


 その柔らかい髪を撫でながら、ティアナはハルの表情に、これから起こる出来事を懸念する。

 

(いつもあんなに活発なハルが、顔を歪めて寝ているなんて……。やっぱり、自分の母親に会う事、よね。レイも震えていたし、何より……)


 ティアナは、ハルの頭を撫でていた手をそのままハルの頬までゆっくりと移動させる。

 柔らかくも冷えたその頬に手を添え、ティアナは顔を歪ませた。


「ハルが、あんなに悔しそうな顔をするなんて……」


 放課後のお茶会で初めて見せた彼の表情を、自分を責めるように歪ませた顔を思い出しながら、ティアナはハルの顔を撫でる。


「……黙ってれば、かっこいいんだから」


 少し頬を膨らませながら、ティアナはハルの整った顔を見つめる。

 端正な、それでいて大人びたその顔に、ティアナは切なそうな表情を見せた。


「誰もいないわよね」


 ティアナは念のため、自分たち以外に誰もいない教室を見渡し、ハルへと向き直る。

 そして、覆いかぶさるように、ティアナはハルを後ろから抱きしめた。


「あんたには、感謝してるのよ」


(あぁ、本人が聞いていないのなら、こんなにも素直になれるのに。ハルが聞いていないなら、ちゃんと言えるのに……)


 ティアナは、自分の髪につけられたティアラに触れ、ハルを優しく抱きしめ直し、目を瞑る。


「……ありがとう、ハル」


 優しく、落ち着いた声で紡がれた言葉は、ハルの耳に入ることはなく。

 それを分かっていながら、ティアナは続けた。


「ブレアに襲われた時、助けてくれて、ありがとう。先週出かけた時に、ちゃんと気付いてくれて、ありがとう。それから……」


 続けようと開いた口を、ティアナは喘ぐように動かし、静かに閉じた。

 優しく微笑みながら、ティアナは体をハルから離す。


「これくらいは、ちゃんと起きてる時に言わないとね」


 せめて、とティアナは言葉を区切る。

 寂しそうに微笑み、もう一度、ティアナはハルの頭を優しく撫でた。


「よいしょ、っと」


 ハルの肩に手をかけ、その体を起こし、ティアナは自分の肩に彼の頭を乗せた。

 ティアナは、自分に寄りかからせたハルを見つめ、様々な感情を混ぜ込んだ微笑みを向ける。


「……少しくらい、頼ってくれていいのよ」


 自分の頭をハルの頭の上に乗せ、互いに寄り添いあう2人は、穏やかな顔で微笑んでいた。


「ダメだ。こっちも入れる雰囲気じゃねぇ」


 教室の扉の隙間から中の様子を窺うブレアとグラナートは、顔を見合わせ首を横に振る。


「グラナート、一緒にマカロン食べようか」

「いや、夜分に糖分を摂取するのは……」


 適当な言い訳を付けながらも、ちゃんと断ることの無いグラナートを見て、ブレアはニヤリ、と笑う。

 が、ふと、思いついたかのようにブレアは声を上げた。


「でも、お嬢さん達も食堂へ来るわけだろ? だったら……」




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