第66話 母親の影
「それで、ジュエリーショップへ訪れた本来の目的なのですが」
先ほど受けたダメージが全て無かったかのように、レイは平静を取り繕い、ドレットへ訪ねる。
「お母様が?」
「あぁ、来るって言ってたな」
サンドイッチをつまみながら、レイの質問にドレットは軽く答える。
ハルとレイはその返事に顔を歪め、ドレットを問い詰めた。
「なんで先生が知ってんだよ」
「そのうち分かる」
肝心な部分をはぐらかされ、ハルは尚更眉間の皺を濃くする。
答える気のないドレットに、レイは別の角度から切り出した。
「いつ、ですか?」
「……明日、だな」
ドレットの言葉に、レイは俯き、唇を噛む。
ハルは顔から表情を無くし、話を深く掘り下げていく。
「明日の、いつ」
「……放課後」
ハルの眼差しから逃げるように視線を逸らすドレットに、ティアナとテレサは首を傾げる。
アルフは僅かに震えるレイに視線を向け、ドレットの言葉を待った。
「一週間ほど滞在するそうだ。……気張るなよ」
釘を刺すように告げるドレットに、ハルは唇を噛む。
兄弟の反応に察しがついた大人2人は口を挟まず、その場を離れようとするが、ティアナの言葉に引き留められた。
「ハルって、親の都合で引っ越してきたんでしょ? どうして母親に滞在なんて言葉を?」
「お嬢さん!?」
空気を読もうとして読めなかったティアナを、ブレアは慌てて止めにかかる。
その反応に一層納得のいかないティアナは首を傾げた。
「……色々あんだよ。特に、レイには」
普段よりも数段低い声で告げるハルに、ティアナは口を閉ざした。
チラリ、とティアナはレイに視線を送るが、離れた席からでもわかるほど、彼女の表情は切羽詰まっていた。
「……」
ティアナとテレサは顔を見合わせ、レイへかけるべき言葉を探す。
8人の間を重い空気が流れる中、ポツリ、とレイが呟いた。
「何を、しに……」
「まぁ、普通に考えて、お前の監視だろうよ」
途切れながら紡いだ言葉への返答に、レイはビクリ、と肩を震わせる。
膝に乗せた両手に力を込め、制服のスカートを握るその姿は、可哀想なほどに儚いものだった。
「会わなきゃいけねぇのか」
「……いずれ通る道だ」
今のうちに越えておけ、と告げるドレットに何も言い返せない2人は、静かに俯いたまま、何も語らない。
「あー、追加してケーキでも食うか? 俺が奢るぞ」
「ブレア」
何とか空気を変えようと口を開いたブレアを、グラナートが首を横に振り、静かに止める。
それ以降、誰も口を開くことの無いまま時間が過ぎていった。
その日、レイがその席を離れることはなかった。




