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第62話 正解


「折角の忠告も聞かずに、困ったものだな」


 男は、静かに首に巻き付いた蔦を解き、ハルへと近づく。

 しかし、ハルと男の間にアルフが立ち塞がり、互いに睨み合う。


「テメェ、何しやがった」


 ハルの身に起こった出来事について、アルフは男に尋ねる。

 しかし、答えることなく佇む男に掴みかかろうとしたその時、ハルの拘束が解けた。


「カハッ!」


 苦しそうに息を吐き出す音に、アルフは振り返り、ハルを見る。

 大きく肩を上下して息を吸い込むその姿は、まるで呼吸そのものを停止させていたようであった。


「おい……」


 ハルの姿を見て、隙のできたアルフに、男は容赦なく脇腹に蹴りを入れる。

 死角からの攻撃をまともに受けたアルフは、そのままその場に座り込んだ。


「敵の前で隙を見せるとは、やはりガキは手ごたえがないな」


 自分の脇腹を抑え、動くことのないアルフの横を通り過ぎ、男はハルへと歩み寄る。

 しかし、アルフは男の左足を掴み、動きを止めた。

 

(わからねぇ。だが、今コイツをハルに近づける訳には……!)


 見上げるように睨みつけるアルフの顔を見て、男は大きく溜め息を吐き、ポツリ、と呟いた。


「蔦、」


 突然、男の足元から発生した、ハルのものと酷似している蔦により、アルフの身体は壁際まで吹き飛ばされた。


「これはっ!?」

「ア、ルフ……!」


 アルフの方へ視線を向けるハルの前にたどり着いたその男は、息を整えながら体を起こすハルを見下し、突然消えた。


「!?」

「後ろ!」


 ハルは、突如姿を消した男に、動揺し、大きく眼を見開く。

 ティアナの悲鳴を聞き、すぐさま振り返るハルの眼には、男の右手が写った。


「なっ……!?」

「ふん!」


 男は、そのままハルの後頭部を掴み、ハルの頭を床に叩き付けた。

 強い頭部への衝撃に、ハルは意識を手放しかける。


「ッ!!」


 悲鳴も上げることを許さないその動きに、ハルは成す術もなく頭を床に打ち付ける。

 それでも男は飽き足らず、ハルの頭を掴みあげ、その身体を蹴り飛ばす。


「グハッ!!」


 抵抗することなく蹴り入れられたハルの身体は宙を舞い、壁へ打ち付けられる。

 起き上がる気配もなく転がるその身体を見て、男はティアナに視線を戻す。


「テメェ……、今のは、」


 ハルとは反対の壁へ吹き飛ばされたアルフが、ゆっくりと起き上がりながら男へ問いかける。


「まだ起き上がるか」

「今のは、ハルと先公の、魔術、だな」


 アルフへ僅かに驚愕を含んだ声を向ける男に、言葉を途切れさせながら、アルフは言葉を投げた。


「コピー、か」


 アルフの言葉に、少しだけ眼を見開き、微妙に口角を上げ、初めてその顔に表情を付ける。


「正解だ」


 自分の体をアルフの方へ向け、興味を示すその男を、アルフは睨み続ける。


「なら、その前は?」

「俺と同じ分類の魔術。1年共とティアナが使う魔術の強化版、永続型時間操作だろ」


 言い放たれたその解に、今度は大きく口角を上げ、男はゆっくりと拍手をしながら嗤って見せた。


「そうだ」


 壁に手を添え、体重を預けながらようやく立ち上がったアルフは、男にゆっくりと問いかける。


「テメェ、名前は」

「名乗るべき名は非ず。……そうだな」


 ふむ、とアルフを見つめた男は、ゆっくりと名を告げた。


「グラナート、そう名乗ろう」




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