第60話 フロア攻防
今日三話目の更新です
ドレットがティアナ達のところへ加勢しに行く数分前、ハル達3人はティアナ達女子3人奪還作戦の内容を固めていた。
「失敗すんなよ」
「そっちこそ、仕留め損ねでもしたらとんでもねぇぞ」
作戦は、実にシンプルなものであった。
ハルとアルフ、二人がフロアへ残り、ドレットが先に単身でVIPルームへ突入するという、シンプルで、それでいてミスが許されない作戦にフロア組の2人は目配せをする。
「で、これがその石だ」
ドレットは、縛られた手で器用にポケットから1つの魔宝石を取り出した。
無色透明に輝くその石は、一見ただの宝石のように見え、相手に作戦を悟らせることの無い見た目であった。
「ったく……。今日仕入れたばかりだぞ」
テレサとのデートで買ったばかりの魔宝石を使うことに、少し抵抗感を見せながら、ドレットはハルに魔宝石を手渡す。
「使い方はさっき教えた通りだ。わかるな?」
「感謝するぜ、せんせ」
釘をさすドレットに、ハルは口角を上げて笑って見せる。
不審な動きを見せる3人を視認した下っ端の男は、銃口をハルへ向け叫ぶ。
「何をしている!」
自分へ向けられた敵意に、ハルは俯き、嗤う。
そして2人に確認する様に、小さく呟いた。
「作戦通りに……」
「今、なんと言った!」
銃口を向け直し、手に力を込める男の声に、ハルは顔を上げて叫ぶ。
「クソ野郎……」
「っ蔦ァ!!」
会話の一部に詠唱を混ぜ込み叫んだハルの声に合わせて、銃口を向ける男の足元から蔦が発生する。
「なんだこれは!?」
困惑する男の手から銃を奪い、そのまま足へ絡みついた蔦は、男の自由を奪う。
「オラァ!!」
作戦通りに動く蔦を見て、アルフは自分の両手を縛る縄を引きちぎり、混乱したまま動くことのできない男へと殴り掛かった。
「ぐはっ!!」
防ぐこともできず、アルフの拳を正面から食らったその男は、後ろへと吹き飛ばされる。
その隙に、ハルは蔦を使い自分とドレットの拘束を解く。
「しっかりな」
「あぁ」
自分の自由を制御する物が無くなったことを確認したドレットは、そのまま奥の部屋へと移動した。
「蔦ァ!!」
アルフへと銃口を向けた2人目の男の手から、ハルは蔦を用いて銃を奪う。
蔦の絡まる男を狙い、アルフは次々に男へ殴り掛かる。
一人ずつ確実に仕留めていくハルとアルフに、下っ端の男共は後ずさった。
「な、なんなんだこいつら!!」
「うわあああ!!」
混乱する男達は、捕らえている市民に銃口を向け、引き金に指をかける。
それを見たアルフはすかさず魔術を発動させた。
「我の導に従い、その力を示せ! ゴーレム!」
アルフの声に反応したかのように店内は震え、轟音が鳴り響く。
隅に纏まった市民を守護するかのように現れた半身のゴーレムは、乱射された銃弾をその身に受け、弾いていく。
「なんなんだ!!??」
自分の目の前の光景を信じられないように驚愕の声を漏らし、後ずさる男達は、しかしハル達2人から眼を逸らすことができない。
「やっぱ、殴っただけじゃ気絶しねぇよな」
アルフに殴られ、吹っ飛ばされた男も起き上がり始めたのを見て、ハルは頭を掻く。
が、ハルはニヤリ、と口角を上げて嗤った。
「仕上げだ!」
ハルは、ドレットに渡された魔宝石を、男達に向けて高く投げる。
それと同時に、ドレットはもう一つの魔術を発動させた。
「我の導に従い、その力を示せ!!」
ハルとアルフは投げられた魔宝石から視線を逸らし、武装した男達は全員、魔宝石に視線が釘付けになる。
「ぐあっ!?」
アルフの発動した魔術により、武装した五人の男達は、精神操作の罠に嵌る。
強引に引き出される船酔いの感覚に、直接中身を掴まれているかのような頭痛、腹痛、吐き気に見舞われた男達は、次々と意識を手放してゆく。
魔力を失い、ただの宝石になった魔宝石の残骸を拾いながら、ハルは呟いた。
「先生も都合のいいもんもってんな」
この無色透明な魔宝石は、魔術が発動された時、この宝石を視認していた者にのみ魔術の効果が表れるというもの。
特に、アルフの精神操作とは相性が良かった。
(フロアにいるのは全員片づけた。あとは……。手ぇ出されてんじゃねぇぞ、ティアナ……!)
「いくぞ」
アルフは、奥の部屋へと続く扉を睨みつけ、ハルの横を通り過ぎる。
威圧力を増すアルフを見て、ハルは表情を引き締めた。
「あぁ」
2人は扉の前に立ち、深呼吸を1つ。
そして、扉に手をかけ、ゆっくりと力を込めVIPルームへと足を踏み入れた。




