第59話 目的
今日二話目の更新です
「あるもん全部出せ」
「いや、あの……」
ハル達と引き離されたティアナ達3人は、店から入って奥の部屋、通称VIPルームで拘束され、部屋の隅に座らせられていた。
武装集団のリーダーであると思われる男は、豪奢なソファに座り、店長に銃口を向け、財産的価値のある品を出すよう脅迫していた。
「ティアナ……」
「大丈夫よ、きっと」
不安そうに声を震わせるテレサを、ティアナは宥める。
(この部屋にいる敵は4人。そのうちの1人は、恐らくリーダーなんでしょうけど……。ハル達のいるフロアの人数までは把握できなかった……。大丈夫、よね……)
「お兄様方の心配はいりませんよ」
フロアへと続く扉を眺めるティアナに、レイは横から声をかける。
落ち着いたように振る舞いながら肩を震わせるレイを見て、ティアナは優しく声を返す。
「そうよね。ハルなら大丈夫だわ」
優しく微笑んでみせるティアナと視線を合わせたレイは、呆れたように、微笑して見せる。
(レイだって、不安なんだわ。……私だって、手が震えているけど、こんな状況は初めてじゃない。しっかりしないと)
リーダー格の男へ視線を戻すティアナは、相手もまたティアナを見ていることに気が付き、背筋を凍らせる。
「……」
乾いた喉を潤そうと、ティアナは唾を飲み込む。
視線をそらさず、真っ直ぐにこちらを見つめるその男に、ティアナは覚悟を決め、落ち着きを払って言葉を投げつけた。
「私達を、どうするつもりよ……!」
「ティアナ!?」
突然口を開いた親友に、テレサは驚愕と戸惑いと恐怖の混じり合う声を漏らす。
レイも眼を見開きティアナを見つめるが、ティアナは視線を逸らさず、リーダー格の男を睨み続ける。
「何って、人身売買だよ」
「「「!?」」」
落ち着いた声で放たれた予想外の言葉に、3人は大きく動揺する。
「俺達は金が欲しいんだ。金目のものはなんだって奪うし、なんだって売り払う」
背凭れに体を預け、それでも銃を握りしめる手を緩めることもなく、リーダー格の男は言い放つ。
(そ、そんな……。てっきり、あの変質者の時みたいに襲われるのかと思ったけど、人身売買なんて、スケールが全然違う!)
「お前等見たいな上玉は、言い値で売れるんだよ」
離れていてもはっきりとわかる、嗤いを含んだその声に、ティアナは抗議する。
「な、によそれ!」
「おい、静かにしろ!」
声を上げるティアナに、武装した男の1人が銃口を向ける。
ビクリ、と肩を震わせるが、ティアナは威嚇を止めない。
「コイツ……!」
「キャアッ!!」
銃口を向けていた男が、自分達に従うことの無いティアナの髪を乱暴に引っ張った。
突然の痛みにティアナは悲鳴を上げるが、その痛みはすぐに止むことになる。
「ぐあっ!?」
「おいおい、生徒に手を上げないでくれよ」
武装した男の後ろに突然現れたドレットが、ティアナの髪を掴む男の右腕をその不健康そうに白い腕で捻りあげる。
「ドレット先生……!?」
「なんだお前は!!」
魔術を使って現れたドレットに、3人は眼を見開き、驚喜の声を上げる。
腕を掴まれた男は、ドレットの手を振りほどき、殴り掛かろうと右腕を振り上げるが、ドレットにその腕を再度掴まれ、足を払われる。
「なっ!?」
宙へ浮いたその身体を、ドレットは迷うことなく放り投げる。
前髪を鬱陶しそうに掻き上げるその姿は、普段の気怠さを微塵も感じさせることはなく、隙も見当たらなかった。
「誰だ」
いきなり現れたかと思ったら、手下の1人を薙ぎ払ったドレットを睨みつけ、リーダー格の男は静かに声を発する。
「魔術学園の下っ端講師ですよ」
へらへら、と笑いながら答えるドレットに、リーダー格の男は眉間に皺を寄せる。
緊張感の走る空間に、フロアからの轟音が響く。
「今度はなんだ」
「あーあー、静かにって言ったのに」
フロアへと続く扉を睨みつけるリーダー格の男に、ドレットは悪戯っぽく笑う。
眼を細め、リーダー格の男へと向き直り、ドレットは深呼吸をしながら構えた。
「さあ、やろうか」




