第52話 初めての
「お兄様との方が良かったか?」
ハル達とは反対方向にある広場へ歩きだしたレイとアルフは、2人の間に距離こそないものの、何も話そうとしないレイに、アルフは声をかける。
「そういうわけでは、無いのですが……」
俯き、言葉に悩むレイに、アルフは首を傾げる。
恥ずかしそうに自分の髪を耳にかける仕草をしながら、レイは答える。
「恥ずかしながら、お兄様以外の男性と出かけたことがないもので……」
レイの回答に、アルフは意外そうに眼を開く。
俯いたまま、耳を赤く染めるレイに、アルフは笑う。
「お前ほどの美人なら、男どもは放っとかないだろ」
「……全て、お断りしていましたから」
いくつもの告白を断りながら、自分の隣で恥らいながら歩く一輪の花に、アルフは眼を奪われる。
「なら、俺が初めての男ってわけだな」
意地の悪いアルフの言い回しに、レイはビクリ、と肩を震わせ、アルフを見上げる。
「そんな言い方……!」
「やっとこっち見た」
アルフへと抗議するレイの言葉を遮り、広場の噴水の前で立ち止まりながらアルフはレイの頬に触れる。
「……!」
「熱いな」
普段は冷たく感じるレイの頬が赤く染まり、熱を感じる。
頬を撫でながらアルフは、レイに再度笑いかける。
「お兄様とだけ、ってなら、あんま外に出たことないんだろ?」
「……まぁ」
アルフの言葉に、レイは眼を見開き、すぐに視線を逸らして答える。
「なら、お前のしたいこと、全部してやるよ」
頬から手を離し、そのまま頭を優しく撫でるアルフに、レイの鼓動は高鳴る。
視線をアルフへ戻し、レイは口を開く。
「……あの、」
レイが願望を言葉で声に出そうとしたその時、幼い子供が2人、レイにぶつかり、そのまま走り去って行った。
「きゃ!?」
突然バランスを崩されたレイは、受け身を取ることもなく噴水の中へ倒れ込んだ。
「レイ!?」
すぐに起き上がり、噴水から出たレイは自分の格好を見て、顔を赤らめる。
水に濡れたワンピースは肌に張り付き、下着が浮き出ていた。
「~ッ!?」
レイはすぐに自分の両腕で前を隠すが、広場にいる国民はレイに注目していた。
涙目を浮かべ肩を震わせるレイを見て、アルフは唇を噛む。
「くそっ!」
アルフは、自分の腰に巻いていたデニムシャツをレイの肩にかける。
そして自分が濡れることも考えず、レイの膝裏に左腕、背中に右腕を回し、そのまま持ち上げる。
「!?」
「捕まってろよ!」
レイを抱き上げたアルフは、商店街へと走り出す。
自分を抱えても何の変化もないアルフを見上げ、レイは自分に掛けられたデニムシャツで前を隠す。
決勝戦の時も感じた安心感に、レイは抵抗することなくアルフに身を預けた。




