第48話 アフターヌーンティー&コーヒー
「理不尽だ!!!」
魔術格闘祭の全ての日程を終え、放課後いつものテラス席でアフターヌーンティセットを楽しみながら、ハルが叫ぶ。
「なんだとー。3分にしてやったからフェアだろ」
紅茶を飲みながら、ドレットは力を込める気の無い声で適当に吐き捨てた。
「お前!! 開始30秒で全員捕まえやがって!!!」
今から2時間前。
突如として行われた特別試合は、開始28秒で終了した。
というのも、ドレットが教え子に遠慮することもなく、瞬間移動を連発したからである。
最初に足を痛めていたレイを場外へ優しく座らせ、ティアナの目の前へ移動して捕まえ放り出し、最後にハルを後ろから捕まえ、そのまま乱暴に場外へ蹴り飛ばした。
それにより、優勝を取り消しになった3人は、不機嫌にデザートを口へ運んでいた。
「俺だけ!! 雑!!」
「先生に失礼な態度をとった罰だ」
シュークリームを口へ運びながら、ドレットはハルを戒める。
口を閉じ、機嫌を損ねたままハルはティーカップに入った紅茶を飲み干した。
「テレサは知ってたの?」
目の前に笑顔で座るテレサに、ティアナは頬を膨らませながら尋ねる。
テレサはそんな親友に笑いかけながら答えた。
「えぇ、実行委員だもの。それに、優勝者の特典が豪華な年には、必ずこういう試合を行うのよ」
「そう簡単に単位免除なんてしてやるわけないからな」
頬に手を当て淡々と答えるテレサと、簡単に補足する実行委員会総括に、ティアナは眉間に皺を寄せる。
「なんで言ってくれなかったの?」
「え? だって、事前にそんなこと言ったら、貴女達余計なこと考えて、決勝戦に集中できないんじゃないかと思って」
首を傾げながら言葉を紡ぐテレサに、3人は何も言い返せず、各々のデザートを口へ運ぶ。
「……まぁ、それはいいよ。こうしてまた奢ってもらったし。だが」
拗ねたまま、無理やり納得しようと3人は眉間の皺を深める。
ハルは一度言葉を区切り、自分の隣、レイの目の前に座る男を指さして叫んだ。
「なんでお前がここにいる!?」
オールバックの燃えるような赤髪、月のように落ち着いた山吹色の瞳を持つ3年1組の決勝戦対戦相手、アルフがそこにいた。
「うるせぇなあ。別にいいじゃねぇか」
背凭れに左肘を置き、呆れたようにアルフは声を漏らす。
ハルと比べてもやはり鍛えられているアルフの肉体に、レイは視線を逸らした。
「あの、アルフ先輩?」
ハルでは会話ならないと判断したテレサは、アルフに話しかけるが、鋭いアルフの視線に肩をビクリ、と震わせる。
「あー、アルフでいい。敬語もいらん。めんどくせぇ」
頭を掻きながら、アルフは面倒そうに吐き捨てる。
そんな態度に、見かねたレイは声を上げた。
「貴方、そんなだから幼馴染以外の友人がいないんですよ」
レイはアルフへ真実を端的に告げた。
紅茶でゆっくりと喉を潤しながら言うレイを見て、アルフは本心を漏らす。
「お高く留まってる時は、そんな可愛くねぇな。試合中はあんなに可愛げがあったんだが」
「ゴフッ!?」
アルフの言葉に、レイは紅茶を喉に詰まらせ、唐突に咽始める。
2人のやりとりをしっかりと見ていたお兄様は、アルフに掴みかかった。
「テメェ!! 表出ろや!!!」
「すでに表だバカめ!!」
言い争い始めた2人に、ティアナは頬杖をつき、大きく溜め息を吐く。
「落ち着きなさいよ、ハル。レイだって人を好きになるんだから」
「ゴファッ!?」
ティアナはハルの制服の裾を引っ張りながら兄を諭す。
その言葉に、レイは再度飲みだした紅茶をもう一度喉に詰まらせた。
「大丈夫か?」
「……そう見えるなら、病院へ行くことを強くおすすめします」
ドレットの言葉に、レイは口元をハンカチで拭いながら答える。
そんなレイの様子を見て落ち着いたハルとアルフは席に座り直し、お互い飲み物を口に流し込む。
「アルフ先輩は、」
「アルフ」
「……アルフ、は、コーヒーなのね」
敬語を使おうとして、アルフ本人に正されたティアナは、気まずそうに言葉を続けた。
全員が紅茶を飲む中、1人だけコーヒーで喉を潤すアルフは、眼を泳がせる。
「あー……。紅茶なんて、何がいいのか分かんねぇんだよ」
視線を逸らしながら答えるアルフに、レイは首を傾げるが、何も言わずにマカロンを口に運ぶ。
「そのマカロン、お前みてぇだな」
「……!?」
今度はマカロンで咽そうになるも、なんとか堪えたレイは、アルフに視線を送った。
銀と紫のマーブルカラーのマカロンと、レイを見比べながら笑うアルフに、レイの鼓動は跳ね上がる。
「……余計なお世話です」
ふい、と視線を逸らすレイは、しかし赤く染まった耳をアルフに見せつける形になった。
そんな様子をアルフは愛おしそうに見つめる。
2人が仲良くしているのが気に入らないハルは、ふいにティアナを見る。
優雅にタルトを口に運ぶその姿に見惚れそうになりながら、ハルはティアナの頬に触れた。
「お前、怪我してんじゃねぇか」
「ふぇ!?」
突然触れられたことで、ティアナはビクリ、と肩を震わせる。
白く透き通る肌についた赤い擦り傷をティアナに教えようとしたハルは、彼女の反応に、面白そうに笑った。
「そんな反応するか?」
自分をバカにしていることが分かっても、その優しく、子供っぽい笑顔に、ティアナの鼓動は加速する。
顔を赤くし、視線を背けるティアナに、ハルは首を傾げた。
目の前で繰り広げられる4人の会話に、テレサはチラリ、とドレットを見上げる。
動じることなくサンドイッチを口に運ぶ彼を見て、テレサは小さく頷き、顔を上げた。
「みんな、魔術格闘祭の打ち上げの意味も込めて、親睦を深めるために……」
パン、と手を叩き、5人の注目を集めたテレサは言葉を区切り、とびきりの笑顔で告げた。
「トリプルデート、しましょ❤」




