第39話 迷い
レイは力強くアルフを斬りつけ続ける。
しかし、アルフは躱すスピードを上げ、レイを挑発する。
「どうした?」
「……ッ!」
レイを翻弄する様に動き回るアルフに、レイは柄を強く握り直す。
迷いを見透かすかのように見下すアルフの瞳に、レイは小さく震えた。
「レイ、だったか?」
ゆっくりと近づいてくるアルフに身構えながら、レイは紡がれる言葉に答える。
「お前ら、3回戦で自爆した1年にキレたらしいな」
「……それが何か」
(迷ってはいけない。なのに、狙いが定まらない! これじゃあ、お兄様達の足を引っ張ってしまうことになる……!)
「それは、お前もか?」
「……えぇ」
頷くレイに、アルフは大きく溜め息を吐き、頭を掻く。
呆れたと言わんばかりの行動に、レイの手は小さく震えた。
(何故? 私の考えは今までと何も違わないはず。なのに、この人の前だとこんなにも迷いが出てしまう! 私が震えるのは一体何故? 私は何に……)
「ふんっ!!」
「……!?」
自分の迷いに囚われていたレイは、アルフの接近に反応が遅れ、魔術刀の刃を使い直撃は避けたものの、そのまま後ろへ吹き飛ばされた。
「っあ!!」
レイは頭を強く打ち、あまりの痛みに悲鳴を上げかける。
手放した魔術刀へと手を伸ばし、レイは体勢を立て直そうとした。
その時、レイの上に大きな影がかかった。
「……え?」
「レイ!?」
ハルが戸惑いの悲鳴を上げる。
運悪く、レイはゴーレムの足元へ吹き飛ばされ、2トンの怪物に踏み潰される寸前であった。
(避け、られない! このまま、潰される!!)
レイが死を予感し、眼を固く瞑った瞬間、3人が同時に動き出した。
「レイ!!」
アルフがレイの名前を叫び、ゴーレムの足と地面の間に滑り込み、レイを抱きしめる。
「……ッ!!」
「蔦アァァ!!!!」
「風の女神、ゼピュロス!!!」
ハルが発生させた蔦はゴーレムの腰に巻き付き、後方へと引っ張る。
ティアナの魔術により巻き起こった突風はゴーレムの頭部を直撃し、バランスを崩す。
できた隙間から、アルフはレイを抱きしめたまま、転がるようにしてゴーレムの足元から脱出した。
レイを強く抱きしめ転がったため、ダメージは全てアルフが負い、苦痛に顔をゆがませる。
何が起こったのか理解が追いつかないレイは、そっと眼を開けた。
「無事か?」
「……ッ!?」
至近距離にアルフの顔を認識して、レイは顔を赤らめる。
遠くからでは分からなかった整った顔立ちに、レイは慌てて視線を逸らした。
そんなレイの反応を見て、無事を確認したアルフは、もう一度レイを強く抱きしめる。
「よかった……!」
抱きしめられ、押し付けられるガッシリとしたその肉体に、不覚にもレイの鼓動は高鳴り、収まることを知らない。
「な、なっ……!」
(この状況は、一体!? ……多分、この人が助けてくれたのでしょうけど、この人が殴り飛ばさなければあんなことにはならなかった。でも、この人はこんなにも温かい……)
レイが混乱しながらアルフの腕の中で眼を閉じかけたその時、ハルの叫びが轟く。
「おいテメェ!!! 人の妹に手ぇ出してんじゃねぇ!!!!!」
ゴーレムの攻撃を躱しながら、ハルはアルフを威嚇する。
その様子を面白そうに眺めながら、アルフもまた叫び返した。
「いいじゃねぇか!! こんな美人、放っとくなんて勿体ねぇ!!!」
「び、美人!?」
アルフは身体を起こしながらレイを抱き起し、自分の頭をレイの頭の上に乗せる。
普段言われ馴れない言葉に、顔を更に赤くし慌て出すレイに、眼を細め笑うアルフは、レイの額にキスをした。
「何慌ててんだ。すげえ美人だよ、お前は」
「……ッ!!??」
レイは、アルフの唇が当てられた部分を両手で押さえ、涙目で抗議する。
その様子を愛おしそうに眺めるアルフは、更にレイの銀髪にも口づけをした。
「テッメェ!!!! 美人なのは認めるが許さん!!! 俺が直接殺す!!!!」
「やってみろシスコン!!!」
「ちょっと、ちゃんと集中しなさいよ!」
男2人の不毛な争いに、ティアナが声を上げる。
そのやり取りに、眼を細めて笑うアルフは、レイに視線を戻すが、突然現れた魔術刀に切りつけられた。
「うおっ!?」
アルフは間一髪のところで後ろに跳び、レイの一撃を避ける。
涙目になり、手を震えさせながら睨んでくるレイに、アルフはもう一度愛しそうな目を向けた。
「今、どうやって避けたんですか!!」
自暴自棄になって叫ぶレイに、アルフは声を上げて笑う。
「教えてほしいなら、手取り足取り教えてやるぜ?」
「やっぱりいいです!!!」
「遠慮すんな、よ!!」
涙目で叫ぶレイを思い切り笑った後、今までのふざけた雰囲気を一掃し、アルフはレイに殴り掛かる。
容赦なく襲いかかってくるアルフに、レイは歯を食いしばり、その拳を跳ね返した。




