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第24話 舞台裏


「今回も怪我人無し。おつかれ」


 控え室にて、3人はドレットの身体検査を受ける。

 相変わらずやる気の感じられない声で、ドレットはねぎらいの言葉をかけた。


「あとは明日の試合に備えて、早く休めよー」


 そう言い残し、部屋を去ろうとするドレットを、居合わせたテレサが捕獲する。

 逃げられないよう白衣を掴み、テレサはドレットに提案した。


「ドレット先生も、この後のお茶会に参加しませんか?」

「お茶……?」


 放課後恒例のお茶会。

 それにドレットを誘い、親睦を深めようというのが表向きの理由。

 だがその裏には、ドレットにしっかりとした料理を食べさせようという目的があった。


 作戦はこうだ。

 ドレットをお茶会に誘い、適当な時間がたったところで、ハルが『飯が食いたい』と言い出す。

 それに続き、レイとティアナもお腹が空いたそぶりを見せる。

 そして全員で早めの夕飯を取る、というもの。


 作戦を立案したのはティアナとテレサ。

 ハルはレイに頼まれ、渋々協力をする形で参加した。


(これは千載一遇のチャンス! また教室の外で会えるか分からない幻の存在なのだから、今を逃したら、次にいつ機会が巡ってくるかわからないもの!)


「ドレット先生、どうですか?」


 ティアナとテレサ、2人でドレットに詰め寄る。

 じりじりと近づいてくる教え子に、ドレットは迷惑そうな顔をし、溜め息を吐いた。


「まぁ、茶くらいなら……」


 力なく、諦めたようにドレットが吐き出したその言葉に、ティアナとテレサの眼はキラリと光る。


「やったあ!」

「行きましょ、先生!」


 ティアナはドレットの右腕を、テレサは左腕を引っ張り、控え室の扉を勢い良く開け食堂へ向け歩いていく。

 控え室に残された2人は、開けっ放しになっている扉を呆れたように見つめた。


「お兄様」


 静かに立ち上がったレイは、扉を閉め、ハルに声をかける。

 座ったまま頭の後ろで両手を組むハルは、レイにちらりと視線を送る。


「王族の者は、見つかりましたか?」


 紡がれたレイの言葉に、ハルは大きく目を見開く。

 静かに振り返るレイの表情は、真剣そのもであった。


「この国の王族の特徴、特性、その他王族に関わる情報は、代々長子にしか受け継がれませんから」


 私にはわからない、と告げるレイに、一瞬、ハルは言葉を詰まらせた。

 この学園に在籍する王族、それはティアナただ1人。

 それを今、レイに伝えるべきか否か。

 迷った挙句、ハルは1つ、レイへ問いかけた。


「お前は、ティアナをどう思う?」

「え? ……あの人は、お兄様を惑わせようとする大嫌いな人です」


 何の関係性も無いように見えるハルの問いかけに、一瞬困惑しながらも、レイははっきりと答えた。


「そうか、」

「ですが」


 しかし、ハルの言葉を遮り、レイは続けた。


「……悪い方では、ない、かと」


 自分の髪に触れながら、照れたようにそう告げたレイを見て、ハルはもう一度眼を見開いて驚愕する。

 妹が、今まで自分に一度も見せたことの無い表情に、ハルは、否、と結論を下す。


「王族については、後々通達してやる。その時まで、爪を隠しておけ」


 立ち上がりながらレイの質問に答えたハルを見て、レイは少し顔を歪める。

 レイは、躊躇いながらハルへ問いを投げた。


「……お兄様、迷っては、おりませんか?」


 扉に手をかけたハルは、ピクリ、と肩を揺らす。

 動きを止めたハルは、静かにレイへ視線を滑らせた。


「……次に、俺に対して同じことを言ってみろ。最愛の妹とはいえ、容赦はしない」


 圧倒されるほどの殺意をハルから感じたレイは、自分の失態に、最愛の兄の視線に、背筋が凍る。


「失礼いたしました」


 頭を下げ、謝罪を述べる妹から視線を外し、ハルは怒りを滲ませた声で告げる。


「我が血族の、いや、俺の悲願が叶うその日まで、俺が止まることは、ましてや迷うことなど、一度もあってはならない。俺は必ずこの国を……!」


 低く、聞くものを心の底から声を震わせるハルの眼には、確かな憎悪の炎が灯っていた。




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