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復讐者のM&Aー4

やがて、見たことも無い高級車が横付けされているビルにたどり着いた。

クラクションが鳴る。

後ろを見ると、悠里を乗せた鋭一の車が、ちょうど到着した合図だった。

「あ、都さんっ」

中から出てきた悠里が、都を見つけ近寄る。

「私も、ちょうど一緒だったから、ついてきちゃった」

「そうなんだー。私たちも急な緊急コールで驚いちゃった」

「ああ、何年ぶりだ?緊急コールなんて、久しぶりすぎて、一瞬何の音か解らなかったぐらいだな」

鋭一も、言った。

二人とも急いできたのだろう。鋭一も髭の剃り残しがあったし、悠里に至っては、ワンピースのボタンを2つほど掛け違えていて、都に治してもらっていた。

我が妹ながら、本当に不器用なやつである、

「鋭一さん。悠里。この人が斎木さん。《サンクチュアリ》のメンバーだって」

 そんな二人に、斎木を紹介する。

「はじめまして。我がリーダーがこのビルでお待ちしております。どうぞ中へ」

斎木が一礼する。

「おかしいな。俺の記憶だと、ここは他の正義の組織の事務所だったはずなんだが……」

鋭一が、首をかしげる。

「はい、ここは元々《フェイスフル》と言う正義の組織の事務所です」

斎木は、鋭一の言葉に頷くと、そう言った。

「かの組織は先日、ウチが組織ごと買い取ることになりましたので、使わせてもらいました」

組織ごと買い取るなど、聞いたことが無い話だった。

「さぁ、時間がありません。どうぞこちらへ」


斎木に案内されて中に入る。

ビルの一フロアが事務所となっていた。

ビル内部の壁は薄汚れており、所々小さな亀裂が走っていた。部屋の入り口横の壁だけが、長方形の形に建築当時のままの色を保っていた。おそらく前の正義の組織の看板が、ここに長いことかかっていたのであろう。

部屋に入ると、いくつかの机と、空の棚が閑散とした雰囲気のなかで並んでいた。

人が使わないで暫くたっている為、うっすらと誇りが積もっている。

「この、事務所は数か月前に買い取ったは良いものの、使うことなく今まで使っておりませんでしたので、汚れておりますがご容赦ください。奥の応接室は当時のまま、きれいに掃除してありますので、ご安心を」

斎木はそう言うと、部屋の奥の応接室に続く扉を開けた。

航輝達も、続いて部屋に入る。

そこには、大き目のソファーに悠然と座った二十歳前後の女性と、その周りに立っている屈強な男たちがいた。

ソファーに座っているのが、聖園・ジゼル・由美香だ。

テレビで何度か見たことがあるので航輝もよく知っている。灰色のスーツに、浅黄色の目と同じ色をした首飾りを着けた目つきの鋭い美人である。

「《スターライツⅤ》のレッド、天地航輝様をお連れしました」

「おそいですよ、斎木。わたくしには、こんな所で待っている時間はありません」

斎木の報告に、由美香が注意する。

「申し訳ありません。メンバー全員でなければ合わないとの条件でしたので」

由美香は航輝の方をみて、大きなため息をついた。

「……条件など、出せる立場ではないでしょうに」

後ろで都の怒気が膨らむのを感じる。しかし、ここで怒っていては話が出来ない。

航輝は一歩前に出ると、自己紹介を始めた。

「はじめまして《サンクチュアリ》のリーダー。俺が《スターライツⅤ》のリーダー、天地航輝です」

どんなに規模の差があっても、正義の組織のリーダー同士は同格である。

航輝は、へりくだらない様に挨拶をした。

由美香は、そんな航輝を見据えると。

「お呼び立てをして申し訳ない《スターライツⅤ》のリーダー。もうご存知でしょうが、わたくしが《サンクチュアリ》のリーダー、聖園・ジゼル・由美香です」

と、形式通りに返す。

由美香は、「おかけなさい」と言って自分の対面のソファーに座るよう促した。航輝達は、航輝、都、悠里、鋭一の順で並んで座ることにする。

斎木が、温かい紅茶を運んでくる。優しく温かみのある香りが、立ち上っている。

「お砂糖は?」と聞かれ、断る。

航輝は、出された紅茶を一口飲むと、先に要件を切り出すことにした。

「聖園さん。用件を聞く前に。謝らなければならないことがあります」

航輝は、まず、由美香が怒る原因となった二つの件を、謝罪するつもりだ。

作戦遂行の為に起こった迷惑など、本来は気にすることではない。だが、これで由美香の気持ちが晴れてくれるならば安いものである。

「最高の一瞬に、あのような不祥事を引き起こす事になってしまい申し訳なく……」

「天地さん」

由美香は、航輝の謝罪の言葉を、最後まで聞くことなくこういった。

「は、はい」

「『そんなこと』はどうでも良いのです」

言下に切って捨てた。

なんだ、そんな事しか言えないのかという目線が航輝を切り裂く。

「そ、そうですか」

それしか言えない。

「それより、今日はあなた方に『お願い』があって参りましたの」

由美香はそう前置きすると、静かに言った。


「《スターライツⅤ》は、今後、我々《サンクチュアリ》の傘下に入ってください」


航輝は最初何を言われているのか解らなかった。

「すみません、いま何と?」

「聞こえませんでしたか?《サンクチュアリ》の傘下に入れと言ったのですよ」

今度こそ、完全な命令形で、由美香が言う。

「傘下に入った後は《サンクチュアリ》から出向する正義の味方が、《スターライツⅤ》の正式メンバーとなりますわ。あなた方はそこで、その正義の味方の心構えから正義の組織の運営と、正義の味方がなんたるかを一から学んで戴きます。そしてその後、折を見て、あなた方が正式メンバーとして……」

「まって!!待ってくださいっ!!!」

航輝は、一人でどんどんと話を進めてしまう由美香の言葉を遮った。

「話が見えません。我々がなぜ、あなたサンクチュアリの傘下に入らなければならないんですかっ!?」

《スターライツⅤ》も、父の代から、もう何十年も続く古い正義の組織だ。《サンクチュアリ》の傘下に入る必要など何一つない。

それに、由美香の話では、傘下に入ったら《サンクチュアリ》から出向してくる正義の味方の指導を仰ぎ、自分たちは予備要員すなわち『見習い』になると言うことではないか。

現役で戦っている正義の味方に対して、失礼極まりない話だ。到底、納得できない。

「あら、気に入りませんでしたか?」

「気に入るも何もありません。俺達は一個の組織です、どこかの組織の傘下に入るつもりなどはありませんよ」

航輝はきっぱりと、断った。


「そうですか。解りました、では今後も、引き続き悪の組織は仕事を受けてはくれ無いし、装備の購入も出来ないというだけです」

由美香は傲然と、悠然と笑みを浮かべながら言う。

「万一、仕事を受ける様な組織があれば、わたくし達が全力で潰して差し上げます」

と、由美香は言い添えた。

彼女の視線は鋭く、何の覚悟もないものならば到底正面から受け止めることは出来ないだろう。しかし、航輝はきっぱりと言い返す。

「それは、できません。それでは《スターライツⅤ》が潰れてしまいます」

「あら、やはり理解していらっしゃいませんでしたか?端的に言えば、速やかに、潰れるべきだと申し上げているのです」

あまりの事に航輝は言葉が出ない。この女性は、なにを言っているのか。

由美香は、斎木の入れた紅茶に口をつける。

「聞いたところによりますと、あなた方は、わたくしたちが介入する前も、二か月間以上、お仕事をなさっていらっしゃらなかったのでしょう?そんなの、もはや正義の組織ではありませんわ」

「……ッ!あんたっ!!黙ってきいてりゃ!航輝達は好きで作戦をしなかったわけじゃ……」

「お黙りなさい」

抗議しかけた都を、由美香は一言で黙らせた。その一言は、決して大きな声では無かった。しかし、そこには巨大な組織を束ねるものだけが持つ自信に満ちていた。

「わたくし決めましたの。仕事もロクに出来ないような正義の組織が多くあって、わたくしたちのお仕事を邪魔している……。なら、それは潰してしまった方がよろしいのだと。おわかりかしら?ねぇ、おじょうちゃん」

侮蔑の色を込めた言葉に、都は呆れて口もきけなかった。

「それで……俺達に圧力をかけたってのか?」

鋭一が、都と由美香の会話に割って入る。都は言い返すタイミングを失い、ソファーに座りなおした。

「ええ、もうウンザリなんですよ。本当に正義を守っているのかすら解らないような小さな組織の作戦で、わたくしたちのお仕事が邪魔されるのは」

由美香が吐き捨てるように言った。

紅茶を飲もうとして、カップの中の紅茶がぬるくなっている事に気が付き、傍らに立つ斎木に「新しいものを」と命じている。

「ですから、わたくし考えたんです。わたくし達の作戦に影響のない程度のお仕事を、紹介して差し上げましょうって!」

彼女はそれが双方にとって素晴らし事だと信じて疑っていない。由美香の笑顔がそれを証明していると、航輝は思った。

毒の微笑が航輝達に向けられる。

「わたくしたちは、常に悪の大組織と戦っています。ですから、皆さんの能力に見合ったお仕事を回して差し上げましょう。報酬はウチが七、皆さんが三の割合ですが、お仕事を自分で探してくる必要が無いんですから、安いものでしょう?」

なるほど、そういう事か。

航輝は由美香の言いたいことが、ようやく解ってきた。

自分たちの活動に、アドバルーンときのような邪魔が入らないよう、零細の正義の組織を、全部潰してやろうと言うのだ。

まず圧力をかけて潰れれば良し。

もし、正義の味方を続けたいという零細組織があれば、その組織自体は残し、元のメンバーを全員『見習い』にして、出向してくる《サンクチュアリ》の正義の味方と入れ替える。

後に残るのは『《サンクチュアリ》の正義の味方がいる零細組織』という事だ。

そうであれば、アドバルーンや大看板の時の様な事件は起こらない。

アドバルーンの一件が『どうでも良い』とは、よくも言ったものである。

おもいっきり、気にしているではないか。


考えを巡らせている航輝の事などお構いなしに、由美香は自らの案の利点を滔々と述べ続けている。

「出向する正義の味方はベテランですから、後の事は心配することはありません。『見習い』になっても、悪の組織と戦うことは出来ますし、各自の実力がついてくれば、同じような実力の者を集めて新しい正義の組織を立ち上げてあげても構いませんよ。

まぁ、個人で独立する場合は、ウチに違約金を払ってもらいますけれどね。これも一所懸命働にいていれば、貯めることが出来る額は出しましょう」

つまり、由美香の考えている事は、航輝達の様な小さい組織を乗っ取り、そこの正義の味方を、正式のメンバーとしてではなく『見習い』として、こき使おうということだ。

確かに、よく考えられている。その方が、組織の経営をするにしても、安上がりである。

『見習い』と『正式メンバー』に支払う給与では、十倍も違うのだ。


「ひとつ教えてください」

それまで無言だった。悠里が急に口を開いた。膝の上におかれた手が、ワンピースのスカート部分を握りしめている。

航輝の横で立ちながら

「あなたは?」

由美香は、自らが考えたビジネスモデルを、気持ちよく披露していた所で、急に話を遮られて、不快さを隠せない。

悠里は、由美香の迫力に怯えながら続けた。

「スターライツブルーの天地悠里です。ひとつだけで良いので教えてください」

「はやくなさい」

 見た目、小学生にしか見えない悠里が、おずおずと聞くので、都の時のように怒れなかったのだろう。由美香は質問を許した。

「小さな正義の組織が相手をしていた、中堅どころの悪の組織はどうなさるんですか?」

悠里が聞いた。

「まずは、やる気のない正義の組織が潰れれば、それで結構。無頼の輩の事など知りませんわ」

由美香は言下に切り捨てた。

「でも、小さな組織が相手しているから《サンクチュアリ》さんのような大きな組織に迷惑をかけないで済んでいると思うんです」

悠里は、なおも言い募る。頭のいい悠里にしては、質問の意図がよくわからない。

いま、悪の組織の事など気にしてどうするのだろう。

「そんなこと……。正義の組織も、悪の組織も多すぎるんですのよ。あなた達、正義の味方を壊滅させたら、次は、中堅どころの悪の組織も一掃して差し上げますわッ!!」

 由美香も、それで満足でしょうと言わんばかりに言い放った。

「そう、ですか……」

由美香は、悠里が引き下がったのを見ると。航輝の方を向いて言った。


「そしてなにより、《サンクチュアリ》が戦っているのは、悪の大組織です。その戦いの一端を担当できるのですよ?

商店街だの、町内会だのの平和を守るよりは、世界平和の為に戦っている方が、少しは正義の味方として良い気分に浸れるでしょう?」


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