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聞く耳を持たない王国  作者: 耀悟


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西の大陸

聞く耳を持たない王様

――五人の地主と、偶然に重なった謁見の日――


西の大陸には、五つの大きな国が存在していた。


そして、そのはるか東には――地図の端から端まで続く、不毛の大陸があった。


そこには、かつて幾つもの国が存在したという。


豊かな森があり、川が流れ、人々が町を築き、王たちが城を構えていた。


しかし、それは遠い昔の話だった。


今の不毛の大陸には、ほとんど人が住んでいない。


大地は黒くひび割れ、草木は枯れ果てていた。


川の多くは干上がり、風が吹くたび、赤黒い砂が空へ舞い上がる。


鳥さえも、その地に巣を作らなかった。


人々は言った。


――あの大陸は、神に見捨てられた。


ある者は言った。


――昔、恐ろしい戦争があったのだ。


またある者は言った。


――いや、あそこには今も何かが眠っている。


しかし、西の大陸の人々にとって、不毛の大陸は遠い世界の話だった。


彼らには、それよりも身近な問題があった。


戦争である。



---


北方の果て。


一年の大半を雪と氷に閉ざされた国――氷の国。


その城壁は、数百年をかけて凍りついた巨大な氷山から造られていた。


城の周囲には白い吹雪が渦巻き、侵入者を拒んでいる。


氷の国の人々は、厳しい自然の中で生きてきた。


彼らは寒さに耐え、飢えに耐え、そして長い冬を生き延びる強さを持っていた。


そのため、氷の国の魔法使いたちは強力だった。


一人の魔法使いが両手を広げれば、湖が凍った。


怒りに満ちた者が杖を振れば、敵兵の足元から巨大な氷柱が突き出した。


氷の国には、すべてを凍らせる魔法使いがいた。



---


大陸の中央東部。


広大な平原に、白く輝く神殿と巨大な城を築いた国――光の国。


朝日が昇ると、神殿の壁は黄金色に輝いた。


遠くから見れば、それはまるで天上の世界に存在する神々の城のようだった。


光の国には、傷を癒やす者たちがいた。


病に苦しむ者を救う者。


深い傷を癒やす者。


そして、闇の魔力を払う者。


人々は彼らを「光の使徒」と呼んだ。


しかし、その力はいつしか、国の誇りを越えた。


光の国の支配者たちは考えるようになった。


――これほど素晴らしい力を持つ我々が、大陸を導くべきではないか。


光の国には、傷を癒やし、闇を払う聖なる力を操る者たちがいた。


そして同時に。


自らこそが正しいと信じる、強い誇りがあった。



---


無数の川と湖。


そして青い海を支配する国――水の国。


水の国の町は、巨大な川の両岸に沿って発展していた。


人々は船で移動し、魚を獲り、水路を通じて交易を行っていた。


水は彼らの命だった。


しかし、水は時として武器にもなった。


水術師たちは、大きな波を起こすことができた。


川の流れを変え、敵の船を転覆させることができた。


海の上では、水の国の艦隊に勝てる国はほとんど存在しなかった。


水の国には、海や川を自在に操る水術師たちがいた。



---


南方。


灼熱の大地。


火山と赤い岩山に囲まれた国――火の国。


大地の下では、常に炎が燃えていた。


火山が噴火するたび、赤い空が生まれた。


火の国の人々は、炎を恐れなかった。


炎のそばで生まれ、炎のそばで暮らし、炎とともに戦った。


火の国には、炎を操る戦士たちがいた。


彼らは剣に炎をまとわせた。


槍の先から火を放った。


そして、怒りを力へと変えた。


火の国の戦士たちは、大陸でもっとも恐れられていた。



---


そして西。


深い森林と高い山々。


自由な風とともに生きる国――風の国。


風の国には、巨大な鳥に乗る騎士たちがいた。


また、風の魔法を使い、短時間なら空を駆けることのできる者もいた。


彼らは山を越え、谷を越え、誰よりも早く情報を運んだ。


風の国の人々は自由を愛した。


誰かに支配されることを嫌った。


そのため、強い王が国民を一方的に支配することは難しかった。


彼らにとって風とは、自由そのものだった。


風の国には、風を操り、大空を駆ける者たちがいた。



---


五つの国。


五つの力。


五つの誇り。


本来ならば、それぞれが違う場所で暮らし、違う文化を築いていればよかった。


しかし――。


西の大陸には、平和という言葉は存在しなかった。


五つの国は、何百年もの間、争い続けていたのだ。


氷の国と火の国は、互いを憎んでいた。


「火は氷を溶かし、我らの土地を奪う!」


「氷は我らの炎を封じ、火の国の未来を奪う!」


水の国と風の国もまた、長い対立を続けていた。


海を支配する水の国と、空を自由に飛ぶ風の国。


互いに交易路を奪い合い、何度も戦争を繰り返した。


そして、光の国は五つの国の中心に位置していた。


光の国は長い間、自分たちこそが大陸を導くべき存在だと考えていた。


「光こそが正義である」


「我らが五つの国を導く」


その思想は、ほかの国々の反感を買った。


そして西の大陸は、長い戦乱の時代へと突入した。


村は焼かれた。


家族は離れ離れになった。


子供たちは、戦争が何のために行われているのかも知らないまま、戦場へ送られた。


氷の大地では、凍りついた兵士たちが眠った。


火の国では、燃え尽きた町が灰になった。


水の国では、沈んだ船とともに、多くの命が海の底へ消えていった。


風の国の山々では、何千もの兵士たちが空から落ち、二度と故郷へ戻ることはなかった。


光の国では、白い神殿が戦火によって黒く焼けた。


誰もが疲れ果てていた。


それでも、誰も戦争を終わらせることができなかった。


なぜなら、誰も最初に手を差し伸べる勇気を持てなかったからだ。


敵を許すことは、弱さだと思われていた。


謝ることは、負けることだと思われていた。


話し合うことは、敵に利用されるだけだと信じられていた。


そうして、戦争は続いた。


一年。


十年。


百年。


誰も、平和な世界を知らなくなっていた。



---


地主の王への謁見


そんな争いの最中だった。


西の大陸の歴史を変える、奇妙な出来事が起こった。


それは、偶然だった。


少なくとも、その時の人々はそう思っていた。


五つの国で。


同じ日に。


それぞれの領地を治める地主たちが、国の王へ謁見することになったのである。


地主とは、単なる土地持ちではなかった。


西の大陸では、王がすべての土地を直接管理していたわけではない。


広大な土地は、それぞれ有力な地主に預けられていた。


地主は村を守った。


農民を雇った。


収穫物を管理した。


税を集めた。


そして戦争になれば、自分の領地から兵士を送り出した。


そのため、地主たちは国の王に次ぐほどの力を持っていた。


氷の国では、十二人の大地主がいた。


火の国では、九つの戦士領を支配する地主がいた。


水の国では、巨大な港と河川を管理する商業地主たちがいた。


風の国では、山岳地帯や森林を治める氏族の長たちがいた。


光の国では、神殿に土地を寄進した古い地主たちが、広大な農地を所有していた。


彼らが一斉に王と会うことは珍しかった。


しかも。


五つの国すべてで、同じ日に。



---


氷の国――白氷城


その朝。


氷の国の首都では、猛烈な吹雪が吹いていた。


白氷城の巨大な門が開く。


冷たい空気の中、一人の老人が城へ入っていった。


分厚い毛皮の服。


長い白髪。


杖をついたその男の名は、エルド・ヴァルガ。


北部最大の領地を持つ地主だった。


彼は、何百人もの農民と兵士を管理していた。


エルドが謁見の間に入ると、氷の国の王が玉座に座っていた。


「エルド」


「陛下」


老人は膝をついた。


「北部の土地について、報告がございます」


「話せ」


「今年も、畑が減りました」


王の表情が変わった。


「……何?」


「戦争で男たちが死に、畑を耕す者が足りません」


エルドは続けた。


「さらに、若者たちを兵士として徴兵すれば、来年はさらに収穫が減ります」


王は黙っていた。


エルドは、震える声で言った。


「陛下。私は長年、この国のために土地を守ってきました。しかし……もう限界です」


「何が言いたい」


「戦争を、終わらせるべきです」


謁見の間が静まり返った。


兵士たちが顔を上げた。


王はゆっくりと立ち上がった。


「エルド」


「はい」


「お前は、敵に屈しろと言うのか」


老人は首を振った。


「違います」


そして、まっすぐ王を見た。


「国民がいなくなれば、勝利しても国は残りません」


その言葉に、王は何も答えられなかった。



---


火の国――炎王宮


同じ頃。


火の国でも、一人の地主が王の前に立っていた。


名は、ガラン・ドレイク。


彼は火山地帯に広大な土地を持つ地主であり、かつては名高い戦士でもあった。


「陛下」


「ガラン。兵は集まったか」


王が尋ねる。


ガランは、静かに答えた。


「集まりません」


「何?」


「集まっても、少年ばかりです」


王の眉が動いた。


「男たちはどうした」


「死にました」


その言葉が、炎の灯る広間に落ちた。


「父親は戦場で死にました。兄も戦場で死にました」


ガランは拳を握った。


「今、残っているのは、まだ剣すらまともに持てない子供たちです」


「それでも戦争は続ける」


王が言った。


ガランは目を閉じた。


「……では、陛下」


そして顔を上げた。


「次は誰が畑を耕すのでしょう」


王は答えなかった。



---


水の国――青波の宮殿


水の国では、港を支配する女性地主、マレーナ・フィスが王の前に立っていた。


「海の状況はどうだ」


「最悪です」


「風の国の攻撃か」


「それだけではありません」


マレーナは地図を広げた。


「船が足りません」


「なぜだ」


「造船所で働く者が戦争へ送られているからです」


彼女はさらに続けた。


「魚を運ぶ船も減っています」


「……」


「食べ物が届かなければ、戦争より先に人々が飢えます」


水の国の王は、地図を見つめた。


そこには、赤い印がいくつもついていた。


沈没した船。


失われた港。


攻撃を受けた交易路。


そして。


空白になった場所。


人がいなくなった村。


「陛下」


マレーナは言った。


「敵を倒すために、我々自身が滅びる必要があるのでしょうか」


王は、答えられなかった。



---


風の国――空の王宮


風の国では、山岳地帯を管理する地主、リオン・フェルが女王の前にいた。


彼は若い地主だった。


まだ三十歳にもなっていない。


「リオン」


風の国の女王が言った。


「お前の領地から、次の兵を出せ」


「できません」


「理由を聞こう」


「出す者がいません」


女王の目が鋭くなった。


「徴兵を拒否するのか」


「違います」


リオンは顔を上げた。


「本当に、いないのです」


彼の声には怒りがあった。


「若者たちは死にました。父親たちも死にました。残っているのは老人と子供ばかりです」


女王は黙った。


「陛下」


リオンは言った。


「私は敵のために戦争をやめろと言っているのではありません」


「ならば何のためだ」


「自分たちのためです」


その言葉に、女王は初めて表情を変えた。


「これ以上続ければ」


リオンは続けた。


「風の国は、風だけが残る国になります」



---


光の国――白光神殿


そして、光の国。


巨大な白い神殿の奥。


光の国の王の前には、一人の地主が立っていた。


名は、アルベルト・セイン。


広大な農地を持つ地主であり、光の国でもっとも古い家系の一つだった。


「アルベルト」


王が言った。


「神殿の軍は、次の戦争に備えている」


「存じております」


「ならば、お前の領地から兵を出せ」


「お断りいたします」


周囲の空気が凍った。


兵士たちが一斉に剣へ手をかけた。


「……今、何と言った」


王の声が低くなった。


アルベルトは答えた。


「お断りいたします」


「貴様……!」


「陛下」


地主は頭を下げた。


「私の領地には、もう兵として送り出せる者がほとんど残っておりません」


「それでも出せ」


「できません」


「なぜだ!」


アルベルトは、ゆっくりと顔を上げた。


「彼らは人間だからです」


王が動きを止めた。


「兵ではありません」


アルベルトは言った。


「農民であり、父親であり、息子であり、誰かの家族です」


誰も言葉を発しなかった。


「光が正義なら」


アルベルトは続けた。


「我々は、これ以上人々を暗闇へ送り込むべきではないはずです」



---


五つの国で、同じ言葉


その日。


五つの国。


五つの王。


そして五人の地主。


彼らは互いの国で何が起きているのか知らなかった。


氷の国のエルドは、火の国のガランを知らない。


ガランは、水の国のマレーナを知らない。


マレーナは、風の国のリオンを知らない。


リオンは、光の国のアルベルトを知らない。


それでも。


彼らは奇妙なほど似た言葉を、王たちに伝えていた。


――もう限界です。


――これ以上、人を失わせることはできません。


――国を守るために始めた戦争で、国民がいなくなっています。


そして。


その日の夜。


五つの国の王たちは、それぞれ眠ることができなかった。


氷の国の王は、凍った窓の外を見ていた。


火の国の王は、燃える炎を見つめていた。


水の国の王は、暗い海を見ていた。


風の国の女王は、夜空を飛ぶ鳥を見つめていた。


光の国の王は、暗くなった神殿に一人座っていた。


それぞれの心に、同じ問いが生まれていた。


――我々は、何のために戦っているのだろう。


誰も、その答えを知らなかった。


しかし。


同じ頃。


西の大陸のさらに東。


誰も近づかない不毛の大陸で――。


地面の奥深く。


黒い大地の下で。


何かが、ゆっくりと目を開けた。


長い眠りの終わりだった。


乾いた地面に、一本の亀裂が走る。


そして。


闇の中から、低い声が響いた。


「……五つの王が、迷い始めた」


声の主は、誰もいない暗闇の中で笑った。


「ならば、次の時代を始めよう」


不毛の大陸の上空に、黒い雲が集まり始めた。


そして西の大陸ではまだ誰も知らなかった。


五人の地主が、それぞれの王に謁見したあの日が。


数百年に及ぶ戦争を終わらせる、最初の一日となることを。


そして同時に――。


西の大陸と不毛の大陸、二つの世界を巻き込む新たな物語の始まりだったことを。

戦争はどうなってしまうのか

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