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9-28(エピローグ).

 私の…ボクの…僕の正体がバレた。僕はどこかほっとしている。僕は王都カイルのフィッシャー家の自室の窓から夜空を見上げた。


 僕は思い出す。『迷宮物語』を始めた頃のことを…。


 両親の操り人形から解放された…まあ、見捨てられたんだけど…僕はオンラインゲームに夢中になった。中でも『迷宮物語』はハマった。特に『TROF』に参加してからは面白かった。いろんな戦略を考えて『TROF』を勝利に導いた。みんなが僕を褒めてくれた。両親に褒められたことがほとんどない僕を、ゲーム『迷宮物語』の中では、みんなが褒めてくれた。それは、とても心地よかった。


 だけど、僕は当たり前の勝利にだんだん飽きてきた。


 そんな時だった。他のゲームでもPVPで有名なメンバーで作ったクラン『流浪の傭兵団』が『迷宮物語』に参加してきた。僕はこれだと思った。一度、僕の戦略で勝たしてやったら、すぐに、僕は『流浪の傭兵団』のマスターに祭り上げられた。


 そこから先は、それまで以上にみんなが僕の掌で踊った。『TROF』も『流浪の傭兵団』もだ。


 陣営戦の勝敗は僕が決めていたようなものだ。しかも、勝負の行方だけじゃなく、それがどんなシナリオを経て決まるかもだ。


 僕は病気だ…。


 ただ、ゲームで勝つだけは満足できなかった。僕が考えた通りにみんなが動いて、その上で勝つ。きっと、僕が両親の期待に応えられなかった反動だ。いや、それもいいわけか…。


 そして、僕はこの世界に生まれ変わった。この世界に生まれ変わっても僕の心は病気のままだった…。


 最初にベルゼフに会った時、彼がこの世界でも覇権を取るなんて言っているのを聞いて、馬鹿な奴だと思った。僕は心の病気だが、この世界を不幸にしたいとも死にたいとも思ってなかった。だから僕は、ベルゼフの野望を防ごうと思った。


 そこまでは…まあ、悪いことではない。だけど、僕はその時思いついてしまった…。


 ベルゼフの野望を防ぐという目的を、みんなを僕の掌の上で操った上で、成し遂げたら面白いんじゃないかと…。きっと僕はそのためにこの世界に生まれ変わったんだ! 僕は、そんな考えに取り憑かれた。


 『迷宮物語』の時と同じだ。一度その考えに憑りつかれると、逃げ出すことなんてできなかった。やっぱり、僕は病気だ。


 この世界の両親は、前世の両親と違って、僕を比較的自由にさせてくれた。きっと、僕のことを愛している。僕にとって、この世界は悪くない。だとしたら、もっと穏やかな方法でベルゼフの野望を防いでも良かったはずだ。なのに…。


 それに、アルスは……。


 不思議だ。計画通りに主人公のアルスに近づいたのだが、アルスの隣にいるのは思いのほか心地よかった。アルスが主人公だって言うのはすぐにわかった。容姿を見れば一目瞭然だ。あれは、プレイヤーが何もカスタマイズしなかった時の男性主人公の姿だ。


 アルスを含めた仲間達との学園生活や迷宮攻略は楽しかった。気がついたら、仲間達は僕の大切な人になっていた。中でも、アルスは特別だ。


 僕がベルゼフに傷つけられると、本気で怒ったアルスが覚醒した。あれは、きっとゲームの強制力のせいだ。ただ、ゲームのシナリオをなぞっただけの出来事だ…。


 そうわかっていても…アルスが僕のために怒ってくれたことが…すごくうれしかった。


 僕はこの世界の人達にとって悪いことをたくさんした。ベルゼフがトガムゼの呪いにかかっていたとかは関係ない。これから僕はそれを償っていく必要がある。具体的には何をどうしたらいいのだろう? 償うと言いながら、罪人になって牢に入る勇気も、ましてや死ぬ勇気もない…。


 僕は卑怯者だ…。


 アルス…。





★★★




 

「トガムゼの呪いか…。本当に影響されていたのはベルゼフだけだったんだろうか?」

「インプレサリオ…」


 僕は5才の時にこの世界が『迷宮物語』の世界だと気がついた。気がついてすぐに、それなら、『迷宮物語』の知識を使って成り上ってやろうと思った。それは、別に悪いことではないと思う。だが、おかしいのはそれからだ…。


「プリマドンナ、僕は『迷宮物語』の知識を使ってこの世界の覇権を握ろうとずっと言ってきた」

「ええ、私はそれを聞いて賛同した。胸が躍ったわ」

「俺もっスよ」

「ああ、僕も同じだ。だけど、何時からか、その方法がゲームの時と同じで、この世界を戦乱の時代に導いて、それを制して目的を成し遂げることになっていた」


 プリマドンナは少し考えてから「私もそれが当然だと思っていたわ」と言った。


「そういえば、そうっスね」

「だけど、その方法では多くの人が死ぬんだ。この世界はリアルなのに…。そしてその中には僕達の大切な人だって含まれるかもしれない」


 僕は徐々にそのことに気がついてきた。特にグレアムが死にそうになった時、それは決定的なものになった。グレアムはNPCじゃなく僕の大切な仲間だと気がついたのだ。そして目の前にいるプリマドンナ、マエストロ、そしてアランやラングレー達、もちろん僕にメデューサの杖をプレゼントしてくれた両親もだ。


「『迷宮物語』の知識を使って成り上るだけなら他の方法だってある。いや、普通なら戦乱の時代になることを知っていたら、むしろ防ごうとするんじゃないかな? ラノベの中だって、主人公が知っている未来の災厄を防ごうと奔走する話はたくさんある」

「それは、そうかもしれないけど…」


 プリマドンナは首を傾げて考えている。


「もちろん、ラノベやアニメの世界ならそうじゃなくて、主人公が単にその世界の支配者を目指す話だってある。だけど、ここは現実世界なんだ…。それに、そんな架空の世界でさえ、主人公がその世界にとって災いとなる行動を取る場合、なんらかの理由付けがされていることが多い。例えば、ヴィルトゥオーゾのようにゲームの世界に転移した場合なら、主人公がキャラクターの性格に引きずられて人間的な感情を失っているとか、転生者ならその生い立ちになんらかの原因があるとかだ」


 そんな、ダークファンタジーはたくさんある。だけど、ダークと呼ばれるだけあって主人公のそんな行動の背景には、どちらかというと悲惨な暗い過去や理由がある。


「言われてみれば…そんな気もするっスね」

「僕はこの世界で幸せな家庭に生まれたんだ」

「私も平民だったけど、特に問題のある家庭に生まれたわけじゃないわ」

「俺は貴族に生まれたっス。俺が嫡男じゃないってこともあって結構自由にさせてもらってるっス」

「マエストロには両親のほかにも親友だっているだろう」


 シュタイン侯爵の嫡男であるアルベルトとウィルコックスとかいう貴族の息子は、マエストロのために陣営戦に駆け付けたのだ。


「そうっスね」とマエストロは照れ臭そうに鼻の頭を掻いた。


 その恵まれた家庭に生まれた僕達が、いつしか、なんの疑問も持たずに…この世界を戦乱の時代に導いて…その上で覇権を握ろうなんて考えていた。


 そもそも、僕達がこの世界に生まれ変わったこと自体がトガムゼの…。


 僕達が転生に巻き込まれた時、僕達のテーブルは黒い靄のようなものに包まれた。聞いたところでは、ベルゼフはジギルバルト団長に代わってトガムゼに呪いにかかり、黒い靄のようのものに…。


 いや、これ以上は、いくら考えても仕方がない…。


 それに、すべてを呪いのせいにするのは違う気がする。責任逃れだ。やっぱり、僕がもともとそういう性格だったのか、もしくは前世でのコレオグラファーに対する嫉妬が原因なのか、単に『迷宮物語』の知識があることに浮かれていた馬鹿だったのか…。


 きっと、そのどれかなんだろう…。


 僕は黙ってこっちを見ているグレアムを見た。まあ、『迷宮物語』の時よりグレアムが幸せなら、僕の行動にも少しは意味があったのかもしれない…。





★★★





 この世界に転生したらしいと認識してからも、俺の前世の記憶には曖昧なところが多かった。転生のきっかけになった出来事は思い出したが、自分が何者であるかについては特にそうだ。エトワールの生まれ変わりであるシルヴィーに会って消去法でコレオグラファーなのかと思っていた。だが、それは間違っていた。


 『迷宮物語』の中ですら、俺はモブだったのだ。


 俺は…本来、この世界に呼ばれるはずではなかったんじゃないのか? だから記憶が曖昧だったんじゃ…。まあ、そんなことは、今の俺には関係ないか…。それよりも、これからのことのほうがずっと大切だ。


 あの後、様子見を決め込んでいたアマデオ侯爵がクリスティナ王女に味方した。シュタイン侯爵家とビットリオ侯爵家もそれに続いた。


 貴族なんていい加減なものだ…。


 捕らわれたベルゼフことストレイド王太子はその罪を問われることになる。王殺しにして父親殺しなのだから、いくら呪いのせいだといっても罪は重い。


 あとはクリスティナ王女に任せるしかない…。


 俺、アディ、アルス、シルヴィーの証言もあってサラはお咎めなしだ。そもそもサラのやったことを証明することは難しい。レヴィアについても大した罪には問われないと聞いている。ベルゼフは王太子だ。王太子に無理やり協力させられていたと言えば誰も反論できないだろう。そもそも、クリスティナ王女は、レヴィアに限らず、王国騎士団や親衛隊を含めてストレイド王太子陣営の者達を大きな罪には問わない方針だと聞いている。まあ、今の状況で国を纏めるためには賢明な判断だと思う。


 そうそう、ヴィルトゥオーゾはしばらくはメアリーと一緒に神オルデン聖国の運営に注力するらしい。前世ではそつのないサラリーマンだったはずだから、案外向いているのかもしれない。


 俺はといえば、アディ達と25階層のボスを攻略しようと計画している。なんだかんだで迷宮攻略は楽しい。特にアディが一緒なら、なおさらだ。

 サラも早く元気になって参加してくれるといいのだが…。きっとサラは大丈夫だと思う。俺にアディがいるように、サラにはアルスがいる…。


 そんなこんなで、とりあえず俺はアディと一緒に学園生活を楽しんでいた。そんなある日のことだった。エイクリー先生が一人の見慣れない少年を教室に連れてきた。


「転校生だ」とエイクリー先生が言った。


 なんとなく転校生を見ていたら、なぜか俺と目が合った。ずいぶんと容姿端麗な少年だ。まるで、アニメの主人公のようだ。素朴で母性本能をくすぐるアルスと違って華やかなタイプだ。


「リアブルク連合国のロイジア公国からの留学生のアロイスです」


 ロイジア公国のアロイス?


「ねえ、第三王子のアロイス様じゃないの?」


 女生徒の声が聞こえた。


 ロイジア公国といえば、この世界最大の国家であるリアブルク連合国の盟主を務める公国だ。アロイスとやらは、そのロイジア公国の王子だという…。


「シルヴィー、あのアロイスって王子、ちょっとかっこいいわね」

「ほんとだよね、アディ」


 アディとシルヴィーが仲良く会話している。それより、ロイジア公国の王子が留学してくるなんて話は『迷宮物語』にはなかった。もう3年生も3分の2が終わろうとしているこの時期に…。レベルキャップ解放後のストーリーとも違う…。


 シルヴィーが俺の方を向いて「何か面白いことが起こるのかもね」と言って、いたずらっぽく笑った。


「レオ、面白いことって、なに?」

「なんだろうね、アディ。俺にはぜんぜんわからないよ」


 これは、何かが起こる前兆なのだろうか…。



                    To be continued…

 これで完結です。

 最後まで読んで頂きありがとうございます

 文字通り最後のお願いになりますが、もし本作を少しでも面白いと思って頂けたらブックマークや『★★★★★』での評価をお願いします。また、忌憚のないご意見や感想をお待ちしています。読者の反応が一番の励みです。

 一昨年の12月から小説の投稿を始めて1年3ヶ月の間に長編3作と短編4作を投稿しました。計算してみると1日1話ペースを少し越えています。我ながら、根を詰めすぎたと感じているので、少し充電してから次作に取り掛かろうと思っています。

 拙作「ありふれたクラス転移~幼馴染と一緒にクラス転移に巻き込まれた僕は、王国、魔族、帝国など様々な陣営の思惑に翻弄される…謎解き要素多めの僕と仲間たちの成長物語」と「乙女ゲームの断罪の場に転生した俺は悪役令嬢に一目惚れしたので、シナリオをぶち壊してみました!【連載版】」も読んで頂けると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
完結おめでとうございます! 最後まで書き上げるのはとても素晴らしい事だと思います。 To be continued…がついていますけれど。笑 毎日更新してくれるので日々の楽しみとさせて頂きました。 …
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