第97話 組織の腕利き暗殺者集団?
「俺たちの組織はお察しの通り、反社会組織だ。組織の秘密を漏らしたり、組織を裏切ったりした者に対しては、ただ殺すだけじゃ済まされねぇ」
蜘蛛人種のイワガネは、とつとつと語り始めた。
「気が狂うまでおこなわれる拷問、そのうえ身内にまで手を下される。どこにも逃げ場なんてない……」
「なに、私に協力してくれるなら、もちろん護衛はつけるとも」
「フッ……キウイ・アラヤ。アンタが思うよりこの魔都の闇は深い」
イワガネは常識知らずでも見るかのような目をして、呆れたように息を吐いた。
「護衛なんて役に立たないのさ。いましがた、おまえの部下らに対して俺の護衛者たちが手も足も出なかったように」
「君を捕らえにくるであろう刺客に心当たりがあるのか?」
「ああ。うちの組織にはお抱えの集団がいる。この魔都デルモンドの裏社会において最強の八魔を集めた── " 八大獄門番 " と呼ばれる暗殺者集団がなっ」
「八大獄門番……?」
ずいぶんと仰々しい名前だ。
八大獄門とは確か魔国の一部の住民が信仰する独自宗教か何かだったはず。確か、生前に悪を成した魔族はその所業に応じて、死後に八つの苦しみの獄門のうちのいくつかをくぐらなければならない……とかいう内容だった気がする。
つまり、八大獄門番とはその八大獄門を守る番人ということだろう。
「で、それはどれくらいの危険度なのだね?」
「だから言ったろう! この魔都の裏社会で最強の猛者たちだって!」
「アギト殿とどちらが強いのだね?」
「んなもんアギトに──アギト様に決まってる!」
イワガネはチラリとオトガイを見やってから、アギトへと敬称を付けて言い直した。どうやら、オトガイがアギトの娘であるというのは公然の事実らしい。
「魔国幹部のほとんどは、あの魔国統一戦争で大活躍した表社会の英雄だ。拳一つで多種族の攻撃から魔王を守り抜いたアギト、西の森の魔獣族たちをまとめあげたウルクロウ……あんな規格外の魔族たちと比べられても仕方がねぇだろうっ!」
「ふむ、そうなのか? では勇者とか、エルフとかと比べてどうなのだ」
「ゆ、勇者はわからねぇが……だがな、聞いて驚くなよ?」
イワガネは一つ息を飲むと、
「八大獄門番のトップである " 魔槍トゥインコ " は昔、武者修行の一環で西方エルフ国家の森へと足を踏み入れて……エルフと単身で戦って生き延びたことがあるらしい」
「……? ほう?」
「あの「目の前に立つということ=死」な長命のバケモノ種族に、たったの一魔で挑んで帰ってきたんだとよ!」
「えーっと……ああ、なるほど」
まあ、それは確かにすごいことだね?
通常、普通の魔族が百体がかりになってもエルフ一体を倒すのは難しい。それと単身で渡り合えたというのだから、実力者であることに間違いはないのだろう。
ただ、なまじ直近で何人ものエルフと対峙してきた経験があるせいで、つい微妙な反応になってしまうのだよな……。
「ウソだと思っているのかっ!? 本当なんだ! 俺はヤツの体の傷跡を見たことがある! アレは確かに聖術の痕だった……なんというかこう、皮膚の一部だけ黒ずんだみたいになっていて、その形は──」
「ああいや、別に信じていないわけではないのだがね」
ただ予想をはるかに下回る危険度だったので、どう諭したものかと思ってしまう。
「まあ問題ないから。君も研究所で待機をしてくれていたまえよ。研究するムコムゥといっしょにね。とびきりの護衛を用意しておくから」
とにかく、方針に変更はない。
暗殺者集団が襲ってこようがこまいが、イワガネの地位もムコムゥという研究仲間も手放す気など起こるものか。
「あっ、あのっ!」
そこで高い声が割って入った。
細かく震える手を挙げているのは、ムコムゥ。
「どっ、どうかお願いいたしますっ。わっ、私の妹も研究所に入れていただくことは、できないでしょうか……!」
「妹?」
「はっ、はい。組織は、私に妹がいることを知っており……」
「そうなのか。それは不安だろう。確かさきほど、粛清は身内に対してもおこなわれるとイワガネも言っていたことだしな」
それはさすがに看過できん。
研究への打ち込み方は人それぞれ魔族それぞれだとは思うが、しかし身内を害されるのではないかという不安を抱えながらの研究が非効率であるというのは自明の理だろう。
「もちろん構わないとも。このあと共に迎えにいこうではないか。君の妹さんということならば、私も一度あいさつくらいしておこう」
「ヒッ……は、はい。あっ、ありがとう、ございます……」
ムコムゥが「しまった! 早まった」とでも言いたげに一瞬顔を歪めた気がした……が、まあ恐らく気のせいだろう。
俺はただの人間なのだから、魔族を取って食ったりはしないとも。そんなことくらいみんな百も承知だろうし。
「うぇい、キウイっち」
セーフルームを後にして、俺たちは階段を上がる。その道中に隣を歩くオトガイが肘で俺の小脇を突いてきた。
それから耳元でコソッと。
「もうデートはこれで終わり?」
「……あっ」
途中から完全に忘れていた。
そういえば今日のこれはお見合いの一環のデートであったのだと。
「やっぱ忘れてたんだ、サイテー」
オトガイは唇を尖らせてそう言いつつ、しかしすぐに邪悪げに片頬を吊り上げて笑うと、
「ま、いいけどね! 久々に暴れられて楽しかったし!」
「いいのか?」
「うん。だって、あーしのことは知ってもらえたし、キウイっちのこともよく知れた気がするからさ。目的は大達成」
オトガイは人差し指と親指で小さな丸を作って、ウィンクする。
「ま、よくわかったよ。キウイっちにとってはまだ結婚の時期じゃなかったってことがね。パパには波風たたないように言っとく」
「ん……うむ。そうだな。すまない。ただね、決して君のことが好ましくないと思ったわけではなく、」
「知ってる。あーし超カワイイし。超好ましいじゃんねぇ?」
「う、うむ……」
建物への外へと出ると、底抜けに明るい満面の笑みを最後に、オトガイは手を振って俺たちとは別方向へと歩き始めた。
「じゃあね、キウイっち、シェスちぃ! また遊ぼうね!」
「うむ。またな」
「うん、また明日ー!」
……え、明日?
まさか、また明日遊びにくるとでも???
「まあ、いったんヨシとしよう……」
とりあえず、お見合いに関しては一件落着。無難にやり過ごすことができたようなのだから。
「さて」
ともかく、早々に面倒の種は潰しておきたい。
さっそくその反社会組織やら八大獄門番とやらに、こちらの情報を流してやらねばな。
毒を食らわば皿まで、だ。
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次のエピソードは「第98話 【Side:黒癒の書】取材が大事!」です。
それではまた明日、よろしくお願いいたします!




