第83話 万物を貫く聖術
「魔国幹部ウルクロウを探すために、エルフたちが集まっていた場所を目指しているだって……? 無謀なことを……」
俺たちの目的を聞いたローズは、呆れたように大きなため息を吐く。
いろいろと話を聞く限り、どうやら先ほど大怪我を負ってきた魔鼠種の所属していた救援中隊ら三つの部隊を潰したのはアネモネやローズたちエルフとはまた別のエルフたちらしい。
「いま、ウルクロウ討伐作戦へと動員されているエルフの数は三十を超える。おまえたちが行こうとしている場所はきっと超危険地帯だ。その場所へと近づけば近づくほど、四方から囲まれる可能性は高いだろう」
「ふむ……そうなると、さすがに索敵ができたとしてもこちらの対応の手数が足りなくなるということかね」
「当然だ。そしてその内の誰か一人にでも見つかって逃げられてしまったならば、すぐに大量のエルフが駆けつけるぞ? そうなればいくらおまえたちの兵士が強かろうが手に負えないはずだ」
「うむむ。確かに、それは困るな」
ローズの言葉は的確で、またこちらの欲しい情報に富んでいて大変にありがたい。おかげでエルフたちのウルクロウ発見のための作戦行動の詳細や、だいたいのリスクについても把握できた。
「とはいえ捜索を打ち切れはしない。何か妙案はないものか」
「まずレッドゾーンには近づかず充分な距離を取ることは必須。その上で、エルフたちに勘付かれない方法でウルクロウを探す必要があるだろうな」
「ふむ……難しそうだね。あるいは、ウルクロウに気づいてもらうという発想の転換をしてみてもいいかもしれないが」
「……ああ、なるほど。そういうことか。確かにエルフにはなく魔獣種であれば気づくメッセージもあるかもしれないな」
投降してからのローズは吹っ切れたように多弁で、なおかつ真剣に作戦検討を手伝ってくれていた。たぶん、根が大真面目なんだろう。
しかも話してみた印象からして、素晴らしく優秀。知識だけではなくとっさの判断力も申し分ない。こちらの問いや発想へと打てば響くようにすぐリプライしてくれる。
「……これが個体差というヤツか」
「ん? なに? 私の顔になにか付いてる?」
キンセンカとともにボーッとして木々に寄り掛かっていたアネモネが、俺の視線に気づいて首を傾げてきた。
「いや、なんでもないよ」
ただ、同じ長命種で何百年と研究に時間を投じてきたであろうエルフの間でも、けっこうな性質というか性格の差が出るものなんだなと思っただけだ。
悪い意味ではない。個体差があった方が様々な研究方法や結果があっておもしろいものだから。
……まあ、この場においてはローズのおかげで非常に助かっているというのが事実だが。
「むむっ、なんだか偏向的な考えで私へと悪評価が下されている気がするよ」
俺の様子に目ざとく反応したアネモネは、不満げに俺を見やると、
「話は聞いていたよ? 私にだって妙案はあるさ」
そう言ってビシッとローズを指さした。
「ローズの専門は " 星が告げる未来を視る " 聖術の研究だ。よく当たる占星術とでも言った方が早いかな? それで捜してみたらいいんじゃない?」
* * *
可能な限り探知聖術で他のエルフたちを避けながら森の中を歩き、俺たちは枝葉に覆われていない星の視える場所までやってきた。
「占星術か……実に興味深いね」
一般的な占いというバーナム効果依存のオカルトを信じたことはこれまでなかったが、しかしそれを聖術と星の動きとを結びつけて未来予測へと昇華しようという試みは非常におもしろい。
そうなればぜひともやってもらいたいとなるのは必然なわけだ。
「本当にやるのか……?」
どうやらローズ自身はあまり乗り気ではないらしい。
「言っておくが、まだ研究途中で精度に期待はできんぞ?」
「構わない。活用できそうなものはすべて活用すべきだよ」
それに、他に考えたウルクロウ捜索案も並行して起用している。そちらについては現在、魔熊種と吸血獣種の兵士たちにがんばってもらっている最中だ。
なので、俺はこちらの占星術にかかりきりになれるわけで、
「さあさあ。ぜひともぜひとも!」
「キウイ、おまえ楽しんでないか?」
「今できる最善を尽くしているまでだよ」
確かに楽しんではいるがね。
口には出さないが。
「まあ、信用できると思うよ。私はね」
この占星術を活用しようと言い始めたアネモネだけが、なぜか一人胸を張っていた。
「ローズの占星術はね、確かに当たり外れのふり幅が大きい。でもね、危険を告げる結果に関しての精度が非常に高いんだ」
つまり、ウルクロウの居場所は当てられずとも、エルフと遭遇する未来を避けることはできるかもしれないというわけだ。
ローズも同じ考えではあるのだろう。渋々そうではあったがさっそく杖を空へと向けて占星術を発動させていた。
白く光る六芒星がローズの目の前、北向きに現れる。
占う内容は、『北にウルクロウがいるかどうか』だ。
「ちなみにローズが占星術を使うのを渋ってるのは、誰かの居場所を占おうとすると自動的に恋愛占いにもなっちゃうからだね。一時期ハマってその術式を組み込んでみたはいいものの、今度は抜くと正常作動しなくなっちゃって、ここ百年くらい困ってるらしいんだ」
「アネモネッ!!! 勝手なことを言うなしばくぞっ!!!」
「ピンク色に光ると相性抜群。紫色に光ると相性が悪い」
「……おまえ、後で覚えてろよ」
どうやらそれは本人の恥部であったのか、ローズはその色白な顔を真っ赤に染めて──いや、違う。
それは肌の色ではない。照り返しだ。
「六芒星が赤く光っている……? いやそれよりももっと、赤黒い?」
「……なんて色だ。私も始めて見る……まるで血の色じゃないか。これはマズい。北はダメだ」
ローズは冷や汗を垂らしつつ、俺たちを振り返る。
「赤は危険を告げる色なんだ。おそらく、エルフが多くいるんだろう。にしてもなんて禍々しい色を……」
「ふむ。では、別の方角へとお願いできるかね?」
「あ、ああ。そうだな」
二度目に占うのは西。
六芒星が現れて光る──赤い。
「こっちもダメ、か。やはりエルフの数が多いからかな」
「ふむ、南はどうだろうか?」
さらに南。六芒星が現れて光る──赤い。
「……」
最後に残されたのは帰り道。
魔国へと向かう方角──東。
六芒星は変わらずにどす黒く真っ赤に光っていた。
「東西南北すべてが超危険地帯だと……!? まさかっ……!」
ローズは頭上に聖杖を掲げて五度目の占星術を行使する。
各方角に向けての占いの結果が各方角の危険度を告げるものであるならば、頭上のソレが示すのは現在位置の危険度だろう。
その輝きは、
──ブラッディ・レッド。
「……マズい。マズいマズいマズいっ」
ローズが、青ざめた顔で俺を見た。
「逃げなきゃ、今すぐに。私たちがどちらへ行こうが、留まろうが、計り知れない危険が──」
その言葉は、最後まで続くことはなかった。
一筋の細く白い光線がローズの背後からその腹部を貫いていた。
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次のエピソードは「第84話 命の保障はすると約束したのでね」です。
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