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異端のダークヒーラー、魔国幹部として人類を衰退に導くようです~金と知識を求めていただけなのに、なぜか伝説になっていました~  作者: 浅見朝志


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第72話 【Side:候補生】コトダマ

後方にいる魔獣の兵士たちへとダークヒールを施しながらも、しかし。

スワンはその視線を " 目の前の光景 " から外すことができなかった。



「す、すごい……」



後ろへと下がりつつ聖術を打ち出すエルフへと、背中のアラヤから発せられる闇にその身を守られたゾンビ戦士が肉薄していく。

周囲を白く照らし出す燃え上がるような聖力と全てを飲み込むような暗い魔力がぶつかり合っていた。



「あのエルフと渡り合うなんて……!」



本来、魔国幹部であれば不思議なことではないのかもしれない。

でもアラヤは人間だ。そして戦士ですらない、ダークヒーラーだ。その身は魔族よりも脆(もろ)く、ふとした衝撃で砕け散るほど儚いものだろうに。



……恐くないのっ!? なんで、自らあんな風に前へ前へと出られるのっ!?



「──チッ、幻影か」



エルフに肉薄した先、ゾンビ戦士の背から伸ばしたアラヤの手が空を切っていた。そこにいたはずのエルフの体がモヤのように消えたのだ。



「どうやら、簡単には触らせてくれないようだね」


「女性に気安く触れようとするのはどうかと思うよ、ダークヒーラー」



エルフはアラヤたちの進んだ場所からさらに後方で杖を構え光線を打ち放ちながら言う。アラヤは当然のようにそれを打ち消したが、しかし、再び距離は開いた。



「ところでさっきからずいぶんと手を伸ばしてくるけれど、単純に " 悪魔の雷(いかづち) " を狙っているのか、それとも何か別の狙いがあるのか……」


「……」


「なんであれ、近づけるとは思わないことだよ」


「それは残念だね」



肩をすくめつつ、しかしアラヤはほくそ笑む。

直後、エルフの背後から高速で飛び出してくる一つの影。それは、聖剣を縦に振りかぶったヒト魔族の女騎士でありアラヤの配下──シェス。

しかし、



「やはりいたか、伏兵が。追い込まれているような気はしてたんだ」



エルフは振り返りもしない。杖は正面へと構えたままだ。それなのにも関わらず、シェスの体は突如として現れた光の壁に阻まれて後ろへと押し返された。



「聖術に特化している私たちが近接対策を何もしていないと思う? 杖を向けずとも発動できる聖術くらい、いくらでもあるんだよ」



エルフはそして、杖の石突(いしづき)で地面を叩く。

とたん、黄金色の光が大きく円状に広がってシェスとアラヤたちを囲い込み、それと同時にゾンビ戦士とシェスの体が上から重しでも載せられたように下へと傾げた。



「あぁっ!!!」



思わず、スワンは息を飲む。

それはスワン自身も先ほどその身をもって体験した恐るべき大規模聖術── " 光の大雨 "。



「追い詰めていると思っていた側が実は追い詰められている側だった、なんてのはよくある話さ。ともあれ、これであぶり出しも済んだ。終わりだよ」



酷薄な笑みを浮かべたエルフは、杖を再び持ち上げると天へと向けた。

すると黄金の円内、アラヤたちの真上の空に輝き始めたのは聖なる槍。それはエルフの保有する膨大な聖力を源として何十何百とその数を増やし、そして円内にいる者たちが全滅するまで何度何度も新しく現れては降り注ぐ──



──そのハズだった。



「慢心は人間の最大の敵である……そんな言葉があってね」



今にも槍が降り注ぎ始める……その直前であっても、アラヤの口元から笑みは消えていない。その白衣のポケットの中から出した手、人差し指と中指の間に羊皮紙のようなものを挟んだそれをエルフへと掲げ、そして言った。



「聖術にできることは魔術にもできる。その証明となる応用研究成果(プレゼント)の一つを君に贈ろう── " 魔の言弾(コトダマ) "」



禍々しく紫に輝く高密度の魔力の弾が、黄金色の光が落ちる空間を削り取るようにして勢いよくエルフへと迫る。それを防ぐための光の壁は──現れない。



「最新の聖術だそうだな、光の大雨は。とっさに別の聖術へと切り替えられるほどにはまだ使い慣れてないのだろう?」


「クッ──」



エルフの体へと、 魔の言弾(コトダマ) が直撃する。その直後、魔力がエルフの体を駆け巡り紫電を走らせた。それは善なる位相を持つ者が魔力を流し込まれると起こる現象、" 悪魔の雷(いかづち) "に他ならない。



「私の手の内を完全には明かさないままスキの大きな聖術を展開するのは悪手だろうに。触れられない位置ならば問題ないと高を括(くく)ったな?」


「ぐっ──がぁぁぁっ!!!」


「ダークヒールを付与した試作品だ。本来は遠隔での回復手段にと用意したものだったが……さて、」



スッと、周囲の黄金色の光が引いていく。

悪魔の雷がエルフの体へと与えた影響、光の大雨の術式のキャンセル。それが示すところはつまり、



「これで終わりだ」



自由を得たシェスが、その手に持つ聖剣を再び振り上げてエルフへと迫る。とっさに展開される光の壁……しかし、すでに振り下ろされたシェスの全力の一撃の前に、それはあまりにも脆かった。



「──ガハッ」



振り抜かれたシェスの斬撃は、光の壁ごとエルフの体を斜めに深く斬り裂いていた。


いつもお読みいただきありがとうございます!

次のエピソードは「第73話 【Side:候補生】これが戦場での日常なのですか」です。

それでは、明日もよろしくお願いします!

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