↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異端のダークヒーラー、魔国幹部として人類を衰退に導くようです~金と知識を求めていただけなのに、なぜか伝説になっていました~  作者: 浅見朝志


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/358

第61話 エルデンで拝借したアレ

エメラルダたちとの話を終えて、俺は魔王城を後にする。

ミルフォビアはエメラルダから話があるとのことで執務室に残った。

俺はそれが終わるのを待つこともできたが……しかしながら、今日はまだこれからやりたいことがいくつかあるのだ。



……まさか、早々に " あの試み " をすることになるとはな。



「いやはや、楽しみじゃあないか」


「楽しみ、ですか?」



独り言に対して思わぬ返事があった。

それは魔王城正門前で不動立ちしていたシェスのものだった。背筋をピンと伸ばし、すっかり錆びの落ちた聖剣を両手で地面に突き立てて、それはもうほとんど衛士と見まがうばかりのたたずまいだ。



「シェス、どうしてここに? 君のいまの聖力量では警戒中の魔王城内には入れないから、医院で待ってくれていていいと話したはずだが」


「主を待つのが騎士の務めゆえにです」


「うん。だから医院で待ってくれていればいいと……」


「騎士は、いついかなるときでも主を守れる場所で待たなければなりませんゆえ」


「そ、そうか……それでは、待機ご苦労だった」



たぶん何を言っても無駄だろうと判断し、俺はそれ以上の追及を止める。シェスには聖騎士シェスティンとしての振る舞いがあるのだろう。そういった人の生き方を曲げる権利など誰にもないのだから、そういうものだと受け入れるのが一番だ。



「ところでシェスよ、その服……」


「はい、キウイ様。こちらはミルフォビア様にサキュバス専門の " しょっぷ " なる洋服店で見繕っていただいたものです」



シェスは両手を小さく広げて、着ているその服を俺へと見せてくれた。

無地の白い七分袖シャツに、クラシカルな黒いサスペンダーワンピースが良く映えている。その手に持つ大きな聖剣さえなければ、ただの美人な町娘と言って通りそうだ。



「キウイ様、もろもろお金をお出しくださりありがとうございます」


「構わんよ。気に入ったものが買えたのならば、それでいい」


「はい。大変気に入っております」



シェスの歩調は心なしか軽く見える。

やはり自分の服を持つ、というのは女性にとって大事なことなのだろう。

この前、ミルフォビアの服を貸してもらっていたときは『サ、サイズが……まさかこれほどまでに、ここがブカブカになることがあるだなんて……』と、ずっと胸を抱え込むかのようにして落ち込んでいたのだ。



……それに、ビキニ・アーマーが本気で嫌だったのだろうということも関係しているのかもしれないな。新しい服に着替えた途端にビキニ・アーマーを聖剣で叩き斬っていたし。



「キウイ様?」



さて、アラヤ総合医院は魔王城からすぐの距離にある。大通りから角を二つ曲がるだけだ。その分かれ道で、シェスが首を傾げた。



「そちらは医院の方向ではありませんが……」


「ああ、これから訪ねたい魔族がいてね。シェスは先に帰ってくれていても──」


「お供しましょう」


「……うむ。では行こうか」



俺はシェスを伴って、地図を頼りに事前にミルフォビアから聞いていた道を進む。" 彼ら " は魔都の中心部に部屋を貸して貰えているあたり、どうやら俺の口添えが上手くいったらしい。本人も喜んでいると聞いていたので、本当によかった。



「今回の訪問は、先ほどキウイ様が『楽しみ』とこぼしていらっしゃったことに関係するものでしょうか?」


「うむ。少し実験の準備をね」


「実験?」



歩きながら、俺は白衣のポケットを探ってそれを取り出してシェスへと見せる。



「それは羊皮紙、ですか?」


「そうだ。これはこの前のエルデン奪還戦で王国の聖女から盗っ……拝借したものだ」



俺はその内の羊皮紙を広げた。そこにはビッシリと神の素晴らしい所業やありがたい教えなどが盛り込まれ、信徒の信仰心をこれでもかと煽るような物語──神話が記載されていた。



「これは真約書と呼ばれるいわば聖書の一種だ。聖書という本は、それを読みこんで手元に置くことで、本来なら術式の発動に高度なスキルが必要になる聖術も比較的簡単に使えるようになるという聖職者にとっての便利ツールだ」


「今の時代は聖術の行使にも道具があるのですね……驚きです」


「技術習得の外部委託(ショートカット)……実に王国らしい近代的な試みだな。そして、聖術にできるのであれば同じことを魔術にできないという道理はない。だからこそ、私は試してみようと思ったのだ」


「なるほど、なんとなくですが察せました。つまりキウイ様は魔術の便利ツールを作ろうとなさっていて、これから訪ねる方はその作成に必要な技術を持っている、と」


「その通りだ」



魔都デルモンドの通りをいくつか折れると、そこにお目当ての石造りの建物はあった。築年数は新しめ、立地も日当たりも悪くはなさそうで、健康的に暮らせそうな集合住宅だ。

俺が訪ねるという連絡を、すでにミルフォビアが伝書コウモリで手回ししてくれていたのだろう、その住宅で暮らす二人は外に出て俺を待っていて、こちらに向けて大きく手を振っていた。



「キウイ様っ! エルデンぶりでございますなっ!」



それはエルデンの収容所で出会い、そして俺たちと共に聖女と戦った天狗(てんぐ)種の魔族──イナサ。そしてその息子のコチだった。



「ああ、しばらくぶりですな。イナサさん」


「本当にっ」



イナサは俺の元へと駆け寄ってくると、両手をわしつかんで喜びのままに上下に激しく振ってくる。ちょっと痛いぞ。



「改めて対面でちゃんとお礼を申し上げに行きたいと思っていたのです。しかしお住まいが魔王城であることや、職場の医院へ訪ねるのも迷惑かと思いなかなか機会を掴めず……」


「お礼など。イナサさんには私も助けられたではないですか」


「いえっ、とんでもないっ! 私はキウイ様の言う通りに動いていただけでしたので。ですからっ、」



イナサはしみじみと言うと、それから感激したような目を向けてくる。



「キウイ様のお役に立てることがあると聞き及び、このイナサ、全身全霊を賭す場所が見つかった思いです!」


「少々オーバーではある気がしますが……しかし、仕事をお受けしていただけるのであれば非常にありがたい」



俺はイナサの手を握り返して、言う。



「イナサさんには魔国の " 聖書 " 、その物語部分を作っていただきたい。エルデンで小説家として働いていたあなたなら、きっとできるでしょう?」

いつもお読みいただきありがとうございます!

次のエピソードは「第63話 【Side:執務室】結婚とか」です。

明日もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【 書籍1、2巻発売中!】

html> html>

【コミックも発売中!】

html> html>
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。