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異端のダークヒーラー、魔国幹部として人類を衰退に導くようです~金と知識を求めていただけなのに、なぜか伝説になっていました~  作者: 浅見朝志


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第175話 【Side:議事堂】圧倒的な個による大蹂躙

──近代において、戦闘における戦力とは、主に武器・兵器の性能と数によって計られるものである。



勇者などの一握りの英雄によって戦況が左右される時代はしだいに終わりつつあった。

その時代の変遷(へんせん)に大きく寄与したのは、なんといっても銃器の登場だろう。

相手に遠距離から致命的なダメージを与えることのできる銃器の装備により、兵士個々の攻撃力は大幅に向上された状態で均一化されたのだ。


英雄殺しも楽な時代になった。


剣の時代には無敵だった英雄も、その剣が届かない距離から大量の兵士で囲んでしまえば容易に討ち取れるのだから。

ゆえに、近代ではいかに相手を数で圧倒するか、それが戦略上最大の要であることは間違いない。


その理屈に基づけば、王都議事堂の戦況は王国軍にとって理想的なものに違いなかった。

完全装備の王国兵たちによって、数で圧倒する状況を作り出せている。

勝利は約束されたも同然……そのはずだった。


だがやはり、何事にも例外はあるものだ。

もしも……もしも仮に。



──銃器も爆撃もまるで効かず、一向に力の減衰しない敵が相手にいたら?



その答えが、今の王都議事堂を舞台にした戦場にあった。



「──撃てぇぃっ!!! 撃てっ、撃てぇぇぇっ!!!」



包囲する王国軍側からは、何度もその野太い声とともにライフルの発砲音が重なった。

盛大なその音の奔流は、まるでオーケストラだ。

たった一人の男をもてなすためのその演奏は、しかし。



「その程度か?」



その男、ガン・ケンの身も心も、まるで打たなかった。

遠距離からの弾はその体に当たるや潰れ、地面に落ちるだけ。

その間、ガン・ケンはガレキの山を漁って集めた数メートルの鉄筋をいくつも束ね、捻じった。

そうして握りの部分以外はほとんど人の胴回りくらいの太さの棍棒を作ると、



「では、こちらからも参るぞ」



その鉄筋棍棒を右手で担ぎ上げ、議事堂を包囲する王国軍の上空数十メートルへと跳躍した。



「百年ぶりの闘争だ。せいぜい楽しませてもらおうか」



ガン・ケンは眼下で逃げ惑う兵士たちなど目で追うこともなく、その中心の地面へと鉄筋棍棒を叩きつけた。



──隕石が落ちたのような轟音、それとともに激しく爆ぜる石畳の地面。



衝撃波が、周囲一帯の兵士を吹き飛ばす。

そしてめくれ上がり砕け散った石が、ライフルの弾速を超す勢いでその体に叩きつけられた。

脆い人の体を石の破片が、肉をうがち、骨を砕く。

バラバラにする。

辺り一帯に血の嵐が吹きすさび、肉の雨が降り注いだ。



「うっ──ひぃっ、あぅぅぅっ……!!!」



運良く、その一撃から生き残り(うめ)く者たちもいた。

いや、その者たちにとっては運が悪かった、と言うべきかもしれない。

肉体のいくつかの部分を失ってなお、気絶もできずに苦しみ悶えているのだから。



「たっ、助けてっ……!」


「死を想え。死もまた、おまえたちを想うだろう」



ガン・ケンは悠然と歩き、一人一人に鉄筋棍棒を振るっていく。

当然、跡形もなく兵士の体は吹き飛んだ。

それはともすれば、慈悲の一撃だったのかもしれない。

しかし、ガン・ケンの禍々しい容貌(ようぼう)と、その通り道に咲く真っ赤な血肉の花火は、残された兵士たちの肝を氷点下に陥れるには十分だった。



「うっ──うあぁぁぁぁぁっ!!!」



王国兵たちが叫ぶ。

ある者は逃げ、ある者はガン・ケンへと目掛けて銃撃した。

手りゅう弾も投げた。



「撃て! 逃げるな! 撃て! 攻撃が効いていないはずがない! 撃ち続けろぉっ!!!」



指揮官と思しき男から(げき)が飛ぶ。

しかし、ガン・ケンの歩みは止まらない。



「つまらんな。こんなものか、人間ども……!」



ガン・ケンはひと息でライフルを構える王国兵たちへと間合いを詰めると、鉄筋棍棒を振るった。

兵士たちは血肉をまき散らしながら、まるでチェス駒のようになぎ払われていく。



「脆い、弱い……!」



苛立ちに、鼻息を荒くするガン・ケン。


チクチクと銃弾を当ててくる王国兵、弱い。

的が小さく飛び回る分、まだ蚊の方が厄介だろう。


手りゅう弾を投げてくる王国兵、弱い。

鉄筋棍棒で跳ね返すだけで、投げた本人たちが爆発に巻き込まれて吹き飛ばされていく。


銃を捨て、腰に()いた飾りの剣で斬りかかってくる王国兵、さらに弱い。

その剣の切っ先が届く前に、鉄筋棍棒でなぎ払えてしまう。


そして銃を捨て背中を見せて逃亡を図る王国兵……度し難い。



「それでも国を守る兵士かっ!!!」



咆哮(ほうこう)とともに、ガン・ケンは再び鉄筋棍棒を地面へと叩きつけた。

石の破片が飛び散って、周囲の王国兵ともども、逃げる兵士の背中に穴を空ける。



「さあっ、他にいないのかっ! この俺を楽しませる者は!」



辺り一帯に血の海と肉塊の山を築き猛るガン・ケン。

しかし、もう誰もガン・ケンへと銃口を向ける者はいない。

当然だ。

議事堂正面に王国軍が展開していた理想的だったはずの包囲網は今や、ガン・ケンただ一人にズタズタに引き裂かれていた。



「後退! 散開して後退せよ! 第二強襲部隊と合流し態勢を立て直す!」



王国兵たちがみな、走って逃げていく。

ガン・ケンのこめかみに青筋が立った。

……なんとみっともない、戦士にあるまじき行為だろうか。



「一度俺の前に立ったからには、誰一人として逃げられると思うな、人間……!」



ガン・ケンが鉄筋棍棒を肩に担ぎ、そして王国兵たちの後を追おうとして、しかし。

その背後へと突然、一人の影が現れた。

とたんに青い光がほとばしり、ガン・ケンの背中が浅く斬り裂かれる。



「……! おまえは!」


「チッ。間一髪で避けたか」



ガン・ケンの後ろに立っていたのは男の剣士。

その身にまとうヘコみや黒ずみで汚れた銀の鎧は一見してみっともなくも思えたが、その肩に担いでいる見事な装飾の施された剣は誰が見ても見間違うものではない。



「聖剣か……! つまりおまえは、王国の勇者だな……?」


「……その肩書きはとうに捨てた」



ガン・ケンの問いに、聖剣を持つ男──アレス・イフリートは唾でも吐き捨てるように言う。

そして、その手の聖剣の切っ先をガン・ケンへと向けた。



「ダークヒーラー、キウイ・アラヤはどこへ行った?」


「……なに?」


「まさか最初の爆撃で潰れてやしないだろう。あいつは女騎士を置いて議事堂内へと入った。ならば、次点で頼れる貴様ら魔国幹部のどちらかについて回って行動する……そのハズだ」


「……フン、なるほどな。おまえの目当てはキウイか」



ガン・ケンは鼻で笑う。



「先の一太刀で俺の急所を狙わなかったのもそのためだな? 俺に重傷を負わせ、キウイを戦場に引っ張り出してくる腹積もりだったのだろう?」


「……」


「ククク……なめくさりおって、この(わっぱ)が」



ガン・ケンの目がこれまでに増し鋭く、アレスを射抜く。



「このガン・ケンを前に手を抜けると思うな! 殺す気でこいっ!」


「眼中にないんだよ、クソアンデッドが……!」



アレスの体がオレンジの光に包まれる。

いなや、その姿がガン・ケンの前から透明のベールに包まれるようにして消えた。



「聖術か……!」



ガン・ケンは周囲へと耳をそばだてる。

ジャリ。

再び背後で、足音。



「フンッ!!!」



ガン・ケンがすぐさま振り返る。

そして再び姿を現したアレスが振るった聖剣の一撃を、その鉄筋棍棒で受け止めた。



「聖術と剣術の合わせ技……なるほど、暗殺剣。これが勇者の戦い方か」


「クソが、粘るなよ! とっとと這いつくばりやがれ!」



降りかかるアレスによる連撃。

やみくもに見えて、しかし隙が見当たらない。

聖術によってか、ときおり太刀筋が隠されて、反撃の出鼻をくじかれてしまう。



「厄介な……!」



舌打ちするガン・ケン。

アレスの攻撃自体はなんとか防げていた。

しかし、右手の鉄筋棍棒で防御に徹しなければならない内は、一向に攻撃に転じることができない。

せめて、頭を支えている左手が使えれば……。



「……ん? ああ、そうだ。そうだったな」



ククク、と。

アレスの連撃をさばきつつ、ガン・ケンは笑う。



「なにが可笑(おか)しいっ!?」


「ああ、すまないな童。おまえを笑ったわけではない」



ガン・ケンは元から鋭い目をより細めて鋭利にしつつ、言う。



「そういえばもう、使えるのだったな……この俺の左手は」


いつもお読みいただきありがとうございます!

次のエピソードは「第176話 【Side:議事堂】双手のガン・ケンと謎の騎士団」です。


次回もよろしくお願いいたします!


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