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異端のダークヒーラー、魔国幹部として人類を衰退に導くようです~金と知識を求めていただけなのに、なぜか伝説になっていました~  作者: 浅見朝志


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第165話 お疲れのエメラルダを癒そう!

王国教会本部の見学を終え、ホテルにて。

自室で入手した資料の写しを熟読していた俺は、非公式会議を終えたエメラルダに彼女の自室へと呼び出されていた。



「──交渉は順調よ。今日時点での話し合いは結局、平行線で終わってしまったけど。それはそれで狙い通り」



部屋にはエメラルダ以外はおらず、俺と二人。

つい先ほど会議が終わったばかりなのだろう、エメラルダは壇上に立っていたときと同様の正装のままベッドへと腰かけていた。



「王国へのペルソン返還は最後まで焦らすわ。あの町以上の価値がある条文を引き出すまではね。とても、長い交渉にはなりそうだけれど」



エメラルダはそう言って、小さくため息を吐いた。

だいぶ疲れが溜まっているらしい。

その背筋はいまだピンと張っているものの、表情に薄く陰が差している気がする。



「何か私でお手伝いできることはありますか?」


「そうね……来週の公式会議では魔国の寛容さを強く示そうと思うの。だから、魔国内で排斥など受けず実績を積み上げているキウイを引き合いに出そうと考えているわ」


「なるほど。では想定される質問などに備えて回答を用意しておいた方がいいかもしれませんね」


「ええ。お願い。あとは……特にはないわね」



エメラルダは少し考えるようにしていたが、結局のところ俺に任せられそうなことはなかったらしい。

うん、まあそうだよね。

一介のダークヒーラーたる俺にできることなんてたかだか知れている。それが国と国との関係に関わる話となればなおさらだ。

俺は俺に与えられた役割をしっかりこなしていればいいだろう。



「エメラルダ殿、よろしければダークヒールをいたしましょうか」


「えっ?」


「顔色が優れないようでしたので」


「ああ……そうね」



エメラルダは静かにうなずくと、



「私、実は人の町とかがあまり得意ではなくて」


「そうなのですか?」


「ええ。人に関わると幻聴が、ね」


「幻聴?」


「私を責め立てる人間たちの声がするの……腹立たしいことに」



自分のことを責め立てるような幻聴……まっさきに疑われるのは精神疾患だ。

とはいえ、人に関わると、という条件付きの疾患とはめずらしい。



「何かその幻聴の原因に心当たりは?」


「もちろん、あるわ」



思いのほかの即答だったので、思わず面食らってしまう。

こういうのは潜在的なストレスが起因していることも多いから。

しかし、病の原因に気づいていてなお、現在もなお患っているということならば少し厄介かもしれない。



「原因はそう簡単に取り除けるようなものではない、ということですか」


「ええ。そうだと思うわ。なにせ私の出生に関わることだから……そういえば、まだあなたには話していなかったわよね。私、ただの悪魔ではないの」


「と、言いますと?」


「私は人間たちの儀式によって生み出された悪魔なのよ」


「……!」



悪魔降臨のための黒魔術の儀式。

それは数百年前、各国で流行った神に背く者たちの集会──黒ミサでおこなわれたとされる儀式の一つだ。

しかし、俺が知っているソレは、あくまで格好だけのもの。実際にその儀式によって無から悪魔を召喚した、なんて話は創作上以外では聞いたことがない。



「私には、まだ幼い生きた少女の器が用意されたわ」


「器……?」


「孤児の子よ。儀式によって生み出された莫大な力を納める器にされたの。その彼女の体を満たすことでこの世界に生まれたのが、私」



なるほど、と思った。

それはかつて東の賢者マロウの使っていた神術の一つ <取り憑き>に似たものだろう。その黒魔術儀式を取り仕切っていた者たちは実際、そのマロウの神術からアイデアを得たのかもしれない。



「でも、私は失敗作だったの」


「失敗作?」


「ええ。私は少女の器を砕き、体も精神も完全に乗っ取ってしまったから。少女や私をいいように使おうとした者たちを地獄の底に叩き込むために。実際、皆殺しにしたわ。復讐は果たしたの。でも……幻聴は消えないまま」


「ふむ、エメラルダ殿ご自身に問題がないとすれば……」


「ええ。私の(もと)となった……器の少女にあったのよ、きっと」



幻肢痛(げんしつう)、という症状がある。それは失ったはずの手足が感じるはずのない痛みを感じる、やはり精神的な病に分類されるものだ。

もしかすると、今のエメラルダを(さいな)む幻聴はそれに似ているのかもしれない。



「失われたはずの少女の体や精神がいまだ苦痛を忘れずにいる、と」


「そうね。だからお手上げよ」


「何を言いますか」



ガシリ、と。

諦念の表情ですくめられたエメラルダの肩へと、俺は手を置いた。



「お手上げにしてもらっては困ります。私はまだ何も試せていない」


「えっ……?」



もうすでに、好奇心という名のロウソクに火は点いてしまっていた。

こんな症例、当然のことながらこれまで見たことはない。ならば診なければ損というものだろう。

俺は勢いよく顔を寄せ、エメラルダの顔をのぞきこんだ。



「ぜひ、私に治療を試させていただきたいっ、今すぐ!」


「はっ、はいっ、どうぞ……」



若干引かれているようだったが、気にしない。

俺はエメラルダの頭へと手を載せる。

そして、ゆっくりと前から後ろへと、優しくその頭をなでつけた。



「ふぁっ……」



エメラルダの口から、吐息と驚きの中間のような声が漏れ出る。



「キ、キウイ……? こ、これは何を……!?」


「まずは精神を落ち着かせていただこうかと思いまして」


「ぎゃ、逆に落ち着かなくなってしまうのだけれど」


「そうでしたか。では、ほどほどにしてさっそく治療に移りましょう」


「えっと、ダークヒールをかけてくれるのかしら?」


「ええ。ダークヒールもかけます。精神を安定化させるためにね。しかし、メインとなる治療それ自体はエメラルダ殿ご自身におこなっていただく必要があります」


「私が……? いったい、何をすればいいの?」


「治療対象がこの世にない幻ならば、まずはそれを目に見える形にする必要があるのです」



俺がおこなうのは、王国においても幻肢痛治療として最近注目されつつある、非薬物・非聖術療法の一つ。それをエメラルダの精神専用に特化・応用させたもの。



「エメラルダ殿、器となった幼い少女に『なりきって』ください」


「……は?」



早い話、エメラルダの精神を健康的な幼女へと退行させよう、というわけである。


いつもお読みいただきありがとうございます!

次のエピソードは「第166話 エメラルダちゃんは甘えざかり」です。


次回は7/18(金)更新予定です。

よろしくお願いいたします!


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