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異端のダークヒーラー、魔国幹部として人類を衰退に導くようです~金と知識を求めていただけなのに、なぜか伝説になっていました~  作者: 浅見朝志


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第156話 ゾンビ・ソルジャーと王国

アポロが魔都デルモンドを後にして、一ヶ月もしないうちに講和会議の準備は整った。

史上まれに見る早さでの講和会議の開催となるだろう。

俺専用に用意された二頭の骸骨馬(スカルホース)がひく馬車はとても豪華なもので、俺とミルフォビア、それにシェスが悠々と乗れる広さがあり、加えてその後ろには巨体のゾンビ・ソルジャーを載せる荷台までけん引できるようになっていた。



「アラヤ様、どうぞお先に」


「うむ。ありがとう」



馬車の扉を開けてくれたミルフォビアに礼を言って中に入ると、



「グハハハ……久しいな、人間」



先客の干からびた生首がポツンと席に置かれ、笑って俺を出迎えた。

俺がその光景にキョトンとしていた間に、後ろから一筋の疾風が俺の横を吹き抜けて、ガシリと。



「抜け出してキウイ様を襲いにきたか、ジャーム!」



シェスが目にも留まらぬ速さで俺を庇うように馬車に入ってくると、その生首──かつての死の国の王を自称していたジャームのその頭を、握り潰さんばかりにわしづかみにしていた。



「あ、待った待った! 待つのだゾンビ・クイーン!!!」


「黙れ。私はシェスティン・セイクリッド。ゾンビ・クイーンなどではない。どうやら脳まで腐っているらしいな。もはやこの頭は斬り刻んでしまっても構うまい?」


「よ、用事! 俺はキウイ・アラヤへの用事があってきたのだ! ちゃんと魔王の許可をもらってな!」


「キウイ様へと用事だと……?」



シェスは恨みがましい目でジャームをねめつける。



「案ずるな、シェスティン・セイクリッド……俺はキウイ・アラヤへと危害は加えられん。この首輪がある限りな」



ジャームは忌々しげに言う。

よく見ればその首にはベルトのような太さの黒い線が一周していた。

それは西方エルフ戦線終息後、ルマクがメリッサに対して施していたものと同じ。



「確かに、契約魔術によって行動は縛られていると見て間違いはなさそうだ」


「では、キウイ様、このゲスの話をお聞きなさるのですか?」


「うん。まあわざわざ俺のもとへ来るほどの用事というのであればな」



シェスは嫌そうに顔をしかめつつも、しかし生首を元の位置へと置くと俺に一礼して引き下がってくれる。

シェスがジャームのことを酷く嫌うのは当然のことだろう。

ただシェスには申し訳ないが、実のところ、ジャームとの会話は俺にとってはかなり貴重なイベントだ。


そもそもジャームは普段、魔王城の奥深くに封印されるように置かれているため、よっぽどのことがない限り面会もできない。だから、せっかくの機会だしこちらから聞いておきたいこともある。

とはいえ、まずはジャームの用件から聞くことにしよう。



「キウイ・アラヤ、これから王国に向かうんだとな?」


「ああ。そのつもりだが」


「ならばゾンビ・ソルジャーに気をつけるがいい。暴れないとも限らない」


「どういうことだね?」


「俺はかつてのあの王国で宮廷魔術師であり、そしてゾンビ・ソルジャーは生前、初代王国勇者だった」


「……!」


「ハッ、驚いたか」



目を丸くする俺に、ジャームは得意げに鼻を鳴らす。



「ゾンビ・ソルジャーはな、当時に王国を脅かしていた、たび重なる野蛮な魔族どもの侵攻から未来永劫あの国を守るために自ら望んで不死の身体になったのだよ」


「そう、だったのか……」



俺は後ろについてきていたゾンビ・ソルジャーを振り返る。

その表情にはどんな色を浮かべてもいない。意思もない。

ただ黙して、そのうつろなまなざしを俺たちへと送るばかりだった。



「俺の懸念はわかるだろう? かつて愛国心のために自らの命すら投げ出した男の体が、再び王都へと足を踏み入れようものならどうなるか……死の国で俺に反逆したとき同様、肉体に刻まれた魂の残滓(ざんし)が王都という土地に呼応して暴れ回る可能性も否定できん」


「忠告感謝しよう。しかし、どうしてそれを私に伝えようと?」


「……いざ何かが起こったとき、俺がなにか仕込みをした、と思われたらたまったものではないからな」



ジャームは気に喰わなそうに口をへの字に曲げる。

まあ確かに今使役するのが俺であったとしても、元々ゾンビ・ソルジャーを作り出したのはジャームなわけだから、魔王ルマクの疑いはジャームに向くかもしれない。

だからこうしてわざわざ忠告に来てくれたのは、自らの保身のため、というわけか。



「では忠告はした。もう用はない」



フワリ、と。

ジャームの生首が浮き上がる。

どうやら用事だけ済ませた今、早々に立ち去るつもりらしい。



「少し待ちたまえよ、ジャーム」


「なんだ」


「いくつか質問がある。おまえはどうして王国からこの地までやってきたのだ? しかもゾンビ・ソルジャーを連れて。他にも聞きたいことはあるぞ。ジラド……つまりゾンビ・シーフのことについてだ」


「フン、俺に興味を持ち始めたようだな。別に教えてやって減るものでもない……が、しかし。断る!」



ニヤリ。ジャームは勝ち誇ったような表情で俺を見下すと、



「まさかこうして忠告しに来てやっただけで、俺がおまえの友にでもなった気でいたか? ハッ、笑わせる! 俺がおまえにわざわざ情報をくれてやる義理がどこにあるというのだ。おまえは俺のカタキである以外の何者でもないことを忘れたか!」


「ならばわかる範囲で私が勝手に語ろう」


「あぁ?」


「ジラドと、それとこの土地のことだ。実は自分でも調べていてね」



いぶかしがるジャームをそのままに、俺は懐からメモ帳を取り出すと該当のページを開いた。



「まず、なぜこの地に魔国ができたのかについてだ。ジャームよ、おまえは初代魔王とこの地をめぐり争って負けたのだと言っていたな? どうしてこの地にこだわる必要があったのか」


「何が言いたい?」


「ジラドの話やメリッサが持っていた古文書を解読してもらってわかったよ。この魔都デルモンドが置かれている場所には数千年前、神に反逆をおこなったとされる民族──火盗みの民が暮らしていた場所があったそうだね」


「……」


「つまり魔術的聖地だったわけだ、ここは。そしてジャーム、おまえは地下に隠れ潜むうち、ミイラとなって埋葬されていたジラドを見つけたんだな?」



ジャームは黙して口を開かない。

しかし、俺は言葉を続けた。



「私はてっきり、ジラドはシェスやゾンビ・ソルジャー同様の措置でアンデッド化されたものだと思っていたのだが……違ったみたいだ。ジラドの記憶は数千年前で止まっていて、おまえの記憶などないらしい。すでに死してミイラ状態だったジラドを直接ゾンビとして使役することにしたんだろう」


「……フン、つまらないヤツめ」



気に喰わなそうにジャームは口元をひん曲げた。

どうやら、俺の推測のおおよそは当たっていたようだ。

ジャームは捨て台詞を吐くと、その場から煙と化すようにおぼろげになって消えていった。魔王ルマクの元へと帰ったらしい。



「アラヤ様、お話は終わりましたか?」



ミルフォビアが馬車の中をのぞき、ジャームの姿が消えていることを確認してから言った。



「そろそろ出発いたしますが、いかがいたしましょうか?」


「ん、何をだね?」


「ゾンビ・ソルジャーです。あいつの話が本当であれば、今回に限ってはゾンビ・ソルジャーを連れていくのは危険に思えますが……」


「まあ、本当だろう。ウソを吐く意味もないからね」


「では、ゾンビ・ソルジャーは置いていかれるので?」


「いいや? まさか」



俺が手で合図を出すと、それに従ってゾンビ・ソルジャーは後ろの荷台にドシッと飛び乗って膝を抱えて座り込んだ。



「実におもしろそうではないか。ゾンビ・ソルジャーに何か起こるかもしれない、というのは」


「ぜんぜんおもしろくないです。おもしろくないですよ、アラヤ様」



ミルフォビアが責めるような目で見てくる。



「王都に入るなり暴れ出したらどうするんですっ? そんな事態になれば、講和会議そのものが破綻しかねません!」


「その点はしっかりと配慮するさ。それに、私が考えるに……ゾンビ・ソルジャーは王都それ自体には大した反応はしないだろう」


「えっ? どうしてですか?」


「フッ……詳しくは道中話そう。どうせ長旅だ。時間はいくらでもあるのだから」



ミルフォビア、そしてシェスが乗り込むと、馬車はゆっくりと動き始める。

その日、俺たちは王国講和会議に向けて魔都デルモンドを発った。


いつもお読みいただきありがとうございます!

次のエピソードは「第157話 おおっ、図鑑で見たモンスターだぁ!」です。


次回は6/27(金)更新予定です。

よろしくお願いいたします!


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