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異端のダークヒーラー、魔国幹部として人類を衰退に導くようです~金と知識を求めていただけなのに、なぜか伝説になっていました~  作者: 浅見朝志


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第135話 神話級ダークヒール

勇者アレスとシェスの攻防は、しだいに決着が見え始めていた。

荒れ始めた捨て身のアレスの剣技に始めは戸惑っていたようだったが、しかしすぐに冷静さを取り戻したシェスの敵ではないようだ。



「──フッ!」



シェスはアレスの大振りの攻撃をしゃがみ込みながらいなしバランスを崩させると、そのいなした方向へとそのままコマのように横回転して一閃を放つ。

勇者の太ももが深く斬り裂かれた。

しかし、



「殺す、殺す、殺す……!!!」



なおも、勇者アレスのその目からは闘争の火は消えない。

むしろそれはいっそう燃え上がっている。

にらみつける先は当然のようにシェスではなく、俺だった。



「コイツ、痛みを凌駕して……!」



シェスはどう対応するかを思案するように数秒立ち止まって、



「場所を広く使います。キウイ様、もう少し後ろへとお下がりください!」


「ああ、わかった」



戦闘それ自体に俺の出る幕はない。

俺は言う通りにシェスとの間を空けた。

シェスが再びアレスへと飛び込んでいって、その直後のことだった。



「──ッ!?」



バッと。

アレスと対峙する最中のシェスが弾かれたように俺を向く。



……は?



バカな。いったいどうしたというのだ。

それはつまりアレスへと無防備な背を向けているということだ。



「危ないっ!!!」



シェスが俺へと手を伸ばした。

いや、危ないのはシェス、君のほうだ。

俺がそう叫ぼうとして、しかし。



──白い光が飛翔する。



それは音を置き去りにして、白く光り輝き一直線に進む。

つい一瞬前までシェスの頭があったその場所をスレスレで通過したソレは、その延長線上にいた俺へとめがけて飛んでくる。



……なんだと?



こんな暗い森の中で、狙撃?

その白いモノの正体は小さな弾丸だった。

白く見えるのは聖力の光で、弾の色自体は赤。

加えて、弾頭には見たこともない術式の紋様が刻まれているのがわかった。


人間である俺に聖術を使う意味などない。

であれば本当の狙いはシェスか。

それが外れて、俺に?



……フム。



しかし、それにしてもおかしい。

なぜ俺に飛んでくる弾が見えるのだ?

このゆっくりと思考する時間はいったいどこからやってきている?



……あ、わかった。これっていわゆる走馬灯というヤツか。



実に興味深い。

一瞬という時は、死を前にするとこれほどまでに延びるものなのか。

だが、それも永遠ではない。



──走馬灯は終わりを告げる。



無慈悲にも、世界は再び動き出す。

白い弾は変わらず俺めがけて進み、俺の胸の真ん中へと突き刺さろうとして、




「グルァァァ──ッ!!!」




しかし。

それよりも肩が押されるのが先だった。

気付けば俺の視界を覆っていたのは白銀の毛並み。

弾よりも前に俺の元へと駆けつけた者がいた。

風よりも速く走る脚を持ち、災厄を見通す第六感を備え、誰よりも強く優しき心を持つその彼女の名は──ウルクロウ。


その巨体が俺へと覆いかぶさった。

衝撃で俺は尻もちをついてしまう。

痛い。

痛いが……尻を打ったその痛みだけだった。


銃弾に貫かれたひどい痛みなどはなく、しかも生きている。



──ドクドクドク。



俺の体を生温かく、鉄臭い液体が浸す。

血だ。

だがそれは俺の傷口からあふれ出したものではない。



「ウルクロウ殿……?」



なぜ、あなたがここに?

返事はない。

俺の体に正面からもたれかかってきていたウルクロウは、その目と口を開けたまま意識喪失していた。


背には小さな赤黒い弾痕が空いており、それを中心として先ほど見た弾丸の弾頭に刻まれていたのと同じ紋様がウルクロウの白銀の毛並みを侵すように広がっている。



……なんだこれは? 弾には何か特別な聖術が施されていた? いや、今はそんなことどうだっていい。



とにかく治療をせねば。

俺はすぐさま意識を切り替えて、ウルクロウの顔へと触れた。

だが、すぐに悟る。



「ウルクロウ殿が、死んだ……」



絶命。

その状態はもはや通常のダークヒールを流したところで、回復が見込めない段階だった。



……なんたることか。



俺の危機を悟ったのか……その魔狼種が天性に備える第六感によって。

そして俺を庇い、犠牲に?

俺の代わりにウルクロウは死んだのか。



「今の内だっ、狙撃の援護があるっ!」



そう叫んだのは、これまで勇者アレスが戦う後ろで待機していた二人の聖職者の内の一人。

そして、その者たちはまっすぐに俺の元へと走ってやってくる。



「キウイ様っ!!!」



シェスがこちらへと駆け寄って来ようとするが。

ガキンッ! と。

アレスの振るう聖剣に阻まれていた。



「異端者キウイ・アラヤッ!!! 捕まえたぞっ!」



ガシリ、と。

たどり着いた聖職者たちに、頭やら腕やらを乱雑に掴まれる。

<悪魔の雷>を警戒してだろう、聖力をこれでもかと体からみなぎらせていた。

そんなことをせずとも、二人を無力化し続けられるほどの魔力の余裕などはないというのに。



「よくもわれらが聖女を……! 地獄へ落ちろっ!」



聖職者の一人の懐から抜かれたのはナイフ。

そうだろうね。

俺に効き目のない聖術よりも、狙撃手の有無がわかった後の狙撃よりも、肉迫しての刺突の方がよっぽど確実性があるだろうから。

だが俺は、



「すまないな、人間諸君」



敬虔(けいけん)なる人類へと謝罪を。



「どうやら私の良心はね、彼女の死を前にしては、諸君らを生贄に捧げることに何の呵責(かしゃく)も覚えぬらしい」



魔力欠乏?

自分のものがないならば聖なる者の生命力を使えばいい。


さあ。

よみがえりたまえ、わが戦友。



──神話級のダークヒール。



人生二度目のソレを、今度は聖職者二人を犠牲にして放つ。

二人分の魂を、純粋な力としてろ過していく。

一瞬の空白の後、巨大な黒い光の柱が森の枝葉がなす天井を突き抜けるようにしてそびえ立った。


いつもお読みいただきありがとうございます!

次のエピソードは「第136話 復活と消失」です。


次回は5/9(金)更新予定です。

よろしくお願いいたします!


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捕縛が最大の悪手 いや、神話級を見たい賢者の狙い通りではあるか…
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