表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

118/196

第118話 【Side:王国側】勇者アレスの疑念

ルエ・ヒュマーニ王国王都にある王国軍本部。

作戦室に集められたその部隊の面々に、勇者アレスはあぜんとした。



「これだけか……!?」



聖職者がたった三人。それにアレスを加えて四人……それだけしかいない。



「おいシュワイゼンッ、これはいったいどういうことだ!?」



まるで馬鹿にされているようだと、アレスは怒りの表情でシュワイゼンを見る。



「勇者部隊は王国軍のエース部隊だぞっ!? こんな小隊で行動しろとっ?」


「お待ちください、アレス様。これには理由があるのですよ」


「理由っ?」



憤まんやる方なし、といった様子のアレスをなだめるようにシュワイゼンは慌てて、



「今回のわれわれの作戦は大規模戦闘ではありません。あくまでキウイ・アラヤの討伐が目的なのです。大隊での移動では目立ってしまい、作戦行動に支障をきたしてしまうのです」


「だとしてもこのメンツはなんだっ! まともに戦えるのが俺しかいないじゃないか!」



集まっていた聖職者三人へとキッとしたにらみを利かせると、その内の二人の中年の男たちはすくみ上ったが、あとの一人はニヤリとして。



「クカカカカッ、おやおや、それは心外ですねぇ」



笑いながらそう言ったのは王国教会副主席のハーデス・プルトン。



「聖職者だから戦えないわけではありません。私とて、ただの政治ゲームで王国教会の席次の地位へと上り詰めたわけではないのですから」


「フンッ、話にならん。聖職者なんぞ、盾になる戦士がいなければ敵のいい的にしかならん。こんなヤツらだけ連れて戦地に赴くなんて俺はゴメンだぞ」


「つまり、単体で戦力になるということが保証されたらいいわけですね?」


「あ?」



──ピシュンッ。



空気を裂くかのようなその音がするかしないかの間に、アレスは大きく右足を後ろにやって半身を切った。

直後にそのアレスの横ギリギリを通り抜けていくのは、銃弾。



「おや、お避けになられましたか」


「テメェ……!」


「クカカカ、さすがです。王国勇者の肩書はダテではありませんなぁ」



そう言ったハーデスの手に握られていたのは特徴的な黒く角張った拳銃。ハーデスが、懐から抜いたソレで早撃ちをしていたのだと、アレス以外の面々が遅れて気づく。



「俺と殺し合いがしたいのか? あぁ?」



背中の聖剣を抜いたアレスへと、しかしハーデスは笑みを絶やさない。



「わざわざ確認のひと手間をおかけとは、紳士ですなぁ」



さらなるその煽りの一言に、アレスは躊躇なく聖剣を振りかざそうとする。

だが、その一瞬の間にもハーデスの持つ銃からは連続して弾丸が飛び出していた。

見切れたとて、その全てを避けることなど当然できもしない。となれば刀身で受ける他はない。

ガキンッ、ガキンッと。

銃弾を弾く音。周囲の聖職者たちはたまらず地面へと伏せ、



「アレス様っ、副主席殿! どうかおやめください!」



シュワイゼンもまた腰を抜かしたように地面を後退りしながら叫ぶ

が、当然のようにアレスもハーデスもその動きを止めようとはしない。

特に、ハーデス。彼は弾を全て撃ち尽くすやいなや、銃口を顔の前で構えたままマガジンをリリース。流れるように羽織っていたオーバーコートの内側へと手を突っ込む。

新たなマガジンを取り出して、まだ撃つつもりだ。



「俺の前で弾倉(マガジン)を変えられるとでも思ったかっ!?」



しかし、それを咎めるアレス。

冷静に発砲された銃弾の数を数えていたらしい。

ハーデスが撃った数が十二発、そして王国最新式のセミオート拳銃の装弾数は最大でも十二。その間隙を突いていよいよ、とアレスが距離を詰めようとする。

だが、



嗚呼(ああ)安易安易(あんいあんい)、安易ですねぇ」



──ピシュンッ!



ハーデスの拳銃から、十三発目の銃弾が飛び出してアレスへと迫った。



「クッ!?」



間一髪で身をよじり避けたアレスは、しかし態勢を崩してそれ以上ハーデスを追撃できなくなった。その隙に、ハーデスは新たなマガジンをセットすると拳銃のスライドを引く。



「マガジンが十二発上限だとしても、拳銃内に弾がそれだけしかないとは限りませんよ?」


「あらかじめチェンバー内にカートリッジを入れたまま拳銃を持ち歩いていたのか……! おまえ、本当に聖職者かっ!?」


「副主席、と名乗らせていただいたハズですがね」



そうして再び、ハーデスはトリガーを引く。

しかし今度の拳銃はその様子が違った。



「主よ、()のものへ <聖撃>を与えたまえ」



ハーデスの口から紡がれるは、聖文。それと共に黒雲が稲光りするような輝きを放つ銃口から銃弾が発せられる。

それはアレスの聖剣とぶつかるやいなや、その場所に白銀に輝く十字架を出現させた。

魔に対してハリツケの苦しみを与える聖術だ。

その十字架の神々しさは、伏せて戦いへと見入ることしかできないシュワイゼンたちの目をくらませるほどだったが、



「ナメてるのか?」



一方のアレスはその十字架をひと息に、躊躇なく斜めに斬り伏せると、そのままの勢いで前へと踏み込んで聖剣の刃をハーデスの首元に当てた。



「聖術が、勇者である俺に通じるわけがなかろう」


「クカカッ、まあ目的は私の力を見せるためでしたので。たわむれですよ。現に銃弾はその一つもあなたの急所を狙っておりません」


「……」


「もう充分でしょう……それとも、おや、もしやアレス様はこの場で私を斬り伏せようと? まあ、それもまたいいかもしれませんが」


「……フンッ」



アレスは気に食わなそうに鼻を鳴らすと、聖剣を引いて背中へと納めた。



「なにが『それもまたいい』だ。おまえ、懐に隠したもう一丁の拳銃を俺に突きつけていたろうが、ふざけやがって」


「……おやおや」



お気づきでしたか、とつぶやくハーデスから視線を切ると、



「おい、シュワイゼンッ」



アレスはいまだ床に這いつくばって伏せたままのシュワイゼンへと、いまだ不機嫌そうなその顔を向ける。



「コイツがいるから、俺以外の戦士は要らないって言うのが理屈か? それでも俺はまだ納得できんぞ」


「いえ、そういうわけでは」


「じゃあ納得できる理由を説明してみろっ!」



アレスはシュワイゼンと同じように伏せっている聖職者二人を見て、



「ソイツらも王国教会席次に座する高位聖職者なんだろうが、あのアルテミスが不覚を取ったキウイ・アラヤに対抗できるほどのヤツらなのかっ?」


「それは……」


「キウイ・アラヤは聖職者に対して強い! そうだろうっ? それを狩るのにコイツらはとうてい適任には思えん!」


「いえ、そんなことはございませんよ」



答えたのは、ハーデスだった。



「要は小隊の中で二人一組(ツーマンセル)を組むのが目的なのです。私とアレス様という戦闘要員に専属ヒーラーを付けるのですよ」


「専属ヒーラーだと……?」


「先のエルデンの戦いでは、その有無が勝敗を分けたのではありませんか?」


「ッ……!」



アレスは思わず息を飲んだ。

確かにエルデンでの最後の魔国幹部アギトとの決戦で、キウイ・アラヤにアギトの傷を全快されることがなければ一対一の行方はまだわからなかったのは事実だった。



「ゆえに、今回はその弱点を克服するための少数精鋭なのですよ」



ハーデスは大衆向けの演説でも披露するかのように両手を広げて言葉を続ける。



「アレス様も私も、全ての力を不意打ちの一撃に割くだけでいい。帰還の際の安全はわれわれのそれぞれについたこの二人の席次が保障してくれますから。そう考えればご納得いただけるのでは?」


「…………」


「クカカッ、今のところはこれ以上のご懸念もない様子。予定通りこの部隊で西方エルフ国家へと向かいましょう」



確かに、ハーデスの展開した理屈に筋は通っていた。

だがしかし、どうしてもアレスに納得はいっていなかった。

それはハーデスのことが単に気に食わないという感情的な理由と、もう一つ。



……なぜ、この四人のみなのだ。



別に、作戦を悟られないようにということであれば、大隊を送り込んで現地で四人一組の小隊単位に分割させて行動させてもいいはず。人数が多い方がキウイ・アラヤを発見できる確率は上がるのだから、西方エルフ国家に送り込む人数からして四人に絞り込む理由はない。



……すでにキウイ・アラヤがどこに現れるかがわかっているかのような作戦でもない限り、あまりにも非効率だろうが。



それを口に出してもよかったが、アレスは黙した。

理由はいくつかある。

とりあえずその一つは命の恩人であるシュワイゼンへの義理立てだ。

なにか裏があるにしても一度くらいは策に乗ってやろう、と。



……ただし、この一度きりだ。



結果としてアルテミス救出へと近づけるのであればよし、そうでなければ……。

アレスは覚悟を決めるように、一つ大きな息を吐き出した。







* * *






──広いウェストウッドの戦場において、果たしてそんなに都合よく勇者アレスとキウイ・アラヤは邂逅(かいこう)するのか?



「勇者部隊は必ずキウイ・アラヤと遭遇する。それは決まりきったことだ」



当然のごとくシュワイゼンの持ったその疑問へと、メリッサは答えた。

そこはハーデスの持つ聖堂内。

もはや当然のようにそこにいる西方エルフ国家が誇る賢者の一人のメリッサは、今度は敬虔そうな羊飼いの恰好をしていた。

麻で編まれた質素な服に、先端に鈴のついた身の丈ほどの杖を地面について持っている。



「マロウのヤツはオレの寄こした勇者部隊を躊躇なく使い捨ての戦力として、魔国軍の本命にぶつけるハズだ」


「な、なぜそう言い切れるので?」


「決まってる。いくら勇者であろうともアレスは人間。マロウにとっては無価値に等しい。であれば、自分が戦場に出る前の露払いとして使うに決まっている。王国の都合など二の次でな」



メリッサは機嫌良さそうにチリンと杖を鳴らしながら、



「だがアレスもまたマロウの狙いなんて知ったことではない。多くの敵がいる中で執念深くキウイ・アラヤだけを狙ってくれるだろう。だが、数の限られた勇者部隊ではキウイたちを追い詰められたとしても、トドメを刺すには至るまい。せいぜいキウイの従者の誰かを瀕死に追いやるのが関の山……だが、それでいい」


「クカカカッ、そうすれば、キウイ・アラヤがあの <神話級のダークヒール>とやらを発動させる……そういう魂胆ですね?」



ハーデスが訳知り顔でうなずいた。



「まあ私は、状況だけ整えたらあとは勝手に退散させてもらいますがねぇ。今の地位を捨ててまで、勇者アレスと共に地獄に行きたいとは思いませんので」


「ああ、構わん。ハーデス、おまえは適当なところでアレスを切り捨てろ」


「ええ、喜んで」



ハーデスはためらわずに承服した。

誰かを意図的に見捨てる行為にシュワイゼンは吐き気をもよおさずにはいられなかったが、しかし。



「シュワイゼン、おまえも引き続き王国軍を動かしてエルデンへと牽制をし続けろ。わかったな?」


「……はい」



結局、シュワイゼンもハーデスと同じ。自らの安全のためにメリッサへと尻尾を振り続けるしかないのだ。



……メリッサが羊飼いならば、さしずめわれわれは、チリンと鈴を鳴らされればワンと鳴いて哀れな羊たちを追い立てる従順な牧羊犬に過ぎないのだから。


いつもお読みいただきありがとうございます!

次のエピソードは「第119話 再び西方エルフ戦線へ」です。

次回もよろしくお願いいたします!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【 書籍1巻発売中! 】

html>
― 新着の感想 ―
四人での魔王(軍医)討伐は定番ですね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ