第二章 奮い立つ激情と壊れゆく器
「ん、ダメだね。確かに引っかかった。でも少し足りない」
常闇に愛されたかのような少年は、手のひらに乗せた小さな焔を指でなぞる。
羽根の形をしたそれは、風もないのに宙を舞った。
《枷は、はずれた?》
「あぁ、感情は揺らぎ、枷は外した。でも、きっと彼はそれだけじゃダメみたいだ」
その羽根は少年が施したもの。
心を揺るがせ、感情を高ぶらせ、限界を超えさせる想いを込めたもの。
構内に、それも教員にすら検知されていない羽根は、上手く一人の乙女の心を昂ぶらせ、結果的に目的へと指をかけていた。
眠っていたものを起こす、その目的に。
しばらくすると、少年は、傍らで自分を見守るものへと視線を移し、優しく微笑んだ。
「さぁ、もう少しだよ――」
《いいの?》
少年へと返される声は、少年を按じ、どこか不安をおびていた。
永久の闇の中、少年は眼を細め、それの顔をそっとなでる。
「何をいってるんだい? これはぼくが望むこと、望んだこと。
それに、ぼくらにはもう戻ることなど、できないのだから」
《……あなたが、それを望むなら》
それが、じっと目を瞑り、少年へと身をゆだねる。
少年は、それの温もりを肌で感じながら一つの詠唱を始めた。
それは闇を揺るがし、どこまでも果てしなく響き渡る。
声は、どんな音よりも崇高で、清廉で、儚かった。
心の底に響きながら、雪のように淡く消えゆく声音。
少年が詠唱を行うたび、その旋律からは青白い光がこぼれ、それは世界に溶けていく。
光の消えた後に続くのは、変わらぬ闇であり、ソレは何も変わらないかのように見えた。
けれど、小さな波紋が波となり、うねりとなるように少しずつ広がっていく
「大丈夫、君はすぐに目覚めるさ、目覚めずにはいられないのだから。
これが始まり、そして終わりだ」
そういって少年は、世界の軋む音に恍惚と耳を傾けるのだった。




