5─IV
苺さんより、新たに2─VIに挿絵を頂きました。
是非一度ご覧下さい(F`・ω・)ゞ
それから更に数日が過ぎ、精霊節が間近に迫った16月20日。
この日、城下町に居た人間達は殆ど総動員で、昨日の大雪で降り積もった雪の除雪作業に当たっていた。
そしてガイアはと言うと、中央広場と正門前の広場を結ぶ商人街道で、アスナから除雪道具についてのレクチャーを受けていた。
「スノーダンプは上半身に力を入れちゃ駄目。背中を真っ直ぐ伸ばして腰から進むようにしないと、腰痛になるわよ」
アスナは白い息でそう言いながら、両手で力強くガイアの姿勢をグイグイ矯正していく。
ガイアは改めてその腕の力強さに感嘆しながら、アスナの指示に従ってスノーダンプを押し進める。
アスナはその姿勢に問題が無い事を確認すると、自身もスノーダンプを押して雪かきを開始した。
そして、雪かき開始から暫く経った頃。
城下町正門の検閲所から姿を現し、冒険者ギルドを目指すために商人街道に脚を踏み入れた一人の男が、ガイア達に声を掛けた。
「おっ、兄ちゃん久々やな!
元気そうで何よりや!」
「あ……、マグナさん! お帰りなさい!」
ガイアは作業の手を一旦休め、声を掛けてきた赤髪狐目の大先輩──マグナに挨拶をする。
それを見たマグナは、ガイアの右腕に視線を移した。
「完治したんやな、おめっとさん!」
「あ……、ありがとうございます。
無事に完治して、すっかり元に戻りました」
その言葉に一瞬戸惑ったガイアであったが、マグナと出会うのは、あの日病室で別れて以来の出来事であった。
と言うのも、マグナはガイアが退院するよりも前にこのアインハルト王国の存在するライル大陸の北側──未開拓地域の開拓事業の手伝いの依頼を受け、今日まで城下町に居なかったというのが理由である。
そして、ガイアはふと退院時に担当医の先生から言伝を預かっていたことを思い出し、こう言った。
「……そう言えば、予想の半分の期間で退院できたので、病院からマグナさんに見積もり以上の払い戻しがあるって、先生が仰ってましたよ」
「……は? 半分ん!?」
その言葉を聞いたマグナはみるみる内に表情を変え、普段余り見開かない狐目を力の限り見開くほどに驚愕する。
「ソレホンマか!? 何か無茶か我慢か禁術でもしたんとちゃうか!?」
そう言いながら、マグナはガイアの両肩をがっしと掴み、思いっ切り前後にゆさゆさと振りまくった。
「ちょ、大丈夫、大丈夫ですって!
マグナさんが懸念してるような事は何もしてませんから!!」
それからガイアが宥める事数分、マグナはようやっと落ち着きを取り戻し──
「若い言うても、程があるやろ……」
半ば呆れたような顔で、そう呟いた。
すると、マグナは何を思ったのか、道の脇に寄せ集められた雪山の前へと歩いて行き、それに手をかざしてこう言った。
「おいちゃんも、まだまだ若い者に負けてられへんな。
行くでッ、"命待傀成"!」
マグナがそう言い放ったのと同時に、雪山が注ぎ込まれた琥珀色の光と共に発光し、みるみる内にその姿を変えてゆく。
そして、その大量の雪は二メートル程の屈強な男を模した人型へと変形し、ガイア達を見下ろすように身体を傾けた。
「…………っ!?」
この異世界に来てから一番衝撃を受けたその光景に、ガイアは開いた口が塞がらなくなっていた。
「命令……"この場所の雪かきを手伝ったりぃや。ほんで、それが終わったら川に入って自壊せえ"。
以上、命令終わり」
マグナの命令を受け終えたゴーレムは、その巨大を静かに動かしながら、その大きな両手で雪かきを開始した。
「……はは、つい意地になってもうたわ。
ほな、おいちゃんそろそろ行くわ。また今度な!」
それだけ言うと、マグナは共に帰還した同行者達を集め、ギルドに向かって去って行った。
(あれが……、ランクSの冒険者……)
先程の傀儡形成が発動した際の現実離れした光景と、その時に感じた自身の魔力総量に相当する程の使用魔力。
それを肌で感じ取ったガイアは、いつか自分もその高み──そして、その先まで行かなければならないだろうと言う事を予測し、震えていた。
そして、中断していた雪かきを再開するべくスノーダンプを手に取ったところで──
「……おい」
不意に、ガイアは振り向いた先に居た二人の老人の内の一人から、そう声を掛けられた。
ガイアは落としていた視線を上げ、顔を向けてその人物を見る。
一人は、全身に立派で頑丈そうな黒い鎧を着込み、左腕に盾を、背中に杖を背負った、茶髪蒼眼のマーマンの男性。
そして、もう一人は道着のようなタイプの作りをしたインナーの上を着込み、更にその上から各種装甲を纏って額に鉢金を巻いた黒髪のエルフの男性であり、目を瞑ったままガイアの方に顔を向けていた。
格好からして、恐らく冒険者か傭兵だろうとガイアは推測する。
「えと……、何でしょうか?」
ガイアがそう訪ねるが、二人はガイアを観察していたようで、暫く何も言わなかった。
──そして、茶髪蒼眼の鎧の老人が、こう言った。
「……お前が、ジーノの最期を看取ったのか?」
「ええ、そうですが……、何か、ご用ですか?」
その言葉を最後に、再び数秒の沈黙が訪れる。
すると、二人の老人は顔を見合わせ、揃ってガイアに顔を向けると、深々と頭を下げた。
「え……!? ちょ、何を──」
「ありがとう」
「……え?」
初対面の年長者からの突然の態度と感謝に、ガイアは困惑していた。
すると、先に顔を上げた黒髪のエルフの男性が口を開いた。
「我らは、ジーノ殿とチームを組んでいた者だ。
……申し遅れたな。
某はレンカ。剣聖王だ」
「右に同じく……、マクバール。攻魔王だ。
俺達の友を……、そして、あの娘を助けてくれたこと……、重ねて礼を言わせてくれ」
そう言って、二人はガイアと握手を交わしながら「ありがとう」と言った。
そして、ガイアは二人に自己紹介を返す。
しかし、その自己紹介を終えた途端、レンカはガイアに向かってこんなことを言い出した。
「……貴公、嘘をついているな?」
「え……」
その言葉に、ガイアの心臓は跳ね上がった。
そして、そのままレンカの言葉が続いてゆく。
「貴公が剣士と言った時、貴公の体内の魔力に乱れがあった……。
何故、職業を偽っている?」
レンカが腰に差した得物──刀の柄に右手を添え、マクバールと共に僅かに殺気を出しながらガイアを警戒する。
だが、ここは公衆の面前であり、ガイアが真実を話すには憚られる場所であった。
「あの……、それについては、マスターか、アストリッドさんから聞いて頂けませんか……?
あまりおおっぴらに言えることでもありませんし、正気を疑われるような内容もありますので……」
「……心得た」
ガイアのその言葉が嘘で無いことをレンカが感じたからなのか、二人の殺気が一気に収縮する。
すると、マクバールは申し訳なさそうな顔で、このように申し開いた。
「脅してしまったようで、済まない。
俺達が若かった頃の検閲は、今と比べてかなり精度が低かったものでな……。
レンカ、ジーノの墓参りもあるんだ、そろそろ行こう」
「……御意。
では……少年、機会があれば、また会おう」
そう言って、二人はギルドへの道を歩いて行った。
そして、その背中を見送る最中、ガイアはふと、あることに気付いてしまう。
(……あれ?
これってもしかして、ランクSSSの大先輩が、二人も協力者になるかもしれないって事じゃ……!?)
──その後、ガイアは"大先輩の協力者の可能性"から生じた緊張によって腹痛を発症し、ロクに雪かきをすることもできぬまま帰宅する羽目になってしまったと言う。
─スキルデータ─
◎命待傀成
傀儡士で習得できるスキル。
手に触れた物体を素材とした、"与えられた命令通りに動く"タイプの傀儡を作り出す。
物体の性質や使用する素材の量、その身体の作りの精巧さによって魔力の消費量が比例変動する。




