4─III
─受注クエスト情報─
◎暴れ荒ぶる双頭熊
依頼主:赤髪丸眼鏡のランクS冒険者
ランク:F+
優先度:優先
場所:アインハルト王国領/マリノ山林・エリアA
達成条件:ベズアー1体の討伐
特記事項:ランクF冒険者の人数が参加メンバーの過半数以上の場合のみ受注可
○依頼文
『おいちゃんから依頼したいんは、若い冒険者のあんちゃん達への、ベズアー討伐の依頼や。
毎年この時期になると、冬眠に入る前の栄養補給の為にベズアーの行動が活発になって、商人の積み荷が狙われる事件の件数が増えるやろ?
これ、おいちゃんの知り合いの商人からの頼みやねんけど、おいちゃんは別件で外せへん用事が出来てしもてん。
ほら、仮に今の時期を逃したら春先までランクEに登れんくなるし、若いあんちゃん達がそうなるんも嫌やろ?
ほな、確かに頼んだで! よろしゅうな!』
……以上です。
今回は依頼主の方の文字が判読に難を要すると判断した為、口頭で仰って頂いた内容を原文ママで掲載させて頂きました。
ギルド職員一同、吉報をお待ちしております。
(代筆:受付嬢サリア)
▼メンバー
アスナ(F)
ガイア(F)
トーマス(E/★)
ミラ(E)
それから数日が経過し、13月29日。
この日、ガイアはアスナ、トーマス、ミラの三人と連れ立って、ベズアーの討伐へと赴いていた。
何故ベズアーを今一度討伐する必要があるのかと問われれば、それは他でもない、ガイアの為である。
理由は簡単で、ガイアが異世界に転生した翌朝に倒した時にギルドカードを所持していなかったから、というものであり──つまり、公的な記録としてはノーカウントにせざるを得なかったのだ。
そして、今は秋も深まり、木々が紅葉を迎える季節。
ベズアーが冬眠に入る前準備として、体内にカロリーを蓄える為に動きを活発化させる時期。そしてそれは同時に、もうすぐランクE昇格試験を受けるための前準備として討伐実績が必要な魔物の一体が、もう少しすると春先まで出現しなくなると言う事でもあった。
そして、ベズアーのおもな生息地である、アインハルト王国から西南西の小山の山林──ガイアが異世界に転移した際に降り立ったその場所で、一行は戦闘に勤しんでいた。
「てっ!」
トーマスは振り下ろされるベズアーの腕をかいくぐりつつ、すれ違い様にその左足を杖で打ち払う。
何度も剣と槍で斬りつけられた傷口が一気に開き、ベズアーはたまらず仰け反ってしまう。
「"甲斬"!!」
「"穿閃"!!」
更に、ガイアとアスナがその隙を待っていましたと言わんばかりに背中側から襲い掛かり、ベズアーの心臓へ迫らんと新しい傷を作る。
そして、その攻撃の合間を縫う形で、木々の間から斑点迷彩柄のフード付きマントを羽織ったミラが手持ちの杖を銃のように構え、生成される火球によって援護射撃が行われる。
火球の着弾を見届けると素早く別の木の裏へと移動し、再びそこから狙いを付けて火球を発射するその様は、さながらスナイパーのようである。
その光景は、最早一方的な勝ち戦の様相を成しつつあった。
やがて、ベズアーはその瞳から光を失い、その巨躯は重力の働くままに大地に倒れ込んだ。
「……ふぅ、お疲れさん。皆、怪我は無いか?」
トーマスはそう言って、一同に声を掛ける。
全員これと言った怪我も無いことを確認したトーマスは、「そりゃ良かったけど、何のための治癒士なんだか」と肩をすくめ、その場を笑いが包み込む。
そんな、何気ないいつもの討伐完了の一時。
心地良い疲労感を味わいつつ、ベズアーの解体を始めようとしていたその矢先に、異変は訪れた。
──ズン。
──ズン。
突如、軽い振動と共に、何か重い物が歩くような音が聞こえる。
そして、その直後。
「ヴオォォォォォォォォォオ!!!!」
それは、大地の底から唸るような、重く激しい咆哮。
それと同時に、重い音と振動はその間隔を短くさせながら、樹木をなぎ倒すような音と共に、次第に一行の元へと向かってきているような様相を醸し出していた。
そして、そんな突然の事態にのほほんと解体を続けるような四人ではない。
慌ててベズアーの解体準備を引き払い、一行は得物に手を添えて警戒態勢を取る。
その視線の先にある、森の奥の方──そこにある木々が根こそぎ薙ぎ倒され、何か巨大な物がこちらへと向かってきていた。
すると、トーマスがその手前にチラチラと蠢く二つの影を捉える。
「待て……、誰か来るぞ!」
その言葉に、三人はその影へと視線を移す。
そして、その影は一行が居る開けた場所へと飛び出し──
「……クソッ、人間かよ!?」
悪態をつきながら姿を現した二人の男はここまで必至に何かから逃げてきたようで、どちらも汗で衣服の一部が肌に張り付いていた。
片方の男は黒髪の長髪で、生え際が真ん中で分かれて両サイド共に顎に届くような髪型をしており、手には杖を持っている。
そして、魔物に悪態をついていたもう一人は、白いバンダナを頭に巻いてその右手に短剣を構えた、褐色肌のつり目の男であった。
(あれ……?)
その時、ガイアは白バンダナを巻いたその男に、既視感を覚えていた。
随分前にどこかで会ったような、果てそれはどこだっただろうか、と。
「お前達、誰だ!? 身分証明出来るものを見せて、名を名乗れ!」
トーマスはそう言って自分のギルドカードを提示しつつ、身分証明を催促する。
しかし、白いバンダナの男は──
「へっ、冒険者様に名乗るような者じゃねぇッスよ!!」
そう言って、相手に見えないようにしていた左手に持った投げナイフを、素早く投げ放つ。
しかし──
「キィ……ン」
その直後、その甲高い音と共に、トーマスの右足手前に現れた片手半剣の刀身が、投げナイフを弾いていた。
「ッ!?」
その光景に、白バンダナの男は息を呑む。
何故、自分が狙った箇所がピンポイントで防がれたのかと。
そして──、その剣の持ち主と、目が合った。
「……どうも。ホルト鉱山近くの森で不意打ちを受けた時以来ですね」
あの時受けた毒は致死毒では無かったが、その時受けた激痛を忘れるはずがなかった。
「アンタは……」
白バンダナの男もその言葉で気が付いたようで、互いに臨戦態勢を取る。
だが──
「ヴオォォォォォォォォォオ!!!!」
木々を薙ぎ倒し、揺れを伴う足音と共に、それは姿を現す。
「畜生、追い付かれたか……!!」
黒髪の野盗はそう言って、背後から迫ってきた魔物の方へと向き合う。
「何だ……、ありゃあ……!?」
その魔物の姿に、トーマスとそれ以外の一同も思わず目を見開いて唖然となってしまう。
その全長は、およそ八メートル。
樹木を易々とへし折るその両腕は、まるで大木のように太く。
ギョロリと見開いた二つの眼で六匹の餌をハッキリと捉えたからか、ハロウィンのお化けカボチャのような口の端から涎が垂れている。
そしてその全身は、まるで本物の木の皮ような皮膚で覆われており──それは、魔物図鑑に掲載されていない、正真正銘の"新種"であった。
原文ママ:原文をそのまま引用すること。




