3─X
「「…………」」
唖然。
二人はその光景に対し、ただただそうする事しか出来ずにいた。
そして、ようやく現実を飲み込んだガイアが口を開く。
「普通の、遊び相手だな……」
「普通に、遊び相手ね……」
アスナもガイアと同じ感想に至ったらしく、目を丸くさせたまま、半ばオウム返しのような返事をしてしまっていた。
そして──子供達がそんな状態の二人を見つけて声を上げるまでに、さほど時間はかからなかった。
「あっ! アスナ姉ちゃん……と、誰?」
「あーーーっ!? アスナ姉ちゃんがオトコ連れて来てるーーー!!」
「「……えっ?」」
二人目の男の子の声の内容を理解するのが全くの同時だったのか、ガイアとアスナは、揃って同時に素っ頓狂な声を上げてしまう。
当然ながら、その一声を耳にした中庭の人間達の視線は、一気に二人へと注がれる。
「おや……?」
そして、その中には当然、イーシスの物も含まれているわけである。
修道院で養育されている六人の子供達は、一斉に二人の周囲へと集まり、口々に質問攻めにし始める。
「ねぇねぇアスナ姉ちゃん、その人誰!? 彼氏!? 彼氏!!??」
「いつ出会ったの!? 手とか繋いでるの!?」
「それとも、もうチューの先まで行ったり!?」
「ねえ、お兄さんはアスナ姉ちゃんのどこに惹かれたの!?」
「お兄さん、まさか浮気とかしてないわよね?」
「段々心惹かれたの? それとも一目惚れ!?」
「だーーーーーーっ! あんた達、落ち着きなさい!!
お客様よ! お・きゃ・く・さ・ま!!」
そのアスナの恫喝を聞いた途端、子供たちは一斉に静まり返った。
アスナはふうとため息をつき、一人その場で傍観を続けていたイーシスにつかつかと歩み寄る。
そして、そのいけ好かない顔を睨みつけながらこう言った。
「イーシス先輩、あなた、子供達に何か吹き込みましたね?」
「さて、何の事かな?」
「とぼけないで下さい。さしずめ"恋愛の極意"とか称して、子供達に良からぬことを教えたんでしょう?
そうでもなければ、皆が口々にあんな事──」
「言うはずがない、と?」
言う訳ありません。そう言おうとしたところで遮ってきたイーシスの言葉に、アスナは黙ったまま頷く。
そして、数秒の無言の時間が流れ、イーシスがその沈黙を破った。
「……フッ」
「……何がおかしいんですか?」
鼻で笑ったイーシスに心の底から沸き起こる嫌悪感を押さえ込みながら、アスナはそう問い掛ける。
すると、イーシスはアスナにこう返した。
「いや、失礼。さしずめ、僕が子供達に、女の子の口説き方や男の子との付き合い方を教えているとでも思ったんだろう?」
「普段の先輩の素行を鑑みれば、十分有り得る事だと思いますが」
イーシスの軽口に、アスナは流されない。
必ず、この男は何かやらかしている。
アスナは、そう信じて疑わなかった。
しかし──刹那、イーシスの纏う雰囲気が一変する。
「……子供は世界の宝物さ。今まで何度か遊び相手になった事はあるけれど、無垢な子達を唆すような真似は一度もしていない。
何なら、子供達に確認してみるといい」
そこに立っていたのは、いつもの女泣かせのスケコマシではない、別の誰かと錯覚してしまうほど。
アスナは、いつもと異なるイーシスの鋭い眼光に、思わず息を呑む。
一秒が、果てしなく長いように感じる。
そして──
「……ふぅ」
そんな一言とともに、いつものイーシスがそこに現れる。
そして、イーシスはつばの尖った愛用の羽帽子を被り、中庭の出入り口の方に身体を向けながらこう言った。
「では、僕はこれで失礼するよ。ここに僕が居たんじゃ、君が落ち着けないだろうしね。
……後、彼氏君の顔色がどうも悪いみたいだ。傍に居てあげたらどうだい?」
「え……?」
"彼氏君"と言われて、一瞬誰の事を指しているのか分からなかったのだろう。
アスナは一瞬、困惑したような声を出してしまう。
そして──それがガイアの事であると気付いたアスナは、先程まで自分が立っていた場所に視線を移す。
「兄ちゃん、大丈夫?」
「あんまり……、大丈夫じゃない……」
そこには、すっかり弱り切ったガイアが、壁にもたれかかって座り込んでいた。
「それでは、失礼」
イーシスはそう言って、中庭の出入り口の扉へと歩みを進め、ドアノブに手を掛ける。
しかし、彼に近寄る男児が一名、そこに居た。
「あのさ、イーシス兄ちゃん」
「うん? どうしたんだい、アルス」
「二コラ姉ちゃん……、また来るよね?」
「……ああ、また連れて来られる日にね」
イーシスは静かにそう言うと、扉の中へと姿を消した。
そして一方、アスナはと言うと──
「大丈夫!? どうしたの!?」
「アスナ……、イーシス先輩は……?」
「その話は後! 今はあんたの体調が先!
で、どうしたの!?」
「気持ち悪い……。吐きそう……」
「そう……。何か心当たりある?」
アスナのその問いに、ガイアは弱々しく頷いた。
「とりあえず、お手洗いまで連れてくから、そこまで気張って!」
アスナはそう言うと、ガイアに肩を貸す形で歩き始めた。
「わぁー、アスナ姉ちゃん男前ー」
「やっぱり彼氏なんじゃないのー?」
「ち・が・う・わ・よ! ただの仕事仲間!
ほらベルタ、早く扉開けて!」
子供達の野次をあしらいつつ、アスナは的確に指示を飛ばす。
そして、そんな子供たちは顔をにやつかせながらも、アスナの指示には素直に従っていたのだった。




