表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法剣士ガイア  作者: ふぉるて
第1章「真言」
21/156

1─XII

 時はほんの僅かに(さかのぼ)り、ガイアがまだ剣を抜いて警戒態勢に移ったばかりの頃。

 アスナは、凸凹した表面のアズライト鉱石の結晶から必要な容積を算出するため、サンプルの切り出しを行っていた。


 しかし、ひた、ひた、と近付いてくる音を聞き取ったアスナはすぐに鉛筆とメモを腰のポーチにしまうと、槍を構えて周囲を警戒する。

 そして、アズライト鉱石の水色の光に照らされ、このアズライト鉱石の存在する広場に続く横穴から、その音の主が姿を現す。

 しかし──


(え……? 嘘……!?)


その姿を捉えたアスナは、驚かずにはいられなかった。

 それは、全長二メートル半はあろうかという、巨大なトカゲ。

 全身が銀色の皮膚で覆われ、その身体はアズライト鉱石の蒼い光を反射させている。

 その魔物、名前をメタルリザードと言い、鉱夫達からは「鉱山殺し」と呼ばれて忌み嫌われている"第一種討伐禁止指定種"である。


 尚、討伐禁止指定種とは、様々な事情や生態の在り方等の理由から、基本的に討伐が許可されていない極一部の魔物達である。

 それには"第一種"と"第二種"があり、このメタルリザードは前者──即ち、如何なる場合においても討伐が禁止されているのだ。


 第一種に対して認められているのは、"生態系に全く支障が出ない程度の撃退行為"のみ。

 アスナは守りの構えを取り、メタルリザードと一定の距離を保つ。

 しかし、メタルリザードは素知らぬ顔でアズライト鉱石に近付き──その大顎を開けて、かぶりついた。


 その光景に、アスナは張り詰めていた緊張が解けてしまい、呆然となる。

 そして──


(え!? ちょ……っ、まさか食べてるの!?)


メタルリザードの口とアズライト鉱石の接触面が、ゆっくりと融解音を立てて溶かされる。

 ぬちゃ、ぬちゃ、とメタルリザードの舌が溶かされたアズライト鉱石を舐め取り、飲み込んで行く。


 そして、アスナはその時、その理由を悟る。

 アズライト鉱石の表面は、歪な凸凹で形成されている。

 しかし、それは眼前のメタルリザードが届くような場所ばかりであり、上の方はまだ何ともなっていない。

 つまり、アズライト鉱石とは、メタルリザードの食料なのだ。


(待つしか無いわね……)


 恐らく、満足が行くだけの食事が終われば、ここから立ち去るだろう。

 そう考え、アスナが槍を納刀しようとしたその時、アスナはメタルリザードと目が合ってしまった。

 今まで空腹と食事で気付かなかったのだろうか、メタルリザードは食事を止めて、アスナにゆっくりと近付き始める。

 そして、メタルリザードの視界が自分から少しだけ逸れたのが気になったアスナは、その方向へと視線を移す。

 そこには、アズライト鉱石のサンプルを切り出そうとして、そのまま刺しっぱなしで放置してしまっていたのこぎりがあった。


 そして、アスナは全てを察知する。

 メタルリザードから、自分に向けられている敵意を。

 自分がメタルリザードにとってどういう存在なのかを。


「アスナ、そいつは!?」


 上の方で張っているガイアがその光景に気付き、距離がある為に大声を出す。

 それと同時にメタルリザードが跳躍し、アスナの頭目掛けて突撃する。


「メタルリザード! 禁止指定種よ!」


 咄嗟にしゃがんで前方へと回避しつつ、アスナは振り向きざまに答える。

 「後で説明するから!」と言った後、アスナは助太刀無用と念を押す。


 アズライト鉱石の蒼い光をその身体に反射させるリザードは、その光を眩しい物ともせずに再びアスナ目掛けて飛び掛かる。

 アスナは再びそれを回避すると、今度は槍を抜いて尻尾目掛けて突きを繰り出す。

 リザード系の魔物の尻尾は、いくら斬ってもまた生えてくる。

 そう考え、そこを狙ったアスナだったが──鈍い音と共に槍を握る手に衝撃が返り、そのせいで腕が痺れてしまう。


 そのあまりの堅さにアスナは大きく仰け反るが、慌ててに体勢を立て直す。

 しかし、弾かれた槍はその衝撃の強さも相まってか、穂の部分が刃毀(はこぼ)れを起こしてしまっていた。

 一方で、肝心のリザードの尻尾の付け根には、掠り傷一つ付いていない。

 物理攻撃が通用しないと察したアスナは、一気に距離を開けて意識を集中させる。


『炎の精霊よ! 人間と交わした盟約に従い、其の力を我に貸し与えたまえ!』


 その口から炎属性の魔法言語を紡ぎ、身体の周囲に文字列──その魔法を構築している魔術式が出現。

 そして、その術式はアスナの身体の目の前に集約し、「火球プロミー」を形成する。


『"火球(プロミー)"!!』


 アスナが術名を詠唱するのと同時に、「ポーヒー!」と甲高い音を立てて火球が発射される。

 アスナの魔力を魔術式に乗せて"詠唱"した事により、火球はアスナの意識の対象へと向けて、ただ一直線に軌道を描く。

 そして、アスナに向かってのそのそと走っていたリザードの左前脚に直撃し、小規模な爆炎が発生する。

 しかし、魔法もリザードにダメージを与えるには至らず、それどころか蚊に刺された程も気にしていない有様である。


 アスナはリザードの飛び掛かりを再び回避しつつ、尚も考えを働かせる。

 初級の攻撃魔法とはいえ、物理も魔法も全く損傷が見込めない事が分かった今、自分はどうすれば良いのか──。


 そこまで考えて、一つ、ピンと来る物があった。

 アスナはリザードにとって風上になっている方へ走ると、腰の道具袋ポーチに手を入れ、葉が入った瓶を取り出す。

 そして、そこから素早く一枚だけ取り出すと、アスナはそれを指で擦り始める。

 すると──


「……ッ!? グワーッ!?」


その葉が香りを醸し出し始めるのと同時に、リザードが苦悶の鳴き声をあげる。

 アスナ自身はまだほのかに匂っている程度だが、暗闇に生きる為に視覚が退化し、嗅覚が発達したリザードにとってはこの上なく嫌な香りだろう。

 アスナは、リザードが元来た道の方へとじりじりと誘導しながら、その手に持った魔除けの香草を擦り続けるのだった。

─用語データ─


◎討伐禁止指定種

特定の理由によって、討伐が禁止されている魔物。

第一種と第二種があり、第一種は「如何なる場合においても討伐禁止。但し、"その魔物の生態系に全く影響が出ない範囲での撃退"は許可する」。

第二種は「国からの特別な許可を受けた依頼でのみ交戦可能。その依頼で指定された個体のみ討伐許可が下りる」というものである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ