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お中臈
第一章
今朝はどうも騒がしい。
原因は 新しく入った 靜山という中臈のようである。
中臈は大奥で将軍の世話係。
身分も高くお手つきになりやすい立場である。
「越後黒川藩の家老の娘、ということですが……」
月島は、少し思いやられるような声で 上臈年寄の万里小路にたずねた。
大奥年寄として実権を掌握している月島はまだ三十二を越えたばかりであった。
美しい顔と若々しい風貌から、実際の年よりはずいぶんと若く見えた。
「黒川藩は財政が厳しい。
家老の娘といえど安穏にはしておられんそうや。
あちらとしては婚礼にお金をかけて無駄にどこぞに嫁がせるより、大奥にいれて出世をしてもらうか、側室にでもなってもらう可能性があるほうがよい、ということらしい」
公家出身の万里小路は京都口調でやんわりと話した。
「しかし、旗本の娘と違って藩家老の娘……大奥でつとまりましょうか?」
「頭は悪くなさそうやが……問題は、もっと別にある」
万里小路は口をつぐんだ。
ただならぬ雰囲気を感じて 月島も黙った。