プリンと義兄
夏のホラー2024で投稿した「顔のない怨念」
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に登場する、義兄弟とその周辺の人々の話です。
小鳥遊陽充(はるちゃん、僕)
生真面目で面倒見が良く、お人好し。また好奇心旺盛で様々なことに首を突っ込んで痛い目にあっては義兄さかえに助けられている。
新卒で入った企業で人付き合いに悩み、うつ病になって退職した経緯を持ち、悩みを抱えやすい。お話における「ワトソン役」
烏丸さかえ(さかえ義兄さん)
極めて自堕落な自称作家。陽充の姉で故人の烏丸れおなの夫で、現在は義弟陽充と共に生活している。義弟陽充の前では彼をはるちゃんと呼び、ヘラヘラしている胡散臭いおっさん。お話における「ホームズ役」
僕はお茶を淹れ、買ってきたプリンを添えてダイニングへ運んだ。
「義兄さん、お茶入りましたよ」
「おー、ありがとね、はるちゃん」
言いながら紅茶に砂糖とミルクをダバダバ入れるさかえ義兄さんに、僕はため息を押し殺す。これでちゃんと香りを殺さないんだから、どんなマジックだと思う。
「で、今日は何買ってきたの?」
「えっ」
「フリマ。何か気になるものがあって買ってきたんでしょう」
プリンにスプーンを刺しながらの質問に、僕は目を瞬かせた。フリマに行ったとは言ったが、何か買ったとは言ってない。僕はああいう場所であまり物を買わないたちで、ただ冷やかすだけの時も多い。
不思議に思いながらも、僕は一度席を立ち、カバンから小さな箱を取り出した。それを抱えてダイニングまで戻る。
「買った物といえばこれくらい、ですけど」
「んー?」
差し出したのは、ミニチュアの箱庭のような物だ。
灰色の砂浜と暗い青の海、漁師小屋と網のかかった柵が配置されている。いわゆるハンドメイド作品というやつで、海やミニチュアの建物の完成度が高く、自室のインテリアにと思って購入した。
さかえ義兄さんはそれを覗き込んでから顔を上げる。興味があるんだかないんだかわからない顔をして問いかけてきた。
「これ、作者さんには会った?」
「いえ、売り子さんがそうだった、とかでなければ」
そもそも、売り子もさほど愛想があるわけでなかったし、作者に会わせてくれと頼むのも何か違う気がする。
「でも、どうしてそんなことを?」
「え、ほらあるじゃない、『な、なんて素晴らしいジオラマだ! 作者に何としても称賛を届けなければッ』的なアレ」
「……したほうが良かった……んですかね」
あまりにも自信満々のさかえ義兄さんに、うっかり心配になった僕は思わずそう聞き返してしまう。すると義兄さんは目をみはり、にっこり笑って僕の頭を撫でてきた。
「ちょっ……なんですか!」
「いや、はるちゃんはいい子だなぁって」
いい子って。僕はもう26歳だ。子ども扱いも大概にして欲しい。
僕はその手を振り払ってため息をついた。
「揶揄わないでください」
「別に揶揄ってないよ。俺は可愛い弟のそういう優しいところが好きだってだけさ」
ストレートにこういうことを言われると心の底から恥ずかしい。
僕は照れ臭さを隠すために飲みかけだった紅茶を飲み干し、プリンの残りをかきこんでから慌てて立ち上がった。
「へ、部屋に戻ります。カップはシンクへ置いておいてください、後で一緒に洗うので」
「いいよそのくらい、俺洗っておくから」
ひらひらと手を振り回すさかえ義兄さんに、ではお願いしますと返し、僕はテーブルに置いたままのジオラマを持って2階へ走った。




