不思議な兄妹
夏のホラー2024で投稿した「顔のない怨念」
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に登場する、義兄弟とその周辺の人々の話です。
小鳥遊陽充(はるちゃん、僕)
生真面目で面倒見が良く、お人好し。また好奇心旺盛で様々なことに首を突っ込んで痛い目にあっては義兄さかえに助けられている。
新卒で入った企業で人付き合いに悩み、うつ病になって退職した経緯を持ち、悩みを抱えやすい。お話における「ワトソン役」
烏丸さかえ(さかえ義兄さん)
極めて自堕落な自称作家。陽充の姉で故人の烏丸れおなの夫で、現在は義弟陽充と共に生活している。義弟陽充の前では彼をはるちゃんと呼び、ヘラヘラしている胡散臭いおっさん。お話における「ホームズ役」
僕はとっさに立ち上がった。こんな時に誰だろう。今日は来客の予定などはなかったはずだけど。
「ああ、来たみたいだね」
しかし、義兄は慣れた様子でインターホンに向かい応対を始めた。
「はーい」
「はーい、じゃないわよさっちゃん、このクッソ忙しい時に来てやったんだからさっさと開けなさいな! もう暑いったらないわ!」
明らか男性の声なのに、明らかに女性っぽいしゃべり方がリビング中に響き渡った。そして。
「……あれ」
不思議なことに、その声が聞こえたその瞬間、いまだに鼻の奥にしつこく残っているような気がしていた磯の臭いが、霧散するように溶け消えたのがわかった。
「紹介するね。この人俺の遠縁の親戚で神主さんやってる、紗倉鷹山さん。よっこさんて呼んであげて。で隣にいるかわいい子がその妹の巫湖たんね。あ、よっこさんとこの神社で巫女さんやってるんだけど、名前もみこたんなんだよ、かわいいでしょ?」
「……は、初めまして、小鳥遊陽充と申します」
「あらあ! やだうそ、さっちゃんにまったく似てないイケメンじゃなーい!」
玄関先で紹介された、鷹山さんというさかえ義兄さんより濃ゆい人。僕は、とりあえず目をしばたたいてから頭を下げることにした。トークが頭上で爆裂し、腕をばしっとたたかれ、僕は思わず膝を折りそうになって踏みとどまる。顔を上げ、かろうじて隣を見れば、黒髪ストレートの清純そうな女性がうつむいて両手を握り合わせていた。この人が巫湖さんだろう。
誰とも目を合わせようとしない女性の居心地悪そうな表情に、僕もそりゃ、そうだよな、と納得する。僕だってこの濃い男二人が集まった状況から一刻も早く逃げ出したい。
鷹山さんは、さかえ義兄さんより背が高く姿勢がよくて、和装がよく似合う人だった。黒髪を長く伸ばしてこよりでまとめている姿は、まるで江戸時代の武士がそのまま飛び出してきたかのよう――なのだが、口を開くと女性なのだ。不思議なことに。
そして隣にいる巫湖さんは、ぽてぽて、という音が似合いそうなたたずまいで歩いてきて、僕と義兄に頭を下げてくる。
「え、ええと、は、初めまして小鳥遊さん、それと、お久しぶりです、烏丸の小父様」
義兄は突然顔を覆って、膝をついて泣き崩れるポーズを見せた。ぎょっとする巫湖さんの目の前でよよよと肩を震わせる。
「お、おじさまって……おれよっこさんより年下なのにぃ……おじさん扱いはひどいよぉみこたん……しくしく」
こういうことを言い出す時点で、さかえ義兄さんの精神はだいぶおっさんだと思うが、巫湖さんは驚いたように目を見張り、おどおどと両手を振って謝ってきた。
「ええっ、ご、ごめんなさい、ごめんなさいぃ!」
「うぅ、みこたんが俺の頭よしよしってしてくれたら機嫌治すぅ……」
「バカなこと言ってんじゃないのッ!」
あわあわと途方に暮れる妹を守るように、鷹山さんがさかえ義兄さんの頭をぺしんとはたく。ふてくされたように頭をさすりながら、義兄は立ち上がった。
「さーて、じゃあ今回よっこさんを呼んだ理由についてお話ししよっかなぁ」




