45.エピローグ
後日、巻き戻されてなかったことになってしまったお茶会をやり直すべく、私はエルミアさんを自宅に招いた。そして、ここ最近あったこと、この世界のこと、ジリアンさんのこと、全てを話した。
「その、もう1人呼ばれたって子は結局どうなったの?」
「騎士団が保護して、今はジリアンさんの研究室で眠っているみたいです」
「ふうん。……元の世界のわたしたちって、どうなってるのかなあ?」
「おそらく、どうにもなっていないだろうって話です」
それは私も気になっていたので、あのあと様子を見に来たジリアンさんに聞いてみた。すると、彼はあくまで「複製」をしただけだから、オリジナルはそのままのはずだということだった。ちなみにクルトさんの家で一緒に寝ているところに突然現れたせいで、クルトさんが終始ものすごく無表情だったのは余談だ。
「そっかー。それなら、まあいっか?」
「私も、同じように思いました」
凪紗の家族や友人にもう会えないのは寂しい。けれど、今の私には私なりの大事なものがある。エルミアさんも、どうやらこの世界でやりたいことを見つけたようだ。思うところはあるかもしれないけれど、何も損なわれておらず、この世界で「生きる」意味があるなら、それでいい。
「エルミアさんもジリアンさんと話してみますか?」
「うーん……べつにいいかなぁ。わたし、どちらかというと、この前の騎士さんとお話してみたい」
「え?」
誰のことだろう。
「ナギちゃんが目を覚まさなくなった時、医務室に居た人。名前はたしか……アントンさん」
「えっ、アントンさんですか。それはまた、何故に」
「……なんとなく」
エルミアさんはぎこちなく目を逸らした。これはもしかして、もしかするのだろうか。
「会いたいって言ってるって伝えてみましょうか」
「う、うん。無理なら無理で全然かまわないから!」
私は思わずにっこりしてしまった。
「アントンさん、偽物や嘘を見抜くことができるんですよ。そういう特殊能力を持っているみたいです」
「へえええ、やっぱり思った通り、面白そうな人だ」
「思った通り、ですか」
「う、うん」
図らずして前回クルトさんとのことでニヨニヨされた仕返しみたいになってしまったけれど、うまくいくといいなと思う。
エルミアさんが帰ると、クルトさんの家に向かった。あまりにもクルトさんの家に入り浸るようになったせいで、もう宿舎を引き払えばどうかと言われたけれど、それはそれ、これはこれだ。
現在私は、暇さえあれば料理を練習しているところなのだ。電子レンジのような便利調理家電は存在しないけれど、クルトさんの家には魔法的ガスコンロみたいなものがあって、凪紗時代に磨かれた自分しか食べない時用ありあわせ料理くらいなら作れるようになった。調味料のどれが何なのかもわからなかった頃に比べれば大いなる進歩と言えるだろう。クルトさんは私が作るものに毎回目を瞬くけれど、食べてみればなかなかイケることに衝撃を受けているようだ。最近では少し楽しみにしている節もあって、作り甲斐がある。
“ジョイオブウオーター”や“ウォームウィンド”といった生活魔法を使うことにも大分慣れた。この調子なら、この世界オリジナルの魔法も一通り習得できるかもしれない。フレデリックさんが私に使ってくれた回復魔法を使えるようになるのが当面の目標だ。彼は「私に敵うところがなくなる」と渋っているけれど、使い方を教えて貰えるよう頼みこんでいるところだ。
料理をしていると、玄関の扉があいた。今日はいつもより帰ってくるのが早かったようだ。出迎えに行くと、最近よく見せてくれるようになった穏やかな微笑みを浮かべた。
「ただいま」
「おかえりなさい」




