牧場の朝と海へ行こう!
さて、みんなと海水浴の約束をした朝、俺は陽も昇らぬ内からサカグチさんの牧場へ足を向けていた。
明日海に行こう、なんて言われても、こちらにも予定がある。
俺の合流は、サカグチさんの所での下働きが終わる午後からだ。
ちなみに、朝から海へ繰り出すのは、ルル、シェスカ、アイリの3人。
俺とユウキちゃんは午後から、引きこもりのレンとランはお留守番である。
サカグチ牧場は、ザムラに面した山の中腹くらいにある盆地状の場所にある。
中腹とはいえ、さして高い山でもなく、高原と言った方がよいくらいで、我がホームも山の下腹辺りにあるので、歩けば15分くらいで到着する。
牧場に到着した俺はサカグチ親子がいるはずの母屋には寄らず、真っ直ぐにモンブー舎へ向かう。
扉を大きく開け放ち、扉近くに備え付けられたベルを鳴らすと、中にいるモンブー達がわらわらと外へ出ていく。
ちなみに、このモンブー舎にはもーちゃんはいない。
専用のモンブー舎を与えられるエリートさんらしい。
モンブー舎の中は緩やかな斜面になっており、半分は水が溜められ、反対側には干し藁が地面から浮かせて釣られている。
朝一の仕事は、水を抜き、掃除をして、藁を足し、また水を溜める事だ。
実は1番厄介なのが水を溜める仕事で、すぐ近くにある井戸とモンブー舎を100往復はしなければならない。
終わった時には腕がパンパンになる仕事だ。
「ジルさん、おはようございます………!」
「あぁ、ユウキちゃんおはよう」
掃除が終わった頃にユウキちゃんが顔を出した。
ユウキちゃんは今からホームへ行き、朝食を用意した後、再び牧場で作業だ。
その前に挨拶に寄ってくれたらしい。
「今日はお昼、食べて行きますか?」
「うーん、ルル達が待ってるだろうし、海に行く途中の屋台で済ませようか」
「はい、わかりました。では、また後で」
「うん、いってらっしゃい」
控えめにニコリと笑った後で、とことこと歩いていく後ろ姿を眺めながら、大きく背伸びする。
次は藁の補充だ。
「はぁ………はぁ………やっと終わった………」
モンブー舎の水が再び満たされた時、辺りはすっかり明るくなっていた。
痛む腕をぷらんと垂らしながら、やっと母屋に向かう。
「あ、ジルさん。お疲れ様です」
「よう。朝から悪いな」
「おはようございます」
出迎えてくれたのは、サカグチさん親子だ。
2人はチーズ入りオートミールで朝食をとっていた。
これから俺もご相伴に預かるのだが、材料は100%サカグチ牧場で、ユウキちゃんの力作だ。
めちゃくちゃうまい。
お祈りをして、匙を動かす。
「次はどこへ?」
サカグチ牧場のお手伝いの時は、必ず朝一にモンブー舎の仕事をやって、その後の作業はサカグチさん指導の元で毎回違う作業だ。
だが、今日は様子が違った。
「ああ、今日はもういい」
「は?」
サカグチさんは腰に下げた小袋からチャリンと銀貨を2枚テーブルに乗せた。
「何でまた? しかも、多いです。いつもの倍じゃないですか!」
「今日は特別だ。水クセえぞ」
「え………」
「ファミリアの交流にリーダー不在じゃカッコつかねえだろ。飯食ったら2人共合流しろ」
「お父さん………!」
サカグチさんは少し気恥ずかしいのか、室内にも関わらず被っている帽子の隙間に指を突っ込み、ポリポリと頭を掻いた。
無口だが、気持ちのいい人だ。
ここはお言葉に甘えるべきだろう。
「ありがとうございます。助言も、助かります」
「フン………それよりだ。ファミリアで何やんのか、詳しい事は決まったのか?」
「まだ詳細を詰める必要はありますが………」
「構わねぇから、言ってみろ。手伝える事はあんのか?」
サカグチさんから切り出してくれるとはありがたい。
是非とも協力をお願いしたいところだったのだ。
「カフェをやろうと思ってました。ユウキちゃんの料理を出すつもりだったので、材料をお願いしたいと思ってました」
「娘の料理に材料提供すんのにお願いもクソもあるかよ。………しかし、あんな街の中心から外れたところでカフェだぁ?」
「客を待つのではなく、呼び込むカフェにする予定です」
「呼び込む………?」
「その時は招待しますので、来てくださいね」
「………フン、わかったよ。開店は?」
「雨季明けを予定してます」
「わかった。頑張れよ」
サカグチさんは空の皿をユウキちゃんに渡し、仕事へ出ていった。
農園の方は完全委託とはいえ、ほぼ1人で牧場を運営しているのだ。
朝の忙しい時間に、しっかり話を聞いてくれるのは、娘の参加するファミリアだからというだけではないだろう。
俺も残り少ないオートミールを掻き込むと、洗い物をするユウキちゃんを手伝った。
「いい人だよね………」
「はい、自慢の父です」
ユウキちゃんの笑顔は朝陽に輝くようだった。
「あー! ジル達きた!」
「おお、早かったッスね!」
「サカグチさんが気を効かせてくれてな」
小一時間程かけて海まで歩くと、ルルとシェスカが出迎えてくれた。
2人共ミックスで、しっぽが邪魔だからという理由はあるが、目に眩しいビキニ姿だ。
「早く2人共着替えて着替えて!」
「あっちにテント用意してるッスから!」
それだけ言うと、2人共波打ち際へ駆けていった。
気になる事を聞けなかった。
シェスカがいない。
テントは1つだけなので、先にユウキちゃんに着替えるよう言った。
「よろしいのですか?」
「もしかしたらシェスカがいるかもだしね」
「あぁ、そう言えば………では、お先に」
そういってユウキちゃんはテントの中に消えた。
海ではルルが奇声を上げて水面へダイブしている。
その光景を見て、今日初めて太陽の暑さを実感した気がした。
今は、夏なのだ。
大変申し訳ないお知らせがあります。
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それでは、
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