山奥の変死体
広場は、噂を聞きつけた町の人々で溢れかえり、広場の真ん中を囲むように群がる。
活動写真が東京に上陸して以来、このように田舎へ出張する立絵紙芝居も多くなった。
その中でも、今回は一昔前の東京を席巻した立絵紙芝居だ。
だから、僕が来た頃にはもう人混みしか見えないようになっていたのである。
「健之助も来てたのか!」
不意にそんな声が後ろから聞こえ、振り向くとそこには隆之の姿があった。
「うん。だけどもう人で見られないんだよね。」
「そっか、あっ!そうだ!あそこの山に登って見ようぜ。」
確かに、近くに山があるとはいえ、この距離じゃ声は聞こえず、何をやってるかも見えはしない。
だがこの時は、この提案が名案に聞こえた。
意外にも同じような考えの人は多く、特に背の低い子供達は、この山へと登っていた。
「あそこだ!見えた!」
ここからは、立絵紙芝居の台と人らしき四つの点が、観客と距離を置いた所に見えた。
芝居が開始してまもなく、大きな通る声が、薄らと聞こえる。
母の病気を治すため、怪異が住まう山へ薬草を取りに行く話。
何をやっているか見えないが、声でなんとなくの内容が入って来る。
それだけでも、僕らが感動するには充分だった。
立ち絵紙芝居が終わり、尿意が襲いかかる。
家へと帰る最中、山の奥で尿を足す。すると、近くからとてつもない”異臭”がする事に気がついた。
狸が潰された虫のように全身の肉を飛び散らしていたのだ。
だが、この山に住んでいるのは、狸や狐のような小動物だけ。
何故、狸がこのような姿で死んでいたのか、当時は知る由もなかった。




