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服従のアクシオム

【本章のハイライト】

ついに皇帝の最初の本格的な戦闘が幕を開ける。この未知なる存在に対して、絶対的な混乱の中で皇帝はいかに対処するのか? 彼は己の傲慢さの裏に隠された真の力を顕現させるのか、それとも単なる通常の戦闘に留めるのか。緑の光の存在は皇帝に傷を負わせることができるのか、それとも皇帝は再び自らが自然法則そのものを超越する存在であることを証明するのか――。


存在の織り目そのものを引き裂くような、凄絶な激突の音が轟いた。

接触点から放たれた強烈なエーテルの衝撃波により、愛妃たちですら後退を余儀なくされる。彼女たちは音のない爆発から鼓膜を守るため、咄嗟に両耳を塞いだ。皇帝は未知の存在が放つ宇宙的な重圧によって遥か後方へと吹き飛ばされたが、倒れることはなかった。圧倒的な威厳を保ったまま着地し、その軍靴が大理石の床を深く抉り、長大な塹壕を刻み込む。

皇帝は崩壊しゆく広間の宙へと右手を掲げ、周囲のアカシャの軌道を絶対的に支配する、重々しい声で宣告した。

「『境界のアクシオム』」

瞬きする間に、不可視のエーテルの糸が顕現した。それは打ち破ることのできない主権の密度を帯びた、宇宙の枷。その糸は皇帝と緑の光の存在を強固に結びつけ、彼らの存在と戦闘領域を広間の他の空間から完全に隔離・封絶した。

皇帝は鋭い視線をオリアへと向けた。

彼女は床にへたり込んだまま完全に心が砕け散り、白銀の髪は青い血に染まり、その瞳には極度の疲労と恐怖の涙が浮かんでいる。オリアは崩壊した精神の片隅で、無意識のうちに反芻していた。

(アカシャ……? アカシャとは、何のことなの……?)

「ここから失せろ」

皇帝は、破滅の嵐の前触れのような極低温の声で命じた。

オリアは極度のショック状態から、どうにか身を起こした。重い鋼鉄の鎖と衰弱しきった肉体に足を取られながら、ひどくゆっくりとした歩みを進める。彼女はこの未知の地獄の震源地から、ただ這うようにして遠ざかることしかできなかった。

連続する異常事態によって彼女の精神は完全に圧し潰され、驚愕や思考の余力すら残されていない。その意識に残されているのは、あの暴君の絶対的な命令に対する、機械的な生存本能の反応だけだった。

皇帝は視線を第六夫人カミールへと移すと、虚空で掌を開きながら、一刻の猶予も許さぬ厳しい声で命じた。

「カミール……お前がやれ。急げ!」

カミールは廃墟と化した広間の中を、いつもの踊るようなステップで揺らめきながら進み出た。その唇には狂気じみた芸術家の笑みが浮かんでいる。彼女は芝居がかった、甘えるような口調で囁いた。

「ああ……陛下……愛しい旦那様。貴方様、この絵を描くことは固く禁じておられたではありませんか?」

「やれと言っているのだ!!」

皇帝の怒号が、広間の空気を凍りつかせた。

カミールは論理の法則を引き裂くオーケストラの指揮者のように両手を高く掲げ、夢見るような声で詠唱した。

「パラドックス――『白装の画廊』」

カミールの放つ超現実的な「パラドックス」のエネルギーが、皇帝の「境界のアクシオム」と完璧に融合した。

通常のように次元が広間全体を飲み込むことはなかった。パラドックスの力は不可視の糸のみに絡みつき、皇帝と緑の存在の二人だけを、戦慄の空間歪曲へと引きずり込んだのだ。

彼らは完全なる白の虚無へと転移した。純白の宇宙の死装束とも呼べる、絶対的な白。この隔離された領域には物理法則というものがアカシャに一切書き込まれておらず、細胞の結合を維持するものは何もない。肉体は水彩画のようにゆっくりとおぞましく融解し始め、物質の定数も安定も一切存在しない、狂気の芸術作品へと変貌していくのである。

皇帝と敵が純白の次元の奥深くへと姿を消した瞬間、広間には絶対的な恐怖に満ちた重い沈黙が降り注いだ。

だが、妻たちは決して偶然に頼るような隙は見せない。

第一夫人ヴェロニカと第三夫人ロキシーが、揺るぎない足取りで前に進み出ると、絶対的な権威をもって両手を掲げた。

二人は皇帝に代わり、自分たちの力を合わせて「境界のアクシオム」を強固に展開した。カミールの力と連動し、完璧な幾何学的牢獄であるエーテルの障壁を構築したのである。これは皇帝や光の存在が外側へ影響を及ぼすことを完全に防ぎ、同時に『白装の画廊』の空間的安定性を維持するための絶対的な檻であった。


その間にも、あらかじめプログラムされていた帝国の自動指令により、王宮の他のすべての出入口がチタンのゲートと戦闘用ロボットによって完全に封鎖された。

オリオンの特権階級、そして王と王妃は、黄金の檻に閉じ込められたモルモットと化したのである。アイヴィーがレーザー網を停止させる数瞬前には、祝宴の生中継もすでに強制的に遮断されており、外で死にゆくオリオンの世界は、この壁の向こうで起きている真の破滅的災害について、完全に盲目となっていた。

「ハッ! オリオンの羽虫どもが『アカシャ』の存在すら全く知らないって聞いた時は、冗談かと思ったぜ」

境界のアクシオムの壁を支えながら、ロキシーが野蛮な声で言い放つ。

アイヴィーは指先で精密な眼鏡を押し上げ、冷徹で臨床的な声で答えた。

「データは正確です。この未発達な銀河において、アカシャに関する知識の記録を保持している者は誰一人として存在しません。オリオン星もまた、その顕著な技術的進歩にもかかわらず、この無知の法則の例外ではありませんでした」

ロキシーはいつもの豪快な笑い声を上げ、好戦的な笑みを浮かべて牙を剥き出しにした。

「アタシは本気でムカついてるんだよ! 旦那様ったら、暴力的なお楽しみを全部一人で独り占めしちまって……クソッ、アタシがあの緑色のバケモノの頭蓋骨を叩き割ってやりたかったのに!」

第四夫人レイラは柔らかい手で口元を覆い、瞳に悪意の光を煌めかせながら、わざとらしく優雅に微笑んだ。

「落ち着いて、ロキシー。愛しい旦那様は、ご自分の血管に血が滾るような『本当の戦闘』を、もうずっと長いこと味わっていらっしゃらなかったのよ。きっと今頃、至福の喜びに浸っておいでに違いないわ」

完全に白一色の超現実的な虚無――『白装の画廊』の内部において、緑の光の存在は人間の動体視力では到底追いきれぬほどの恐るべき速度で動き回っていた。

それは敵の姿を求めて前後左右に乱高下し、瞬く間に自身の質量と形状を変化させていく。ある時は鮮やかな小鳥のように収縮し、ある時は純粋なエネルギーで構成された猛虎へと膨張し、次には物質の法則を完全に無視した光の羽虫のごとく虚無へと溶け込む。

突如として、その絶対的な虚無を切り裂くように皇帝の声が響き渡った。誰も近寄ることすら許さぬほどの、絶対的な傲慢と矜持に満ちた声。

「余を探しているのだろう……違うか?」

緑の光の存在は、いかなる既知の生物とも似つかぬ歪んだ絶叫を上げた。それは宇宙のガラスが粉々に砕け散るかのように、『白装の画廊』の超現実的な静寂を無残に引き裂く。

質量と物質の法則を完全に嘲笑うかのような閃光とともに、その身体は禍々しく膨張し、歪み、全長五十メートルを超える巨大な異形の不死鳥アノマリーへと変貌を遂げた。宇宙の怪鳥は皇帝に向かって急降下し、純粋なエネルギーで構成された巨大な嘴を開いて、彼を丸呑みにしようと襲い掛かる。

皇帝は絶対的な滑らかさで後方へと退いた。

方向感覚も失われ、次元の境界すらも溶け落ちるこの白い虚無空間において、身を隠す場所などどこにもない。完全なる白は、あらゆる動きと微細な変化を容赦なく曝け出すからだ。

だが、太陽軌道帝国の暴君は、そもそも身を隠す場所など求めてはいなかった。無重力の虚無の中を悠然と漂い、まるで自宮の庭園を散歩するかのような無駄のない計算し尽くされた動きで、怪物の必殺の一撃を軽々と躱していく。

絶対者の無敵の傲慢さを滲ませたサディスティックな笑みがその唇に浮かび、絶対的な虚無の中に彼の声が谺した。

「心から愉しいぞ。我が帝国において、余に刃を向ける勇気を持つ者など今まで存在しなかったからな」

空間そのものを引き裂きかねない別の一撃を紙一重で躱し、皇帝はひどく見下したような、威圧的な声で続けた。

「少し遊んでやろう……貴様に攻撃を許す。もし一撃でも余に触れることができたなら、貴様を『敵』として認めてやろう」

その絶対的な挑発に対し、異形アノマリーは激怒をもって応じた。

巨大な質量が唐突に収縮し、極限まで圧縮されたエネルギーの弾丸へと変貌すると、光の速度で皇帝の胸を真っ直ぐに貫こうと飛翔する。

皇帝は上体をわずか一ミリだけ逸らし、それを完璧に回避した。

彼を仕損じた瞬間、存在は時空を歪めながら細長く伸び、皇帝の脇腹を掠めるほどの致命的な緑色のレーザー光線へと変化する。そして第三の攻撃として、巨大な宇宙の竜へと膨張し、その顎を大きく開いて、この次元の法則に属さない破滅的なエネルギー弾の雨を皇帝へと降らせた。


皇帝はその猛攻を極めて冷ややかな瞳で観察しながら、心中で誇り高く戦況を分析していた。

(速いな……アカシャの限界を超えた速度だ。この宇宙で、余以外の者が相手だったなら、瞬きする間に粉砕されていたことだろう。奴の力は本物だ……だが、少し退屈してきたな)

皇帝の顔から笑みが消え失せ、代わりに完全なる破滅を告げる氷のような冷酷さが宿った。

カミールの創り出したこの超現実的な次元に空気は存在しない。にもかかわらず、彼の肉体から放たれる恐るべきエーテルの重圧によって、皇帝の漆黒の外套がゆっくりと翻り始めた。それは、真の「戦闘」の開始を告げる合図であった。

彼は短く、断定的な言葉を紡ぐ。

「もうよい。貴様には十分な機会を与えた……次は余の番だ」

皇帝は、存在から消失した。

高速で移動したのではない。初めからそこにいなかったかのように、完全に「消え失せた」のだ。

光の存在がその消失を理解するよりも早く、自らの頭頂部に墜落するような圧倒的な重圧を感じ取った。皇帝は完全なる虚無から、存在の真上に唐突に顕現したのだ。

絶対的な侮蔑を示すかのように両手をズボンのポケットに突っ込んだまま、その重々しい軍靴で光の存在の頭蓋を情け容赦なく踏み躙っている。

次の瞬き一つする間に皇帝は再び消失し、今度は存在の真下へと現れた。

顎を完璧に捉える凶悪で直接的な蹴り上げ。その一撃は宇宙的実体の顎を完全に粉砕し、激痛と驚愕に身悶えする怪物を、白い虚無の遥か上空へとカチ上げた。

皇帝は、バランスを崩して落下していく犠牲者の遥か上方へと軽やかに浮かび上がった。

慈悲の欠片もない氷の瞳で光の存在を見下ろし、冷徹に言い放つ。

「極めて例外的な化け物であった。だが、余との戦いはここまでだ」

皇帝は右手をポケットから引き抜き、敗北した存在へとその掌を向けた。

高密度のエネルギーが掌に集中し、白の次元の根底を揺るがし、現実の織り目を強制的に屈伏させるほどの声で叫んだ。

「『服従のアクシオム』!」

圧倒的な光の奔流が掌から爆発した。それは白い虚無を完全に飲み込み、アノマリーが示し得るあらゆる抵抗を完全に消し去った。

超現実の次元が引き裂かれ、完全なる白が晴れていく。

皇帝は、現実世界――王宮のひび割れた大理石の床へと再びその足を下ろした。

周囲に立ち込めていた煙と光が晴れ、固唾を呑んで見守っていた愛妃たちの視線が一斉に床へと注がれる。

そこには、血に染まった皇帝の軍靴の傍らで……先ほどまでの恐るべき宇宙的実体の姿は跡形もなく消え去り、代わりに「小さな緑色の猫」が、新たな主人の足元で丸くなって眠っていた。


【読者の皆様へ:今話のクエスチョン】

本章をお読みになって、専門用語に混乱したりはしませんでしたか? この戦いの最中にキャラクターたちが使った用語の意味について、皆さんの考察セオリーをぜひコメント欄で教えてください!


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