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未来の暴君たち(前編)

【章のあらすじ:未来からの客人が隠し持っていた真実が、ついに暴かれる】


ドゴォォォォンッ!!


皇帝と新たな花嫁の魂を揺るがす言葉を遺し、ミライ・アルタイルは皇帝の御前、冷たい大理石の床へと崩れ落ちた。


ウィィィン……ガシャン!

即座に帝国の医療ドローンが飛来し、血塗れの身体を拾い上げると、宮殿の医療区画へと運び去っていく。


ガァァァァァンッ!!

帝国会議室の巨大な金属扉が閉ざされ、中にいる者たちを宇宙から隔離した。


新たに制定された帝国会議プロトコルが、絶対の厳格さをもって施行される。

黒曜石の円卓を囲むようにして、皇帝と妻たちは対称的で厳かな陣形を組んで着席していた。


円卓の中心には、底無しの暗闇のごとく皇帝が座している。

彼は足を組み、静かなる怒りに満ちた瞳で妻たちを見渡していた。先ほどの言葉が、彼の胸中で業火のように煮えたぎっている。


その右腕となる位置。

第一夫人ヴェロニカは槍のように背筋を伸ばし、ミライ・アルタイルから得られたあらゆる情報が記された書類を、冷徹に整理し分類していた。


左腕となる位置。

第九夫人であり最後の妻、オリア。彼女は自らのお腹にそっと触れ、極度の緊張で心臓を早鐘のように打たせていた。


そこから先は、帝国の序列を反映する完璧な対称を成して妻たちが配置されている。


二列目の右側。

イヴは、ミライ・アルタイルから採取されたDNAとエーテルのサンプルを、鋭い分析の目で見つめている。

その対面、左側。

ロキシーは怒りで牙を剥き出しにし、円卓を拳で殴りつけていた。


三列目の右側。

レイラが、『毒の華』がたっぷりと香るコーヒーを優雅に啜っている。

対する左側。

カオリは無表情のまま刀を抜き放ち、次の死闘にしか興味がないと言わんばかりに刃を研ぎ澄ましていた。


四列目の右側。

カミーユが夢見るような瞳で天井を見つめ、完全に現実から遊離した思考の海を漂っている。

対する左側。

イザベラが手元の端末を操作し、ここ一週間の帝国の視聴率データを苛立たしげに確認していた。


そして最後尾……皇帝の真正面に位置する席。

第八夫人セリーヌは、いつものように深い眠りに落ちていた。


「ニャァァァ……ニャァァァ」

重苦しい空気の中、猫の姿をしたニクシアが気だるげに円卓の中央を闊歩していた。

わざと妻たちの前を横切ってはちょっかいを出し、部屋を絞め殺すような緊張感など、全く意に介していない。


「陛下! あんなおとぎ話、どうして信じられるっていうの!?」


沈黙を破ったのはイザベラだった。

彼女は席から立ち上がり、黒曜石の円卓に両手をついて金切り声を上げた。


レイラがコーヒーカップをそっと置き、頬に右手を当てながら皇帝へと身を乗り出す。


「あらあら、愛しの旦那様? 貴方はあんな戯言を信じるほど愚かではないと思っていましたわ。まさか、私たちの子を疑うおつもりで?」

レイラは毒を帯びた言葉を、皇帝と他の妻たちへ向けて優雅に撒き散らす。

「若い花嫁との甘い蜜月で、頭ではなく下半身で思考するようになってしまったのではありませんこと?」


イヴが分析端末を上に掲げた。眼鏡のレンズが、冷たい白い光を反射する。


「自らを『ミライ・アルタイル』と名乗るあの男の証言を裏付ける唯一の証拠が、ここにあります」

彼女は感情を完全に排した声で続けた。

「しかし、これだけでは不十分です。たとえ彼が、陛下とオリアのDNAとエーテル波長を保持していたとしても、これが高度なシミュレーションや、ディープフェイクである可能性は否定できません。ザイロスの星を破壊した私たちに対し、どこかの敵対勢力が仕掛けた罠かもしれません」


レイラが口元を扇で隠し、満面の笑みで応じる。

「左の席にいるおバカさん二人にも分かるように、もっと簡単な言葉で言ってくださる?」


イヴは目の前のロキシーとカオリを見やり、淡々と答える。

「つまり、私が言いたいのは……これは——」


「パラドックス(矛盾の幻影)の一種だって言いたいんだろ!!」

「パラドックス(矛盾の幻影)の類でござるな!!」


二人は同時に席を立ち、ロキシーは怒号を上げ、カオリは静かなる気迫と共に叫んだ。


「ええ……まあ、そう解釈していただいて構いません」

イヴはこれ以上、何時間もかけて彼女たちに原理を説明する労力を放棄し、静かに頷いた。


ドサッ……。

カミーユが床に崩れ落ちるように座り込み、虚ろな目を向けたままあくびをした。


「あぁ……それがただの退屈なパラドックス(矛盾の幻影)だとしたら、どんなに味気ないことかしら」

彼女は恍惚とした表情を浮かべる。

「想像してみて? もし、私たちの子どもたちが本当に殺し合い、後継者の座を巡って血みどろの争いを繰り広げたとしたら……どれほど壮大で美しい悲劇的ドラマになることか。私の娘や、他の兄弟たちの手によって切り落とされた『シーザの生首』……あぁ、想像しただけで、キャンバスに絵筆を走らせたくなってくるわ」


ビキッ……!

ヴェロニカが弾かれたように立ち上がる。その額には、明確な怒りの青筋が浮かんでいた。


「貴様のその病的な妄想から、私の息子を切り離せ、カミーユ」

絶対的な冷気を纏った声で、彼女は吐き捨てた。


ミャァァァオ!

カミーユが言い返すよりも早く、猫の姿をしたニクシアが軽やかに円卓を蹴った。

そして意図的に、深い眠りに落ちていたセリーヌの頭上へと着地し、その小さな爪で彼女の緑色の髪を踏みつける。


「いたっ……」

セリーヌは極度の気だるさの中で目をこすった。

愛らしくあくびをして姿勢を正すと、膝の上に丸まったニクシアの背中を撫でる。


「んん……貴女たち、少し騒がしいです……庭の植物たちの根っこまで、この喧噪に泣いていますよ……」


そして、セリーヌはゆっくりと、ミライ・アルタイルが運び出されていった金属扉へと視線を向けた。

その瞬間、彼女の瞳から微睡みが完全に消え去り、底知れぬ哀愁が宿る。


「イヴ、可愛い人……」

セリーヌは、この上なく優しく、穏やかな声で紡いだ。

「機械や幻影には、血を流す魂なんてありません」


イヴの眼鏡の奥で、瞳がわずかに見開かれる。セリーヌはニクシアを撫で続けながら言った。


「あの人は……その魂をズタズタに引き裂かれ、内に宿る『アカシャ(宇宙の記録)』のエネルギーが、本物の悲痛の涙を流していました。あの人が纏っているアカシャは、今、オリアのお腹の中にいる赤ん坊の持つそれと、全く同じものです……。彼は幻なんかじゃありません。本物です」


円卓を、重い沈黙が支配した。


もしセリーヌの言葉が真実だとするならば……。

あの恐るべき未来の厄災は、現実に起こるということ。

そして自分たちの息子や娘たちが、狂気に満ちた暴君と化し、皇帝と自分たちに牙を剥くということだ!


ダァァァァンッ!

イザベラが再び円卓を叩き、現実逃避するかのような強烈な皮肉を込めて笑い飛ばした。


「チープすぎるわ! 私たちの子どもたちが人殺しのバケモノになって、この女の息子だけが……!」

イザベラはオリアを軽蔑の眼差しで指差す。

「この女の息子だけが、生き残って私たちに真実を語る『ヒーロー』になったって言うの!?」


レイラが扇の奥で意地悪く微笑む。


「その通りですわね。実によく出来た三文芝居ですこと……。自分の息子だけを唯一の正当な後継者に仕立て上げ、私たちの子どもたち全員を悪役に貶める。入内したての若い花嫁にしては、なかなか悪くない計略ですわ」


(もう……たくさんよ!!)


オリアは限界だった。

妊娠によるホルモンの乱れ、我が子だと直感したあの傷だらけの男への恐怖と慈愛、そして血を沸き立たせる『アノマリー(オリオンの純能)』の力……。

そのすべてが限界点を超え、彼女を爆発させた。


バァァァァンッ!!

オリアは突如として立ち上がり、かつて見せたことのないほどの力で、両手で円卓を叩きつけた。

その瞳が、鮮烈な青とエメラルドの光を放って激しく発光する。


「彼が私の息子ですわ!!」

オリアは、今まで誰にも見せたことのない怒りと涙を交えて絶叫した。

「貴女たちの否定も、嘲笑もどうでもいい……! あの人は、私の胎内から生まれたの! 私は彼を信じますわ!」


チャキッ……。

オリアの暴言と無礼な態度に反応し、カオリが即座に刀の柄に手をかけた。


一触即発。

会議室は今にも、妻たちによる内乱の戦場と化そうとしていた。


「——控えよ」


絶対的な威厳を孕んだ、低く重い一言がすべてを終わらせた。


喧噪が嘘のように掻き消える。

妻たちは一斉に、その声の主——誰よりもよく知る、絶対者の元へと視線を向けた。


ドゴォォォォォンッ!!!

皇帝自らが円卓に拳を叩きつけると、黒曜石のテーブルの一部が粉々に砕け散った。


同時に、圧倒的な『服従のアクシオム(絶対支配の理)』が部屋中を埋め尽くし、その場にいる全員の呼吸を強制的に奪い取る。

静まり返る空間で、皇帝は絶対の宣告を下した。


「——もうよい。余は、信じる」



【作者ノート】

シリーズを継続していくため、皆様からの厚いご支援、そしてブックマークや評価、コメント(好意的なものでも批判的なものでも構いません)での強い反応を必要としています。応援していただけますと幸いです。

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