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ソクラテス裁判

【章のあらすじ:ニクシアとヴェロニカ対ソクラテスの戦いが幕を開ける。果たして勝者はどちらか?】


化学的なスモッグの帳の向こう側、また別の次元空間において。

空気は腐敗し、古びたオイルと揮発性の有毒ガスが充満している。そこは長い年月に見捨てられた、廃墟の実験室ラボのようなおぞましい空間だった。


その荒廃の中心に、ヴェロニカは立っていた。


彼女の厳格なフォーマルスーツは、この場所の汚濁に一切影響されていない。

その氷のような双眸は、眼前に立つ、極端に痩せ細り背を丸めたサイボーグを射抜いていた。


彼女の傍らで、小さな仔猫の姿が掻き消える。


ゴキッ……メキィッ!

筋肉が膨張し、鋭利な牙が剥き出しになる。

ニクシアは一瞬にして、その恐るべき真の姿へと変貌を遂げた。巨大で凶暴な、緑色の巨狼へと。

その巨体からは『純粋なる異常(純粋なるアノマリー)』のエネルギーが放射され、触れるだけで周囲の毒素を喰らい尽くしていく。


ヴェロニカは指先で眼鏡のフレームを押し上げ、刃のように冷酷な声で沈黙を切り裂いた。


「これまで見てきた屑鉄のザイロスの中で、宇宙の記録アカシャのオーラを感じるのはあなただけです」


ソクラテスは首を、不自然な鋭角へと傾けた。

耳から耳まで裂けたような金属の笑みが、不気味に広がる。


「仕事狂いの夫人と、オリオンの飼い猫が揃い踏みというわけかな! キヤハハハハハッ!」


吐き気を催すような声で笑いながら、奴は錆びた両手を擦り合わせ、ゆっくりと彼女たちへ歩み寄る。


「私が諸君を探し出し……哲学者たちに戦闘を割り振ったのですよ。この私こそが、七人の哲学者の中で最も賢き者ですからね」


その瞬間、ニクシアがヴェロニカに向かって巨大な首を縦に振った。

獣性を帯びた深い残響を響かせながら、テレパシーで語りかけてくる。


(この化け物……一筋縄ではいかないぞ……)


ソクラテスは痩せこけた腕を持ち上げ、金属の人差し指を彼女たちに突きつけた。

その両眼が、底知れぬ悪意でギラリと光る。


「私はね、前置きというものがどうにも好きになれなくてね」


「裁判のエコー(ソクラテス裁判のエコー)」


ゴォォォォォォンッ!


奴の模倣エコー能力は、絶対法則アクシオムのメカニズムを機械的にシミュレートするものだった。

実験室が蝋のようにドロドロと溶け落ち、空間の次元が完全に歪んでいく。そして何もない虚空から、回転する歯車が無数に埋め込まれた、木と金属の壁がそびえ立った。


戦場は、薄暗くおぞましい法廷へと姿を変えた。

陪審員席には誰もいない。完全なる空席。

そしてソクラテスは今、高くそびえる裁判官の席に立ち、彼女たちを見下ろしている。その首は相変わらず、病的な鋭角に曲がったままだ。


だが、捕食者の本能は、ニクシアに待機という猶予を与えなかった。

『純粋なる異常(純粋なるアノマリー)』は、この宇宙のいかなる法則にも縛られない。ならば、幻影の法廷など知ったことではない。


バァァァァァンッ!


緑の巨狼の足元で、床が爆発するように砕け散った。

ニクシアは音速を超える凄まじい速度で突進し、狂った裁判官をバラバラに引き裂こうと、巨大なあぎとを大きく開く。


しかし、ソクラテスは……。

ただ、不気味に笑っていた。

ニクシアが跳躍し、空中に躍り出たその瞬間、ソクラテスは嘲るような声で宣告した。


「おや? 獣の本能のままに襲いかかるとは……だがこの法廷において、本能など『証拠』としては受理されませんよ」


ソクラテスは前屈みになり、致命的な問いを投げかける。


「教えてくれたまえ。私を捕食するための『論理的根拠』とは何かな?」


ピタァァァッ!


ニクシアの巨体が、空中で完全に凍りついた。

銀河をも消し去るエネルギーを秘めた巨狼が、まるで目に見えない虚無の壁に激突したかのように、唐突に静止する。


ニクシアが一切の論理的推論なしに攻撃したからだ。

純粋な本能のみに依存する原初の存在であるがゆえに、法廷の法則は彼女の攻撃を『非論理的行為』と断定したのである。


ドゴォォォォォンッ!


法廷の天井から、次元を押し潰すような凄まじい重圧が降り注いだ。

緑の巨狼ニクシアは無慈悲に叩き潰され、その巨体を法廷の床へと縫い付けられる。

「グルルルルルァァッ!」

ニクシアは怒りに満ちた咆哮を上げ、もがこうとしたが、力を込めるたびに圧倒的な圧力が彼女の骨を軋ませた。


ヴェロニカは眼鏡の奥で、冷徹に目を細めた。


(筋力……いえ、『純粋なる異常(純粋なるアノマリー)』のエネルギーすら、ここでは無意味。この空間の法則は、言葉と論理のみによって支配されている!)


第一夫人であるヴェロニカが、このような戯言をいつまでも許すはずがなかった。

彼女は一定の足取りで前へ進み出ると、いつもの厳格でプロフェッショナルな冷淡さで手を上げ、眼鏡の位置を直した。


「秩序のアクシオム」


フラァァァァッシュ!


ヴェロニカの全身から、緑色に発光する幾何学的なネットワークが展開され、法廷全体を覆い尽くしていく。

宇宙の記録アカシャの力が、法廷の歯車と壁を分子レベルで解体し始めた。ソクラテスの能力の上に『秩序』を強制し、法廷を内側から破壊しようというのだ。


その行為を見たソクラテスは、ヒステリックな笑い声を上げた。


「キヤハハハハハッ! 素晴らしい! 実に素晴らしいですよ!」


奴は裁判官の席に両手を叩きつけ、歪んだ顔を真っ直ぐにヴェロニカへ向ける。

そして、猛毒の短剣のような問いを突き刺した。


「あなたは絶対法則アクシオムによって『秩序』を強制している。違いますか? しかし……法廷とは、これ以上ない『秩序の極致』ではないのですか?」


死んだような双眸が極限まで見開かれ、奴は最悪の罠を完成させる。


「私の法廷を破壊しようとするその試み……それこそが、あなたの『秩序のアクシオム』の理念に矛盾しているのですよ!」


ビキィィィィッ!


その問いが放たれた瞬間、計算外の事象が発生した。

『秩序のアクシオム』が、論理的矛盾の罠に完全に絡め取られたのだ。

秩序を絶対視するはずの法則が、秩序を体現する法廷を破壊するなど、どうして許されようか?


緑色に輝いていた幾何学ネットワークが、色褪せた破片へと変わり、砕けたガラスのようにパラパラと崩れ落ちる。

絶対法則アクシオムは完全に無効化された。だが、最悪なのはそれだけではない。その『反動』だ。


ヴェロニカの膨大なエネルギーが、そのまま彼女自身へと跳ね返ってきたのである。


「ぐっ……!!」


第一夫人は、暴力的なまでに後ろへと一歩後退した。

開戦以来初めて、彼女の口から赤黒い血の雫がこぼれ落ち、純白のフォーマルスーツを汚す。


ピキッ……。

右目のレンズにひびが入り、驚愕に見開かれた瞳が露わになる。重圧による肉体的な激痛が、彼女を襲っていた。


ソクラテスが裁判席から降りてくる。

木の階段を踏むその足音は、処刑を告げる太鼓の音のように法廷に響き渡っていた。

神経を逆撫でするような遅さで歩みを進め、ヴェロニカと、床に縫い付けられた緑の巨狼の中間地点でピタリと立ち止まる。


奴はニクシアに向けて人差し指を突き出し、どこまでも暗く、狡猾な笑みを浮かべてヴェロニカを振り返った。


「証言台に『秩序』を召喚しましょう!」


耳障りな声が、法廷の隅々にまで反響する。それは、彼女の精神を破壊するための決定的な一撃だった。


「教えてくれたまえ、ヴェロニカ君……。『整頓と秩序』を絶対とするあなたのような者が、どうして『純粋なる異常(純粋なるアノマリー)』などと同盟を結べるのかな? その存在は、完全なるイレギュラー、突然変異、そして宇宙的規模の『混沌』そのものではないですか!」


ヴェロニカの双眸が大きく見開かれる。


彼女にとって、その答えは明白だった。すべての『秩序』はただ一つ、皇帝陛下への忠誠のために構築されている。ゆえに、皇帝陛下に仕えるあらゆる道具は、必然的に『秩序』に奉仕する。

……だが、その理屈ロジックは、この法廷においては決して赦容されない。


ソクラテスは声を張り上げた。その言葉は、第一夫人の魂の深淵と、絶対法則アクシオムの基盤そのものを粉砕する。


「混沌との同盟……それこそが、あなたを『偽善者』に貶めているのですよ!!」


ガァァァァァンッ!


虚空から木製のガベルを取り出し、ソクラテスは眼前にある手摺りを、空間が揺れるほどの力で叩きつけた。


「有罪判決を下す! 貴様ら二人に、死に至るまでの苦痛を命じる!」


ドゴォォォォォォォンッ!


重圧が数十倍にも膨れ上がった。

心身を引き裂くような圧倒的な圧力に、もはやヴェロニカは耐えることができなかった。

皇帝陛下以外、何者にも膝を屈したことのない第一夫人が、ついに法廷の床に崩れ落ち、血を吐きながら荒い息を漏らす。

哲学者の下した判決により、彼女の絶対法則アクシオムは完全に機能停止に陥っていた。


ソクラテスは、這いつくばるヴェロニカと拘束されたニクシアを見下ろしながら、悠然と立っていた。

彼自身の舞台ステージにおいて、奴こそが唯一の勝者だった。


極端に細い手を、引き裂かれた白衣のポケットに突っ込み、古い血にまみれた、錆びついた医療用メスをゆっくりと引き抜く。

再び不気味な角度に首を傾げ、ひび割れたレンズ越しに、絶望的な状況に陥ったヴェロニカの顔を凝視した。

耳まで裂けたような笑みを浮かべ、氷のように冷酷な最後の言葉を宣告する。


「閉廷です」


薄暗い法廷の中で、錆びたメスが鈍い光を放ちながら振り上げられた。


「判決……偽善、詐欺、および虚偽罪による有罪」


ゆっくりとした死を与えるため、刃を構えながら最後の一歩を踏み出す。


「さあ、解剖の時間ですよ……。その『傲慢』が、内側から見るとどんな形をしているのか、じっくり拝見させてもらいましょうか」


この暗き法廷において、第三の哲学者こそが、絶対的で唯一の勝者であった。


【読者の皆様へ:私たちの物語は、ついに10万文字の大台を突破いたしました! ぜひ、率直なレビュー、コメント、そしてブックマークでの応援をよろしくお願いいたします。

さて、今回の質問です。ヴェロニカは一体どのような方法で、この絶望的な論理のジレンマを打ち破ると思いますか?】

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