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ヤンデレ妻の狂気

【章のあらすじ:前章で香織の前に現れた新たな脅威。果たして、その正体とは?】


香織は視線を上げ、あふれ出すイザベラのオーラと、その恐ろしいヤンデレの眼差しを見た。


泥と埃にまみれた彼女の姿を見て、即座に空気を察する。


(これは彼女の『発作』でござる……! あの馬鹿、とんでもない怪物を解き放ちおって……!)


生命の光を完全に失い、巨大な殺意とサディズムを叫ぶイザベラの瞳を前に、香織は内心で恐怖戦慄した。


「キャハハハハハッ!」


一方その頃、ディオゲネスは猿のように跳ね回り、巨大な錆びついたハンマーをデタラメに地面に叩きつけていた。


マディ・ロール将軍は冷徹にその乱撃を回避し続ける。


「キャハハハ! どうした肉袋ども? 娯楽はどこへ消えた? 貴様らの遊びはこれでおしまいかァ?」


虚空から現れた香織の姿を前に、ディオゲネスは唐突に動きを止めた。


「おや? 新鮮な肉か? キャハハハ! こっちへ来い、侍ィ!」


ディオゲネスは宙高く跳躍し、巨大なハンマーを振りかぶった。香織の頭を叩き潰し、肉塊に変えるつもりだ。


イザベラは彼女を救おうと動かなかった。その場で小刻みに震えていたのだ。恐怖からではない。オーラを凄惨なものに変容させるほどの、純粋な『怒り』によって。


(アタシのドレスを汚し……メイクを台無しにした……ッ! この醜いクズ鉄、絶対に存在ごと消し去ってやる……!)


巨大なハンマーが香織を押し潰そうと迫る中、彼女は極度の疲労からくる冷淡で無関心な瞳を向けた。


ゼノンに対して共鳴のアクシオムを発動した後で、エーテルは完全に底を突いている。

だが、吠えるだけの狂犬の相手に、大きな力など必要ない。


刀の鍔に親指を添え、最小限かつ神速の一挙動で——


共鳴絶断レゾナンス・スラッシュ


チィィィィンッ!


細い銀の閃光が、光の糸となって虚空を裂いた。


香織が狙ったのはディオゲネスの肉体ではない。奴が誇るハンマーの『首』だ。


空中で、巨大なハンマーの頭部が柄から完全に両断され、ズドォォォォンッ! と闘技場を揺るがす轟音を立てて墜落した。


「エエェッ!?」


突如として武器の重みを失い、ディオゲネスは空中でバランスを崩した。

そのまま闘技場の中央へ顔面から落下し、土煙の中で無様に転げ回る。


「オ、オレ様のハンマー! 何しやがった、このクソアマ——」


香織は土煙を避けるように一歩後退し、ゆっくりと刀を鞘に納めた。


「貴様の姿、おぞましいでござるな……。拙者の刃が汚れた」


そしてイザベラの方へ視線を向け、表面上は冷淡に、しかし内面では戦慄しながら告げた。


「貴殿の戦いに干渉して申し訳ない。残りは任せるでござるよ、イザベラ殿」


香織は完全に後退し、イザベラの怒りを避けるために舞台ステージを丸ごと明け渡した。


安全な距離に立ち、静かな瞳で監視を続ける。恐ろしいオーラの標的が自分ではないことに、内心で安堵の鼓動を鳴らしながら。


「ぶ、ぶっ殺してやる! 貴様の肉を引裂いて、俺の犬どもの燃料にしてやるぜ!」


ディオゲネスは這い上がる。断線したコードから青い火花が散り、錆びた関節から黒いオイルが漏れ出していた。


遠ざかる香織へ振り返り、歪な顎を開いて耳障りな機械の咆哮を放つ。


金属の筋肉が異様に膨張し、『狂犬のエコー』を起動し始めた。いかなる技術も持たない、純粋な野蛮さだけに依存した予測不能な動きで跳躍しようとした、その時。


奴の足が地面から離れるよりも早く、巨大な影が頭上の光を遮った。

マディ・ロール将軍である。


将軍は上空から急降下し、重厚な軍靴でディオゲネスの背中を無慈悲に踏み抜いた。


ドゴォォォンッ!


圧倒的な膂力によって、ディオゲネスの顔面が再び闘技場の土へと沈み込む。大地が揺れ、背面の装甲がクズ鉄のように砕け散った。


「どきやがれ、この腐肉がァ!」


ディオゲネスは身をよじり、錆びた爪をマディ・ロールの足に突き立てようとわめく。


将軍は奴の上に立ち尽くし、眉一つ動かさず、ひたすらに哀れな存在を見下ろしていた。

ディオゲネスが足掻く中、マディ・ロールは静かな内的独白へと沈み、開戦からの軌跡を分析する。


(この戦闘中……私はずっと疑問に思っていた)


マディ・ロールはディオゲネスの脊柱への圧力を強めながら思考する。


(我が帝国における数多の標的の中から……玉座に座す皇帝陛下や、『純粋なるアクシオム』を宿す妃殿下たちを差し置いて……なぜこの哲学者は、わざわざ私を狙ったのか、と)


ディオゲネスが引き起こした無秩序な惨状を見渡し、将軍は答えを悟る。


(なるほど、理解した……。この哲学者は『秩序』を憎み、支配的な『混沌』を愛しているのだ。ゆえに、規律の象徴である私や、美を司る妃殿下が標的となったというわけか)


「貴様の混沌の哲学は……結局、何の役にも立たなかったな」


マディ・ロールの冷たく重厚な声が、戦場に響き渡る。

そして将軍は高く手を挙げ、精鋭部隊が待ち焦がれていた合図を送った。


その号令に応え、重装甲機械部隊と精鋭歩兵たちが一斉に動く。

彼らはピタゴラスの防壁に阻まれていたが、先ほどの香織の斬撃によって解放され、ザイロス軍の残党を粉砕し終えていたのだ。


ディオゲネスの周囲に幻影の三日月を形成していた両翼が、突如として猛烈な勢いで閉ざされる。


ゴッシャァァァァァッ!


「ギャアアアアッ!」


重装甲の盾が、一瞬にしてディオゲネスの両脇を挟み潰した。機械の腕がひしゃげ、膝の関節が粉々に砕け散る。


完全に地面に縫い付けられ、クズ鉄の体を一インチたりとも動かせなくなった哲学者は、まるで潰された虫のように絶叫した。


マディ・ロールは一歩下がり、軍服の襟を正すと、背後へ向かって静かに一礼した。


舞台ステージの準備は整いました。イザベラ妃殿下」


戦場に完全なる静寂が降りた。

その沈黙を破るのは、ゆっくりとした、リズミカルで、そして致命的なハイヒールの足音だけだった。


カツッ……カツッ……。


イザベラが歩み出る。

彼女を包むオーラは、いつもの陽気なアイドルのそれとは全く異なっていた。

信仰のドグマが、どす黒いピンク色の煙となって全身から漏れ出している。


彼女は地面に磔にされたディオゲネスの前に立ち止まった。

かつて芸術的な傑作であった自らのドレスを見下ろし、その色彩の調和を汚す黒いオイルと埃のシミを凝視する。そして、視線をディオゲネスの顔面へと移した。


「……知ってるかしら」


イザベラは純粋なサディズムを滴らせながら、低く冷酷な声で語りかける。


「今この瞬間も、天のあまのがわにいる何十億ものフォロワーたちが、アタシのライブ配信を見てるってこと」


「キャハハ……なら、オレ様がテメェの綺麗な顔をぶち撒けるところを、見物させてや——」


メキィィィッ!


イザベラは鋭利なピンヒールでディオゲネスの機械の口を直接踏み躙り、金属の歯を粉砕して完全に黙らせた。


「アンタはアタシの衣装を汚しただけじゃない……。アタシの完璧なルックスを台無しにして、みんなの前でビジュアルを歪めたの。アンタの存在そのものが……アタシにとっては絶対に許せないバグ(エラー)なのよ」


イザベラは少し身をかがめ、丁寧にネイルが施された華奢な手を、奴の錆びついた胸板にそっと添えた。


その瞬間、ディオゲネスの瞳孔が限界まで見開かれた。

開戦以来初めて……このシニカルな哲学者は、底知れぬ恐怖を味わったのだ。


それは、奴のクズ鉄の体で吸収できるような生易しいエネルギーではない。何十億という人類の信仰ドグマの密度が、ただ一点に圧縮されていた。


イザベラは恐ろしいヤンデレの笑みを浮かべ、明確な殺意で瞳をギラつかせる。


「さようなら……薄汚い駄犬」


「爆発のドグマ(ドグマ・エクスプロージョン)!」


カッ……!!


膨大なドグマのエネルギーがディオゲネスの骨格内部に集中し、次の瞬間、光り輝くピンクと黄金の球体となって一気に膨張した。


ドゴォォォォォンッ!


眩い球体はディオゲネスを完全に飲み込み、その錆びた肉体も、配線も、存在そのものを、塵一つ残さず完全に蒸発させた。


ピンク色の光の柱がザイロス星の空を貫くように立ち昇り、分厚い雲を帝国の色彩で染め上げる。

それはまるで、ショーの終幕を告げる巨大な花火のようだった。


光が収まると、第六の哲学者の姿はどこにもなく、ただ滑らかで円形にえぐられたクレーターだけが残されていた。


その中心に立つイザベラは、肩の埃を軽く払うと、宙に浮かぶ撮影用ドローンに向かって振り返る。

そして、いつもの最高に輝くアイドルの笑顔を作り、まるで何事もなかったかのように、あざとく無邪気なウインクを飛ばした。


ディオゲネスは討伐された……最も優雅で、最も洗練されたやり方で。



【読者への問いかけ:私自身、書きながらイザベラのことが恐ろしくなりました。皆さんはどう感じましたか?】


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